第11話 ハンスとエレナ・再会


 数日後、エレナは違う番組の出演依頼も受けた。

同じチャンネルだが、バラエティ番組で、『びっくり人間登場』という番組。

夜の早い時間で、夕食を食べながら家族みんなで楽しく見る番組で、視聴率もいい。

 毎週、何か特技を持つ人が現れて、その特技を披露して驚かす内容で、そこにエレナが登場し、エレナが持つ記憶力で何桁まで間違えずに言えるか挑戦してみるという内容だった。

 司会者がランダムになっている13桁の数字を、瞬間的にエレナに見せて記憶させて、それを順番に回答してもらい、会場の観客と一緒に正解を確認していくというバラエティ。

「3979 2751 48327」

司会者の持った正解の数字を、司会者の合図で順番に言っていくエレナ。

一つ一つ正解していくと、スタジオ観覧している観客が驚き、全部正解すると歓声と拍手。。

それを数回、繰り返しても、見事に正解するエレナ。

そして「嘘じゃないか」と疑っている観客を、ステージに上げて、その場で数字を書いてもらい、それもエレナに覚えさせて、回答させる。

難なく微笑みながら回答していくエレナ。

そんなエレナに、みんな拍手喝采である。

増える桁数も14,15と上がり、20桁までで番組の終了の時間が来て、終わるが、エレナは間違わずに終えた。


 収録が終わり、付き添いできたジュリアのいる楽屋に戻ってくるエレナ。

やはり45分以上やらされば、少しは疲れている。

ジュリア、肩を叩きよくやったと褒めてねぎらい、ジュースを渡す。

嬉しそうに飲むエレナ。

「色んな番組に出るのはいいけど、いいの?こんな番組に出て?」

「お金稼げた?ジュリアに稼いで欲しいの」

「まあ、出演料をたっぷりくれたけど、・・・別にエレナが働かなくても、私たちの生活は、やっていけるよ」

「でも、ジュリアが裕福になれば、私も美味しいものがいっぱい食べれるでしょ」

「わかった。今日はリッチになったから、ホテルに行ってラウンジのケーキ食べ放題にしてあげる」

 エレナ、ジュリアに抱きつき笑う。




 繁華街の通り、建物の影で白い粉(麻薬)をあぶって吸引している男女。

そこで手渡して売っている売人。その売人が卸して貰っている駐車場の車。

その車の中に、ハンスの仲間のミチルとその子分たちがいる。

 売人がくると運転席の窓を開けて、売人から渡された金を確認して、パケット積めしたコカイン、タブレット錠剤のフラッシュ、幻覚剤、睡眠導入剤などを注文に応じて渡していく卸売りのミチル。

