Report16. 魔力の代償

一方で現世。


イサミが倒れたとの知らせを受けた日比谷は、この日行われていた著名な発明家たちが集う交流会を早退し、車で自身の研究所へと向かっていた。


「ええい!もっとスピードは出せないのか羽倉!」


日比谷はドライバーの羽倉に文句を垂れる。


「心配なのはわかるが、公道でこれ以上の速度は出せねぇよ!ギリギリいっぱいだ!」


「くそっ!」


羽倉の怒声に対して、軽く舌打ちした日比谷は車窓から外の景色を眺め、こみ上げてくる不安を紛らわす。


「頼むから無事でいてくれよ……イサミ…!」


日比谷は、祈るように小さく呟くのであった。


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研究所に到着するや否や、日比谷は車のドアを開け、全速力で実験室へと向かう。

実験室の扉を勢いよく開け、ゼーゼーと肩で息をしながら、監視を行っていたナナコに確認を取る。


「ナナコ!現在の状況はどうなっている!イサミは無事なのか!?」


ナナコは日比谷の目をじっと見て、神妙な面持ちで話し始めた。


「……落ち着いて聞いて下さいマスター。イサミは……」


「ああ。イサミは?どうなった?」


日比谷はゴクリと唾を飲む。


「バッテリー切れにより、強制的にスリープモードに入りました。恐らくあと一時間もすれば目を覚ますでしょう。」


それを聞いた日比谷はホッと胸を撫で下ろした。


「はーぁ、なんだ良かった。ただのバッテリー切れか。ナナコが意味ありげな顔して言うもんだから、致命的な故障かと思ってヒヤヒヤしたぞ。」


「申し訳ございませんでした、マスター。」


ナナコは日比谷に対して深々と頭を下げて謝罪した。


「日比谷、お前という奴は何もわかってねーなー。」


日比谷より少し遅れて、羽倉が実験室に到着する。


「何もわかっていないというのは、一体どういう意味だ羽倉?」


「ナナコちゃんがお前に出してるサインのことだよ。」


「サイン…?」


「そうさ。お前ここ最近はイサミばっかりで、ナナコちゃんに全然構ってあげられてないだろ?

つまり、ヤキモチ妬いてんのさ。少しでもお前に振り向いてもらえるように気を引いてんのがわかんねぇのかよ?」


「何?そうだったのか、それならそうと言ってくれればいいじゃないかナナコ。」


羽倉の言ったことが図星だったのか、ナナコの頭からは蒸気が立ち昇る。

その後ナナコは無言でツカツカと羽倉の前に歩み寄ると、強めのボディブローを叩き込んだ。


「ぐふぇえぇ!な、なんで…ナナコ…ちゃん……」


羽倉は強烈な一撃に悶絶し、たまらずその場に崩れ落ちる。


「黙りなさい、このゴミクズ野郎。」


ナナコは蔑むような目で羽倉を見下ろした。


「ゴミを見るような目つきのナナコちゃんも…アリ…だな。あ…ありがとうございました…ガクッ」


そんなナナコを見た羽倉は何故か満足そうな笑みを浮かべ、そのまま気を失うのであった。


そしてナナコは何事も無かったかのように日比谷の方に向き直り、再び深々と頭を下げる。


「お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ございませんでしたマスター。」


「いや…いい。それより、いつも私の研究を手伝ってくれてありがとな。ナナコがいつも側にいてサポートしてくれることを当たり前のように思っていたのかもしれない。

でも本当に感謝しているんだ。だから、たまにはワガママ言ったっていいんだぞ。私にできることならなんだってしてやるさ。」


「なんでも…ですか、マスター?」


「ああ、何でも言ってみろ。」


「で…では、その…私の、マスターへの気持ちを伝えてもよろしいでしょうか…?」


「そんなんでいいのか?いくらでも聞いてやるとも。」


ナナコは、おずおずと照れくさそうな仕草をしていたが、意を決して日比谷に告白をし始める。


「わ、私…今までずっとマスターのことがす…す…ガッ…ガガッ」


「すガ?なんだそれは?」


ボンッ!


ナナコの身体から小さな爆発音が鳴り、ナナコも羽倉同様その場に崩れ落ちる。


慌てた日比谷は咄嗟にナナコの身体を抱き抱え、その身体の熱さに目を丸くした。


「まずい!オーバーヒートを起こしている!一体どうなっているんだ!?ナナコ!しっかりしろナナコー!」


その後、日比谷はナナコをメンテナンスルームへと連れて行き、修理対応に追われるハメになるのであった。


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それから、数時間後。


「……おい!…おい!起きろ羽倉!」


日比谷は気絶している羽倉を目覚めさせようと身体を揺する。

その甲斐もあって羽倉は意識を取り戻し、ゆっくりとまぶたを開ける。


「んあ…?なんだよ…日比谷?今ナナコちゃんといい所だったのによ…」


「何を寝ぼけているんだ!そんなことより、イサミについて非常にまずいことがわかったんだ。」


それを聞いた羽倉は夢見心地の状態から一気に現実に引き戻された。


「なにぃ!?そりゃ、一体どーゆーこった?やばい故障でもしちまったのか?」


「いや、そういう訳ではないんだが……これを見てくれないか?」


そう言って日比谷は、計測記録が記されたある一枚のレポート用紙を羽倉に渡す。


「えーと、何々…こりゃあ、イサミのバッテリー残量の計測記録か?」


羽倉の問いかけに日比谷は小さく頷く。


「ああそうだ。その計測記録のマーカーで囲ってある部分を見てくれないか?」


日比谷が言った通り、レポート用紙にはピンク色のマーカーで囲ってある箇所があった。

羽倉はその部分に目を通す。


「なんか…このあたりで急激にバッテリー残量が減ってんな……そんで、その後すぐにゼロになって、行動不可になったって訳か……」


「その通りだ。そしてそのバッテリーが急激に減った時イサミは何をしていたか、モニターを見ながらバッテリー計測記録と照らし合わせてみた。そしたら……」


「そしたら…なんだ?」


「イサミが火炎球フランバルを使ったタイミングで、バッテリーがごっそり減ってしまっていたんだ。」


「え?つーことは、つまり……」


「ああ、イサミが魔法を一発撃つだけでバッテリーを相当食う。魔法は……相当コスパが悪いものだということが……今回で判明してしまったんだ……」


日比谷の声のトーンは徐々に暗くなっていき、最終的には消え入るようなボリュームになっていた。


「え…えぇー……」


がっくりと肩を落とす日比谷に対して、全く理解が追いつかない羽倉はただただ困惑するしかなかった。


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