第49話:念願

王歴327年6月4日:南大魔境・キャット族本村・クリスティアン視点


「ヤスミン村長、俺にイングリートの治療をやらせてくれ。

 いや、イングリートだけでなく、手足を失った者たちの治療をやらせてくれ」


「鳥に変化した姿でいきなりやって来て何を言っているのだ?!

 私たちが間違ってお前を狩ろうとしていたらどうなっていたと思っているのだ?

 ロードゴブリンやヒュージスライムに変化したお前と戦う事になっていたのだ!

 お前はキャット族を滅ぼす気か?!」


「あああああ、すまん、その事は考えてもいなかった。

 その事は謝るが、本当にとんでもない事ができるようになったのだ。

 連絡と取るような冷静な気分ではなかったのだ」


「……確かに、今クリスティアン村長が言った事、手足を失った者たちの治療ができると言うのなら、驚き慌ててしまうのも分かる。

 だが、本当にできるのだろうな?!

 何とか手足を失った現実を受け入れた者たちが、手足が元通りになるかもしれないと期待した治療が失敗して、再び心を痛めるような事にはならないのだな?!」


「……すまない、確認はしていなのだ。

 色々な事があって、完璧な治療魔術が使えるようになったと分かったのだ」


 やっぱり、ステータス画面が見られるなんて言えないよな。

 そんな事を口にしたら、狂っていると思われるか、とんでもない神与スキルを持っていると思われるだけだ。

 いや、神与スキルで自分の能力が分かるだけなら大したことではないのか?


「クリスティアン村長がそこまで慌てて来てくれているのだから、いいかげんな話しではないのだろう。

 だが村長としては多くの人に行う前に本当にできるのか確認しなければいけない」


「そうだな、すまん、事前に本当にできるか確認しておくべきだった。

 新村には手足を失ったエルフ族がたくさんいるから、1度戻ってエルフ族で試してから、もう1度来る事にする」


「いや、そこまでやってもらう必要はない。

 幸か不幸か、私の娘が手足を失っている」


「自分の娘を実験台にすると言うのか?

 あれほど手足を失った者の心を傷つけるなと言っておいて」


「イングリートは誇り高いタイガー族の戦士だ。

 キャット族のために命をかける覚悟はできている。

 実際命がけの覚悟で手足を失うまで戦ってくれた。

 手足を失ってからもタイガー族の誇りを持ち続けてくれている」


 内心では娘の心を傷つけるのを恐れているのだろうが、村の為に恐れと愛情を押し殺しているヤスミンの覚悟を、無にするわけにはいかないな。


「そうか、だったらイングリートで試させてもらう」


 俺も慌てて本村に来てしまったとはいえ、何度もステータス画面を確認した。

 何がどう作用したのかは分からないが、変化時と言う制約なしにパーフェクトヒーリングが使えるようになっていた。

 今までの経験上、ホモサピエンスの姿のままで魔術が使えるはずなのだ。


『クリスティアン』

種族:ホモサピエンス

称号:悪食

レベル:37/∞


「基本能力」

HP:   397

魔力:523412

命力:441198 

筋力:   372  

体力:   396 

知性: 10057  

精神:  2334  

速力:   387

器用:   370

運 :   438

魅力:   370


変化時は変化した種族とレベルにあわせて基本能力は上昇


「神与スキル」

悪食  :レベル37

    :ストマックサブスペイス

    :スモールインテスティンサブスペイス

    :コロンサブスペイス

    :ラバリィ、

    :ウルトラセルフヒーリング

    :ウッド

    :ウッドボール

    :ウッドアロー

    :ウッドソード

    :ウッドランス

    :ウィンド

    :ウィンドボール

    :ウィンドアロー

    :ウィンドソード

    :ウィンドランス

    :パーフェクトヒーリング

    :アッシドバレット

    :ポイズンバレット

「付帯スキル」

回復魔術:レベル37(スライム変化時)

    :ヒーリング、エリアヒーリング・ハイヒーリング

    :エリアハイヒーリング・スーパーヒーリング

    :ウルトラヒーリング・パーフェクトヒーリング

毒術  :レベル37(スライム・サイドワインダーなどに変化時)

酸弾  :レベル37(スライム変化時)

    :アッシドバレット

薬生産 :レベル37(スライム変化時)

    :ピルファーマスーティカル?

    :リキッドメディスンファーマスーティカル?

