第16話 ランスロット王

 俺様はランスロット王。

 この国で一番えらい人なのだ。

 そんな俺様にたてつこうなんて、万死に値する。

 俺様の家来はみんな良い子だ。それもこれも軍事費に国家予算の半分を割いているからだろう。

 俺様は頭がいいのだ。

 だが、この度の戦線で多くの奴隷を失った。

 自由に生きることだけが彼らの望みだったのかもしれない。だが奴隷に居場所なんてない。

 請け負う仕事もない。生活費を稼ぐ知恵もない。

 本当に愚かだ。あのジュウイチというやつは。

 眼の前の現実も見ずに自分の理想を押し付けている。

 そんなやつの末路など、目に見えている。

「奴らの狙いはこの俺様、ランスロットだ」

 そういうと兵士はビクッと背筋を正す。

「お前らも甘い汁を吸いたいなら俺様の言うことを聞け!」

 玉座にて、ランスロット王は呼び寄せた兵士を前に演説を始める。

 軍事費を支えているのは民衆の納税だ。

 高時給のこの仕事をやめたがるものなどいない。

「諸君らの力なくば、この国はなりたたない! 諸君らは国の威信・名誉を持って族を討ち滅ぼせ!」

「「「おおおおおおおおおおっ!」」」

 兵士たちの叫びが城内を震わせる。

「して、三銃士よ、俺様の護衛の任を与える」

「は。もったいなきお言葉!」

「やるんだったらとことんやるぜー!」

「……護衛、……了解…」

 三銃士と呼ばれた三人の屈強な男はそれぞれに口走る。

 東の里より生まれし比嘉の忍者・雷吼らいこう

 西の瘴気の森より来たクロノ・イラの使い手・オービス。

 中央区出身の暗殺者・ヘンリル。

 三人とも気迫だけで人を気絶させるだけの力がある。

 そんな三人がランスロット王の護衛任務につくのだ。

 まともなやつならすぐに逃げていただろう。

 まともなやつならば。


 俺様はめいを与えると玉座の後ろにある隠し扉を開く。

 その先はランスロット王の完全なプライベート空間。

 王座とは違い、艶やかな派手な色使いはないものの、ランスロット王にとっては居心地のいい空間だった。

 今頃は、ジュウイチとやらの妹ハルが蹂躙されているだろう。

 部下にも餌を与える。そうすればこの国の平穏は保たれる。

 奴隷制度の実地、軍事の活性化、人経費の削減。

 これらにより独裁政治である王政はなんとか立て直した。

 基盤を固めた俺様に隙などない。

 いかに俺様が優れているのか、思い知らせてやる。

 ワイングラスを傾けるとメイドのリーリがワインをそそぐ。

 たしなみ、ほろ酔いになった俺様はリーリに言う。

「メシを持ってこい」

「分かりました」

 身内には多額の報奨金を出している。

 逆らうはずもない。

 逆らった者はすべて火刑に処す。

 それが俺様の基本スタイルだ。

 誰にもこの玉座は渡さん。

 俺様がいなければ、兵はまともに剣を振るうこともできなかっただろう。

 魔王を抑え込むことができたのも、勇者召喚の儀を行えたのも俺様の力のおかげだ。

 しかし勇者か。一度目は失敗したが二度目は良かった。

 一度目のやつは【不運】など持っていたからのう。

 二度目のやつは【異能のルイス酸サイキック・アシド】なる能力を持っていたからな。

 やはり勇者ガチャは期待しすぎない方がいいな。

 はて、あの顔どこかで見覚えがあったな。

 まあそれも関係ないか。

 二度目のやつは颯爽と魔王退治に向かったからな。

 これからはもっと領土を広げ、豊かな暮らしができるというもの。

 笑みがもれるというもの。

「三銃士、お主らも飲め」

「は。しかし我らは護衛の任を任された身」

「判断を間違えかねぬ」

「……酒……拒否……」

「なんだと。俺様の酒が飲めないというのか!」

 激高すると、三銃士はしぶしぶ飲み始める。

 それでいいのだ。

 俺様を裏切ることなどできぬのだから。

 絵画を眺めながら、酌み交わす酒。絶品に決まっている。

「民衆は俺様のためにある。そう思わないか? クラミー」

「そう、ですね……」

 クラミーと呼ばれた少女はにへらと曖昧な笑みを浮かべる。

「父と娘、遠慮するな。お前も飲め」

「……ワタシはちょっと外の空気を吸ってきます」

 ドンッと大きな音が鳴り響き、城全体が揺れる。

「なんだ?」

 俺様の城になにが起きている?

