第15話 星へ向かって


 1807号室。ホテルの部屋にルームサービスを呼び込み、食べ物を運ばせて食べさせるフランツ。

 飲み物やデザートをほおばり、嬉しそうに食べるエレナ。

「お酒、ほら飲んでごらん。おいしいでしょ」

 もてなしているプロデューサー・フランツ、エレナを酒に酔わそうとしている。

 受け取るエレナ、飲んでみる。アルコールが強いがフルーティーでおいしいお酒。

「うん、おいしい」

「それからこれ、飲んでごらん」

 そしてフランツ、ハンスから買った、陽気な気分にさせるタブレット錠を出し、エレナに渡す。

 ピンクや青など色とりどりの錠剤を受け取り

「なんですか?これ」

 見つめるエレナ。

「飲んでご覧。もっと楽しくなるから」

 エレナ、言われた通り、その錠剤をお酒で飲む。


「ここのホテルは凄いんだ。・・・ほらこっちに来てご覧。外が綺麗なんだ」

 窓際に誘うフランツ。エレナの手を引き窓外の綺麗な街の夜景を見せる。

「綺麗だろ?こっちが街だ。どうだい?星空のようだろう?」

「うん、綺麗です」

「そしてあっちは海。船がいっぱいだ」

 海の方の窓にもエレナの手を引き見せる。

「本当に綺麗」

 そういいながらさっき見た、エレベーター辺りの窓下を見て、見上げていたハンスを探すが、一階など見えるわけない。

「でも、なんでハンスが居たんだろ・・・」

 と気になっているエレナ。

 下を向くエレナの肩を抱き、エレナの顔を持ち上げるフランツ。

 見てめて、そしてキスしようとするが、エレナ、訳が分からず微笑む。

 フランツ、苦笑して笑い。

「まだ早いか」

 手を取り、ダンスの真似をしてエレナを回す。

 エレナ、クルクル回されるうちに、薬と酒がだんだん効いてきて、足がもつれてくる。

「あぶなないね」

 フランツ、エレナを抱きしめると、笑ってるだけのエレナ。

「そろそろ効いてきたかな・・・楽しいかいエレナ?」

「ええ、楽しいです」

 フランツ、徐々にエレナの体を触り出す。

「まだ子供だが、悪くない」

 そこにノック。ドアを叩く音。

「なんだよ。いい時に、」

 フランツ、無視するが、何度もノックが部屋に響く。

 仕方なくエレナをベッドに寝かせ、扉を開く。

 するとそこにはハンスが立っていた。。

「どうした?呼んでないぜ」

「・・・」

 ハンス、無言で中に入ってきて、ベッドで寝ているエレナの手を持ち、引き立たせる。

「帰るぞ」

 焦点が合ってない目で見るエレナ。

「あれ?ハンスだ。こんばんは。さっき居たね。見たよ」

 呂律がおかしくなってきているエレナの腰を掴み、抱えるように歩くハンス。

 よろよろながらもエレナも歩く。

 フランツ、エレナを抱え出て行こうとするハンスを掴む。

「おい、おまえ何をしている?どういうことだ?・・・せっかくの楽しい時間を壊しやがって。出ていけよ」

 フランツ、エレナを引きはがし、ハンスの首を掴んで締め上げようとするが、ハンスは、その手をはじき、思い切りフランツの頬を殴る。

 吹き飛び、尻もちをつくフランツ。

「なにをするんだおまえ・・・?」

 と怒り、立ち上がって反撃しようとするが、途中で体が止まる。

 ハンスが銃を向けているの気が付き、そのまま体が固まった。

「殺すぞ」

「待て待て、判った。抵抗しない。何もしない。パーティーは終わりだ。欲しいのか。連れていけよ」

 銃を構えたまま睨みつけているハンス、床で笑って座りこんでいるエレナを引き起こし、抱きかかえるようして部屋外に連れ出す。


 エレナの脇に腕を回し、脇腹を抱え上げるようにして歩くハンス。

 外に止めていたバイクに着くと、後ろの座席に抱え上げて股がらせて座らせ、タンクを跨ぐように前に乗るハンス。

 脱いだ上着をエレナの体ごと包み上げるように廻して通し、その上着の袖を自分の前で結び、エレナと自分の身体を密着させて固定する。

「きつくないか?」

「きつい?何が?ハンス?何がきついの?」

 ラリっているエレナ。

「離すなよ」

 エレナの腕を自分の腹に前で組ませてもっと身体を密着させる。

「はーい。離しません」

 バイクで走りだすハンスとエレナ、道路に出て進んで行く。



 夜の道を疾走するバイク。

 街の明かりや、車のヘッドライトがギラギラ光る。

 少し渋滞気味の車を縫うように走るため、車のテールランプが目の前を通過する。

「すごい、バイクが踊ってる」

 薬物で瞳孔の開いたエレナには、夢の世界のように見える。

「空を飛んでる。星の海を飛んでいく~」

「離すなよ」

「はーい。離しません」

 薬で呂律が回らないエレナ。それがおかしくて笑うハンス。

 ハンスのバイクが夜の街を進んでいく。




 朝、海岸のベンチで目を覚ますエレナ。

 身体にはハンスの上着がかけられ、寝かされていた。

「あれ?確かハンスと一緒にバイクで走ったはず・・・」

 エレナ、見回すとバイクをおいた砂浜に、盗難防止のため止めたバイクに寄りかかって寝ているハンス。

 エレナ近づき、ハンスを見つめる。

「大切なともだち・・・」

 エレナ、ハンスに上着をかけ、横に座る。


 太陽が昇り、少し暑くなってきて、目を覚ますハンス。

 ちょっと体が重いで見ると、隣にエレナが寄りかかって寝ている。

「エレナ」

 エレナの寝顔を見つめるハンス。可愛いなと思う。

 そんなエレナを見つめていると、エレナが目を覚ます。

「おはようハンス。よく眠れた?」

「ああ、まあね」

 顔が近くで恥ずかしくなり、立ちあがり体を伸ばすハンス。座って寝ていたため体が軋む。

「ハンスが助けてくれたの?」

「願ったことだろ」

「うん」

 笑うハンス。

 エレナも立ちあがり伸びをして、着いている砂をはたき落とす。

 海岸でドレスのエレナはなんか変な感じだなとハンスは思った。

「・・・やっちゃったな」

 ハンス、遠くを見る。

 お得意様を銃で脅して、そして女をかっさらう。とてもじゃないが、もう戻れないことをしてしまった。

「どうしたの?」

「なんでもない。エレナに関係ないことさ」

「そうなの?でもハンス、なんであそこが分かったの?」

「神様が教えてくれた・・・(自分で言って、自分で鼻で笑う)・・・なあエレナ。このまま何処か遠くに逃げないか?どこか遠くの遠くに・・・」

「何処行くの?」

「何処か行きたいところってあるか?」

「・・・外国。外国に行きたい」

「じゃあ行こう。外国」

 エレナちょっと不思議がる。

「どうやって?パスポートとか無いから、外国に行けないよ」

「外国に行くのにパスポートがいるなら作るさ」

「今からパスポート?」

 するとハンス、脱いでいた上着をドレス姿のエレナに着せる。

「俺、偽造パスポートを売ってる所を知ってる。そこで作ってもらおう」

「偽造って・・・ばれないの?」

「そこで買って、何人も送り出しているから大丈夫」

「行けるの?外国?」

「何処だっていける。願えば叶うんだろ?」

「そうその通り」

 ハンスは微笑み、バイクを押し始める。エレナもバイクを押して砂浜から出ていく。


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