毒生産 :レベル37(スライム変化時)

    :ポイズニング

攻撃魔術:レベル36(ロードゴブリン変化時)

    :ウッド

    :ウッドボール

    :ウッドアロー

    :ウッドソード

    :ウッドランス

    :ウィンド

    :ウィンドボール

    :ウィンドアロー

    :ウィンドソード

    :ウィンドランス

棒術  :レベル11(ビッグオーク変化時)

    :スティックアート

剛力  :レベル11(ビッグオーク変化時)

    :スーパーヒューマンストレングス

自己回復:レベル11(ビッグオーク変化時)

    :ウルトラセルフヒーリング

牙突進 :レベル10(レッドボア変化時)

    :ファングラッシュ

飛行  :レベル10

    :フライング、グライディング、アヴィエイション

遠見  :バードアイ、ディスタンスビュー、テレフォウトウ


「装備と武器」

投擲用の石

鉄の長剣

綿の下着

綿の靴下

鰐の革鎧


「イングリート、これからクリスティアン村長がとても大切な魔術の実験を行う。

 イングリートはタイガー族に戦士としての誇りを持って実験台になってくれ」


 決断を下したヤスミン村長の行動は早かった。

 執務室のある村長屋敷で一緒に暮らしているイングリートの部屋に、直ぐに案内してくれただけでなく、実験台になるように命令までしてくれた。


「分かりました、村長。

 このような姿にはなりましたが、まだ心はタイガー族の戦士です。

 村の役に立つのなら何時でも何でもやらせていただきます」


「ではクリスティアン村長、実験に必要な事を言ってくれ」


「できるだけ多くの食べ物を腹に入れてくれ。

 できれば肉だけでなく骨も食べて欲しい」


「クリスティアン村長のお陰で食糧の備蓄は十分にある。

 そのお程度の事でよければ今直ぐもってくる。

 食糧庫からボアの骨付き肉を持ってくるから待っていてくれ」


 そう言うとヤスミン村長はイングリートの部屋から出て行った。

 部屋着姿のうら若い娘と同じ部屋で2人きりというのは緊張してしまう。

 もう俺は半獣人のキャット族を性的対象に見られるようなっているのだな。


「あれからどうしていたのだい、傷が痛んだりしていないかい?」


 それなのに、未だに女性とのコミュニケーション能力が低すぎる。

 手足を失った女性にケガを思い出させるような会話を振るな、バカ者!


「ふっ、未だに手足を喰われた時の悪夢をみるよ。

 もっと自分に厳しく鍛錬しておけばよかったと反省する日々だ。

 だが、過ぎてしまった事は取り返しがつかないと理解している」


「すまない、配慮を欠いた質問をしてしまった」


「気にするな、すべては自分の未熟がまねいた事だ。

 それに、夢では激しい痛みを感じるが、起きている時には全く痛まない。

 それはクリスティアン村長の回復薬のお陰だと聞いている、ありがとう」


「その程度の事で感謝されると逆に恐縮する」


「待たせたな、これを食べろ、イングリート」


「分かりました、ヤスミン村長」

 

 ヤスミンもイングリートもこの実験は村長と戦士としてやろうとしている。

 イングリートもバカではないから、実験の前に肉と骨を食べさせられるので、回復魔術の実験台だと理解しているだろう。

 それを母子としてやるのでは失敗した時に受ける傷が大きすぎるのだろう。


「これは聞いていいのか悪いのか判断できないから、問題があったら返事をしなくてもいいのだが、エルフ族がケガをした理由はなんなのだ?」


 イングリートが食べ終わるまで時間が持たないようで、ヤスミンが質問してきた。

 確かに多くのエルフ族が手足を失ったと聞けば気になるだろう。

 それでも娘に配慮して手足を失ったとは言わずケガと言っている。


「エルフ族があまりにもゴウマンな言動をするので、つい怒りのあまり死なない程度の攻撃してしまったのだ」


「ガマン強いクリスティアン村長をそこまで怒らせるとは、エルフ族の高慢さはキャット族のプライドの高さとは比較にならないのだな」


「まあ確かに比較にならないと思うぞ。

 イングリート、そんなに急いで食べなくてもいいぞ。

 せっかく食べるのだから、美味しく味わって食べろよ」


「ウッグ、そう言うわけにはいかない。

 これはヤスミン村長から命じられた正式な役目だからな」


「相変わらず固いな、イングリート」


「大ケガをしようと、性格までは変わらないぞ」


「そうだな、いい意味でイングリートの高潔さは変わらないな」


「ふん、ほめても何もないからな」


「ああ、わかっている、何か欲しくてほめたわけじゃないさ」


 神与スキル、ちゃんと今まで通りスキルを発動しろよ。

 発動しなかった神を信じないどころか恨むからな。

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