第7話 帰宅

 「オレは自由だーーー!」


 「ミーーーーーーーー!」


 東の森の入口でオレは我が国の方向に叫んだ。


 労働からの解放。人間社会からの解放。この支配からの卒業!圧倒的自由。その感情の赴くままにオレは叫んだ。


 これで寝る前に「はぁ、明日は仕事か」と嫌な思いをしながら眠りつくこともなくなった。やっぱり人間働くもんじゃない。生涯無職というのも何だから働いてみようかなと血迷ったのがいけなかった。


 何でも屋は本当に何でも屋だった。それ相応のお金を支払ったが、退職代行と退去代行を引き受けてくれた。なお別にやりかけの仕事もないし、引き継ぎが必要な業務内容でもないので心配しないでほしい。それで仕事を辞めるほどクズではない。ただ何日間も無断欠勤した後、職場に顔を出さずに辞めただけだ。


 国からは商人の荷台に紛れ込んで脱出した。全くちゃんと荷台も調べなきゃダメだぞ。門番には反省してほしい。


 そんなこんなでオレは再び森に戻ってきてログハウスまで進んでいた。


 「ん?」


 道中ガサガサと草むらが揺れる。


 これは全国共通で魔物が出るフラグだ。これで大体怖い魔物が出るだろうと身構えるとしょぼい魔物が出て、どうせしょぼい魔物だろうと舐めてかかると怖い魔物が出る。全く神様は意地悪だぜ。


 オレは当然身構える。


 草むらをかき分けて出てきたのはオレの身の丈ほどある魔物だった。神様の嘘つき。


 複眼で8本の足、黒く丸みを帯びた胴体。見たことのない魔物だ。どうでもいいが、この森人外魔境過ぎない?


 オレをじっと見つめて動かない魔物。複眼だから何処に視線が向いているのか分かりずらいが。オレに熱い視線を向けていた。まさか惚れた?ごめん、オレ好きな人はいないけど複眼はちょっと。身体が女性の姿だったらワンチャンあった。


 魔物は突然前足?をばっと上げた。まさか女性の姿に変身するというのか……!


 「シャーーーーーー!」


 「しゃーーーーーー!」


 「ミーーーーーーー!」


 大きな声で挨拶されたので、オレもすかさず両手を上げて応えた。挨拶をされたら挨拶を返す。隠しきれない育ちの良さが出てしまった。おそらく小人さんもオレの頭の上で同じことをしているだろう。


 「……?」


 固まって動かない魔物。どうしたんだろうか。魔物界の挨拶はわかっていないのだが、何か失礼なことをしてしまったのだろうか。


 すると突然魔物を伏せの体勢となる。といっても元々の体がでかいので、そんなに低くなってはいないが。


 「ギャウ、ギャウギャウギャウ!」


 「〈眠り〉」


 うん、しかし何で伏せたんだろうか。


 ここを住処にすることにしたのかな。じゃあこいつもお隣さんかな。


 「今後もよろしくお願いしますー」


 オレはペコリと魔物に頭を下げると魔物の横をちょっと通りますねと手を出して通過する。魔物は体を横にずらして通路をあけてくれる。どうもすみません。


 新たな隣人の存在も判明し、オレはログハウスへと先を急ぐのであった。

 


 ***



 「着いた〜」


 やっとこさ、オレはログハウスにたどり着いた。やはり大荷物はきつかった。


 特に変わりないログハウス。庭先には目をつぶり寝転ぶリー助もいる。一回オレを見たあと、興味なさそうに鼻をふんと鳴らすとまた目を瞑った。今の動作は魔物界でおかえりなさいという意味だとみた。


 そういえばさっき新たな隣人と言ったな。あれは嘘だ。


 後ろを向く。先程の魔物がついてきている。振り返ると立ち止まり。まるで「旦那さんが転んだ」という子供の遊びのようだ。


 「ただいま〜」


 オレはログハウスに入る。


 「ミミー」

 「ミー」

 「ミーミー」


 「小人さんたちも久しぶりだな」


 ログハウスに入ると小人さんが寄ってきた。ちゃんと待っていてくれたようだ。


 「ちょっと待ってな。部屋に荷物を置いてからお土産渡すからな」


 「ミー♪」


 オレの頭の上にいた小人さんも小人さん本隊と合流した。少しの時間だったけど常に一緒にいたので少し寂しい。まあ、ぶちゃっけ小人さん本隊に混ざるとどれが一緒に行動した小人さんかわからないんだけどね。