「アイザワ?」

 クラミーがそう呟き、足早に部屋を出ていく。

「ふん。まあいい。俺様の隠し部屋がバレることもあるまい。あの血判の地図ブラッディ・マップでもない限り」

 しかし娘よ。焦ってどこへいく。

「ランスロット様。我々にも出撃命令を」

 オービスがそう告げると不満そうに顔をしかめる。

「俺様の言うことが聞けないというのか? 俺様はここで護衛の任を与えているのだぞ?」

「しかし、その防衛では……!」

 ヘンリルも訴えかける。

「しつこいぞ! 俺様を誰だと思っている!」

 ワインをぶっかけると、ヘンリルが苦悶の表情を浮かべる。

「酒がまずくなった。お前らが反乱を企ているからな」

「そ、そんなつもりじゃ……」

 オービスが目を丸くし、言葉を選ぶ。

 このままでは反逆罪で捕まるかもしれない。

「我は顔を洗ってきます」

 ヘンリルが洗い場に向かう。

「そうしろ。気分が悪い」

 俺様は飼っている女に殴りかかる。

「いい声で鳴けよ?」

「きゃっあ!」

「いいぞ。いいぞ。もっと可愛く鳴け!」

 俺様は手に触れる柔肌を汚していくのがたまらなく好きだ。

 そう好きなのだ。この感覚が。

 自分の暴力で支配できる幸福感が。

 性奴隷。

 俺様の一番の宝物。

 クラミーはあれは使い物にならなかったからな。

 早々に失った妻の後を追っている。

 昔は従順で素直で可愛かったのに。

 いつからか、陰を持つようになっていた。自分の中の何かを殺すように生きていた。

 それが気に食わない。

 俺様のことを見る目が気に食わない。

 ふん、と鼻を鳴らすと、性奴隷の身ぐるみを剥がしにかかる。

 この瞬間がたまらなく興奮する。

 常に全裸でいられては興奮も覚えないというもの。

 俺様はもう慣れてしまったような表情を浮かべる奴隷に嫌気いやけがさした。

「ちっ。なんて顔をしやがる」

 舌打ちをし、ビンタをするが、変わらぬ表情だ。

 何もかもが気に食わない。

 この程度の襲撃で、なぜみんな口答えをする。

 俺様のお陰でこの国は安定を取り戻したのだ。

 感謝されることはあっても叱責されることではない。

 なんどかビンタをしているうちに顔が赤く膨れる奴隷。

「いい。いいぞ! もっと俺様を満足させろ!!」

 そう言って全裸に剥いたあと、恥辱を与える。

 しかし使い物にならなくなったな。

 あとでドラゴンにでも食わせるか。

 あれも。俺様の力量があってのこと。

 俺様が飼い慣らしたようなもの。

 やはり奴隷制度は完璧である。

 それによってバカ者をうまく流用できているのだ。

 俺様は優れた王様なのだ。この国の王だ。

 しかし、三銃士でさえもそれを軽んじる。

 俺は正統な後継者――血筋でもって生まれたときから定められた王様なのだ。

 生まれながらにして王なのだ。その資質も、義務もある。

 これから何が起きても俺様は世界を征服する。

 魔王とやらも、魔族も一掃し、俺様だけの楽園を作る。

 勇者も魔王のもとに向けた。

 あとは報告を待つばかりだ。

「デュフ。デュフフフ」

 笑いがこみ上げてくる。

 この女奴隷のように、魔王も紙くずのように扱ってやるさ。

 俺様がいればそれも可能だ。

 なにせ、俺様も昔は勇者の力を持っていたのだから――。


 俺様は最強の勇者。そして良き王様なのだ。

 民衆がそれを求めている。

 使える者は使う。

 それが俺様の流儀だ。

 路地裏で死に絶える者を、奴隷として救う。いいじゃないか。

 どうせ死ぬ運命だったのだ。

 それを利用して何が悪い。

 他の者も、税金を払っていれば、ちゃんと救済している。

 俺様が高笑いをすると、三銃士が苦い顔で見ていた。

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