 道の壁にBPS(black people strider)という自分たちのチーム名をラッカースプレーで書いていたモリオが戻ると、車を出すミチル。


 車を工場地帯に回し、町外れの廃墟に向かう。

追跡者がいないのを確認しながら車を走らせ、廃墟の中に入るミチルやモリオ達。

 一見、誰もいない廃墟に見える建物のいたるところに、銃を持った警備する仲間が配置されて潜んでいる。

 ミチルたちは入口の鉄のドアに合図のノックをして開かせると、そこにある階段を下り、地下の作業場に降りる。

 外は廃墟で暗いが、地下の作業場は物凄く明るく、何人もの子供たちが麻薬を測ったり、小さいパケットに分離したりして作業している。

 コーラを飲みながら、テレビをつけて、楽しそうに麻薬のパック詰めをしているハンス。

 戻ってきたミチルが金をハンスに渡すと、ハンスはそれを持って、奥の鉄格子の中にいる会計に鉄格子越しに金を渡す。

 会計は金額を数え、その金にゴムバンドと日付時間を書いた紙を挟み、奥に備え付けらている金庫を開けて、その中に金を入れる。

 金庫の中にはゴムバンドにくくられた金が沢山積み重なっていて、今日の分がその上に積まれる。

それを鉄格子越しに確認するハンス。


 ハンス、元の部屋に戻るとテレビを見ていたモリオが叫ぶ。

「エレナだ。ゴミ喰いエレナ」

 ハンス、みると、『天才・エレナ』とテロップが出て、13桁の数字を一瞬で記憶して言い当てる場面をやっている。

「何やってんだ?あいつ。タレントになったのか?」

「びっくり人間登場だってよ」

「なんだよそんな才能あったのか?」

 みんなが笑いあってエレナの話をする。見つめるハンス。

「・・・」

 テレビに映るエレナの目は輝いている。

にこやかに答えるエレナ。見とれるハンス。

 なおも「可愛くなった」「テレビスターになるのか?」とか、みんな作業をスッポラかしてテレビを見て笑っている。

「ハンス。エレナだぞ。みろ、可愛くなってるぞ」

 ミチルに言われて、笑うハンス。

「ああ、そうだな」

 コーラを飲みながら見つめる

「生きていたか」

 スマホを出し、検索、「びっくり人間登場」のページ。

エレナの写真と名前が載っている。写真を見て、ちょっとうれしくて微笑んでしまうハンス。しかし名前を見て、疑問に思う。

「エレナ・・・バンビーナ?」

ハンス、バンビーナが気になり、外に出て、「バンビーナ・・・」検索すると『ジュリア・バンビーナ。元TVリポーター』がでてくる。

「あ、こいつだ。エレナを取材していた女だ。それがどうして・・・エレナが、バンビーナになったんだ?」

気になり、つい、テレビ局に電話してしまうハンス。




「親子なんだからってあわせてくれ?なにを言っているの?二度と会わないって約束したでしょ。書類まで書いたし・・・ふざけないでよ。」

 マンション・リビングで怒りながら電話しているジュリア。

相手はエレナの両親。エレナのテレビを見て、何かおこぼれをもらおうと再び接触してきて、電話をかけてきたのである。

「私の養子に入り名前も変り、もうそちらとは縁が切れて、全くの他人です。もう電話しないでくれる」

 怒って電話を切るジュリア。

「・・・」

 無言で見つめるエレナ。

ジュリア、気を静めて優しく聞く。

「・・・・エレナ。父さん、お母さんに会いたい?」

 首をふるエレナ。

「じゃあいいね。このままで」

「そう。このままでいい。ずっとこのままで」

 安心して微笑み、ジュリア飲み物を取りに行くと、玄関でチャイムがなる。

「今度はなに?またプレゼント?テレビに出てから本当忙しいたらありゃしない」

 台所から玄関モニターを見るとモニターの中に少年が立っている。

その少年はハンスである。

「誰?」

「・・・」

「貴方は誰?」

「・・・俺はハンスっていいます。昨日テレビを見て、それでエレナに取材に来たテレビ局の人とスラムを出て行ったのを思い出して、・・・テレビ局に電話して・・・そして・・・」

 エレナ、ジュリアと玄関前にいるハンスのやり取りをモニターで見る。

「全くテレビに出ると、ろくなことにならない。・・・もうエレナは昔のエレナと違います。会いません。出ていって」

「・・・エレナは?」

「エレナはいません。帰って・・・」

 セキュリティのボタンを押すジュリア。

これでセキュリティが来て、この訳の分からない少年をつれていくだろう。

「ハンス・・・」

 エレナ、モニターの中のハンスの顔をじっと見て、玄関に行く。

「あ、エレナ、ダメよ。出ないで」

 エレナ、玄関の扉を開くとハンスが立っている。

「ハンスなの?」

 エレナと顔を合わし、うなづくハンス。

そこにマンションのセキュリティの男が二人きて、ハンスを引っ張り上げるかの如くに、腕を掴む。

ハンス、捕まれてムッとするが、エレナが首を振るので、抵抗はしない。

「どうしました?警察を呼びますか?」

 見つめ合うハンスとエレナを見て、

ジュリア、それを察し、エレナに確認する。

「知り合い?・・・話す?」

 うなずくエレナ。

「大丈夫です。問題なかったです。(セキュリティにいう)」

 お辞儀をして帰っていくセキュリティ。

「どうやってここまで?」

「入口で外出する人を待って、出てくる人と入れ違いに入れる」

「ダメだ。ここのセキュリティ。警察直通をつけるべきか。・・・まあ、廊下じゃ、なんだから、どうぞ上がって。・・・・・・でもエレナ。古い知り合いなら金が目的だから気をつけてね」

「そんなんじゃない」

必死なハンスを見て、微笑むジュリア。

「なら、よし。しばらく二人で話しなさい」

ジュリアが廊下に出て、ハンスを入れて扉を閉める。

ハンスとエレナの二人きりにしてあげる。


「どうぞ。何か飲む」

 エレナ、リビングにハンスを招く。

リビングは明るいパステル調でアートな絵が、壁に飾られている。

ハンスのアジトと違い、すっきりとした室内。

なんとなく立っている二人。互いに顔を見たり逸らしたり、

「久しぶりだなエレナ。元気か?」

「うん、元気。ハンスはどうしていたの?」

「色々やった。なんでもやった。・・・少し金持ちになった」

「星に願いをかけた通りになったでしょ?」

 苦笑いするハンス。

「テレビをみた。・・・おまえ、天才だったんだな」

「ゴミ山のおかげで、記憶がよかっただけ」

 ハンス、部屋を見回し、

「時間が過ぎて、違うところで育って・・・なんだかもう道が違ったな」

「そんなこと無いよ。星に願う限り一緒だよ。あの時のまま」

 真剣に言っているエレナを見て、微笑むハンス。

「・・・あの時、バカにしてごめん」

「何のこと?」

「星に願いをするなんて馬鹿がすることだ」

 笑うエレナ。

「気にしてないよ」

「これから・・・これからも頑張ってくれ」

「うん」

「じゃあ・・・帰る」

「・・・またね」

 部屋から出ていくハンス、玄関で一瞬、立ち止まる。

「またね・・・か」

つぶやくが、あまりに違った生活環境に隔たりがあり、ハンスのその顔には諦めの表情が出てる。もう会わないと思ったハンス。



 ハンス、玄関をしめて廊下に出るとジュリアが待ってる。

ハンス、ぺこりとジュリアにお辞儀をして去る。

「礼儀はできているね」

 ジュリア、扉をあけて、中に入り、リビングに行く。

キッチンから飲み物を持ってくるエレナ、ジュリアにも飲み物を渡す。

「彼には?」

「いらないって」

 なんか幸せそうにジュースを飲んでいるエレナを見て、

「恋人?」

「ちがうよ。・・・ぬいぐるみくれた人」

「あの熊の縫いぐるみの・・・妹のピピだ」

「ハンスは大事な友達なの」

 微笑むジュリア。

「エレナ。それを世間では、恋人といったりするんだよ」

 その言葉に顔を赤くするエレナ。笑うジュリア。


 ジュリアのマンション脇に止めたバイクにまたがるハンス。

エンジンをかけて、ライトをつけ、バイクを走り出し乗り去っていく。

 そのハンスの行動が見える場所に、車を止めて隠れて見ているハンスの仲間ミチルたち。

「な、ハンスはエレナと仲良かったからな。会いにいくと思ったんだ」

 ミチルは、笑っている。

「ここかエレナの家か、リッチな建物だな。お金たくさんあるんだろうな」

 モリオがマンションを眺める。

「いいね。昔馴染みだ。仲良くしよう」

 ミチルたち、ハイになるく薬を回しあって飲み、笑っている。

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