 薄情というなかれ。小人さんはほとんど同じ姿をしており、服っぽい部分の色が違うぐらいしか、オレが識別できる違いはないのだ。しかしそれは4色ぐらいしかいないので、それぞれを区別するには全然色が足りない。ちなみにオレに同行した小人さんの色は青だ。たくさんいる。


 オレは2階に上がると階段から一番近い部屋に入った。ここをオレの部屋にしよう。部屋に入るとベッドフレームと大きめの棚とテーブルとイスができていた。小人さん、こんなものまで作ってくれて……ありがとうございます。


 オレは早速、荷物から小人さんとリー助のお土産を取り出すと、一階へとおりた。


 「はい、小人さん集合〜」


 「ミー!」


 わらわらと集まってくる小人さん。オレは彼らの前にこんぺい糖を3瓶置いた。


 「はい、これお土産だよ」


 「ミー?」

 「ミー♪」


 みんなが疑問符を浮かべる中、一人ひしと瓶にしがみつく小人さん。そうか君がオレについてきた小人さんか。


 「じゃあ、みんなに配ってね」


 「ミー!」


 よろしく〜


 オレはそれぞれの瓶の前に一列に並ばされる小人さんを尻目にログハウスを出た。


 「うお」


 入口のすぐ横のウッドデッキにはオレたちについてきた黒い魔物が鎮座していた。お前ここに住むつもりか。


 「お前、名前とかあるのか?」


 微かにオレの方に体を向ける。それも一瞬すぐに体勢を戻してしまった。


 「よし、じゃあお前の名前はクロだな」


 体黒いし。


 オレはクロから離れてリー助の所へと向かう。


 「お土産持ってきたぞ〜」


 『…………』


 「何食べるかわからんかったから、適当にイメージで野菜を買ってきたけど食べるか?」


 『…………』


 「リー助が食べないと野菜たちが悲しむぞ。なぜならオレは野菜が苦手だからな」


 『……大丈夫であろう。そやつが食べる』


 そやつ?


 後ろを振り返る。目の前にクロがいた。オレが持つ野菜をじっと見つめている。オレはニンジンを手に取ると左右に振ってみる。クロの体がそれに合わせて左右に揺れる。


 オレは振りかぶってニンジンを投げた。素早い動きでニンジンの落下地点まで移動するとキャッチ。サクサクサクとどんどんニンジンが口元で減っていく。クロ、お前そのなりで草食なのか。


 オレはリー助に向き直る。


 「まあさ、お隣さんへのただの挨拶だから気軽に受け取ってくれよ。別にいらなかったらクロにあげていいからさ」


 オレは頬をかきながら、少し困ったように笑って言った。そんなオレをリー助は冷めた目で見ている。


 『……本音は?』


 「へへ、そんな本音なんて。嫌ですぜ旦那。ただリー助様を野菜で懐柔して、抜け毛があればちょっびともらえないかと思ったりしてるだけでゲス」


 『貴様のその喋り方は何なのだ』


 「いやさ、本音を普通に言うと図々しいやつと思われるじゃん。だから本音をゲス野郎っぽくいうことで、本音を伝えながらも、この内容自体は自分でちゃんとゲスだってわかってますよと相手に伝えられるんだ。つまりは自分が正直で誠実であることの証明をしているんだ」


 『何を言っているんだ貴様は』


 とても真剣な目でそう言われました。心底理解できないとそう目は伝えている。


 リー助は大きなため息をつくと、オレが持っている野菜の一つを加える。


 『野菜は貰う。毛は我が自由に伸び縮みできるがゆえ、勝手に梳いていくがいい。できるならばの話だがな』


 野菜を食べながら、リー助はそう言い捨てる。


 「まじで!いやーありがとうリー助。助かるわ」


 オレは野菜を入れている籠をおくと、早速リー助の毛に手を通す。ほわぁ。やわやわ~。


 『はっ!貴様!何故眠らない!貴様の滅茶苦茶な魔術も眠りを防ぐ効果はないはずであろう!』


 「ん~ああ、あれに眠りを防ぐ効果はないよ~。ただ今は常に〈覚醒〉っていう眠りから覚醒させる魔術を~発動しているから眠らないだけ~。それでも滅茶苦茶眠いけどね~。すごいな~リー助の毛は」


 『何なのだ!何なのだ貴様は!そんな寝ぼけている状態でどうして魔術が正確に発動できる!おかしいではないか!』


 「いや~ほらオレって天才魔術師って奴だから~」


 『天は何故こんな奴にそのような才をあたえたのだ!』


 ん~ひどいな~リー助は。こんなにも才を活かして生きているのに~。


 う~ん。しかし相変わらずすっごくふわふわ~。


 オレはこの毛を使い、3種の神器・改を生み出したのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る