第46話:事前準備

王歴327年5月13日:南大魔境・新キャット族村・クリスティアン視点


「さて、それぞれ手に入れた情報を教えてくれるか」


 新村の村長執務室に集まったのは、副村長でリンクス族の族長グレタ、ホモカウ族の族長ヨアヒム、新村に移住してきた全部族の長たちだ。


「まずは私から報告させていただきます」


 とは言っても、話す者は決まっている。

 俺を怒らせる事を恐れている部族長たちは何も言わない。

 俺を信じてくれている者も何も言わない。

 今報告を始めたヨアヒムとグレタ以外が話す事はめったにない。


「ゴブリン族はこの村を襲わず、他種族の村を襲っているようです」


「襲われている種族はどこだい?」


「エルフ族が襲われているのは間違いありません。

 ここから遠い場所にナワバリを持っている、イディオム族、ベア族、ジャイアント族、トロール族などを襲っているという情報もあります」


「遠方の種族に関しては確かな情報ではないのだな?」


「はい、生きて逃げ延びた者がいませんので、確実とは言えません。

 ただ、普段ならドワーフ族に武器や道具を注文に来るはずの種族が来なかったり、オーク族やドッグ族と友好的で交流のあった種族が来なくなったりしています。

 どう考えても何か大変な事が起こっているとしか思えません」


「ヨアヒム殿はこう言っているが、キャット族と友好な関係にあった種族との連絡が途絶えているという話はあるのか、グレタ殿?」


 俺は念のために確認してみたのだが……


「残念ながら、キャット族には友好的な関係だった他種族がいないため、そう言う情報は集まっていない。

 ただ、偵察に放っていた者たちからの報告では、確かに種族間の交流が極端に減っていて、種族によっては物資の不足に苦しんでいるらしい」


 キャット族の閉鎖性が改めて分かっただけだった。

 こんなキャット族がよく俺を受け入れてくれたものだ。

 今更ながらグレタに感謝だな。


「クリスティアン殿、そのような種族の中には、この村に来て買い物がしたいと言う話が出ていますが、いかがなされますか?」


「ホモカウ族が交易に向かうのではないのですか、ヨアヒム殿」


「ロードゴブリンが襲ってくると分かっていて、仲間を交易に行かせるほど、私は悪党ではありません。

 それに、クリスティアン殿が認めてくださるのなら、本当に欲しいものがあるのなら、この村まで買いに来てくれますから、危険を冒す事なく交易ができます」


 利益が減る事になっても危険は冒さないという考えか。

 南大魔境で交易をしてきたホモカウ族とは思えない考えだが、以前よりも極端に危険度が高くなっているという事だろうな。


「いつでも許可は出しますが、他種族がここまでくるでしょうか?

 今もホモカウ族が交易をおこなっている、オーク族やドッグ族の村で交易をして自分たちの村に戻るのではありませんか?」


「そうですね、遠方に種族だと少しでも近い場所で買い物がしたいでしょうから、そのような事になる可能性もあります。

 ですが、それならそれでかまいません。

 オーク族やドッグ族の村で商品が売れれば、オーク族やドッグ族が商品を買ってくれますから」


「そうですか、だったら私から反対する事はありません。

 この村に他種族を迎え入れて、ホモカウ族が交易をおこなう事に反対の者はいるか、いるのなら今のうちに言え」


「他種族を迎え入れることの利点と欠点を教えてくれ」


 誰も何も言わないので、本当は全部理解しているグレタが質問してくれた。

 早く俺を恐れない嫁たちが部族長に成ってくれればいいのだが、そうなるまでにはもう少し時間がかかるな。


「利点は入村税を手に入れる事ができて、村が豊かになり、税が軽くなる事だ。

 入村税が多くなれば、俺が狩る獲物の分配に頼ることなく、困っている者に食糧を分け与える事ができるようになる。

 欠点はキャット族とは常識が違う種族が村の中を歩き回る事だ。

 腹立たしく感じるだけでなく、敵対種族の密偵が入り込むだろう」


「密偵が入り込む事になっても、入村税が大切なのですね?」


 ヨアヒムが確認してくれる。

 事前に話していた事の1つだが、これではまるで自作自演だな。

 もしかしたら、俺がいない所でグレタとヨアヒムが話し合っていたのかもしれないが、俺の考えと一致しているから別にかまわない。


「密偵が入り込んでくれた方が、偽の情報をつかませる事もできれば、密偵を捕まえて情報を聞き出す事もできる。

 本当に恐ろしいのは、なんの情報も手に入らない事だ。

 今情報のあるオーク族やドッグ族の事は怖くないが、情報がなく、全滅したのかゴブリン族と同盟を組んだのか分からない種族の方が恐ろしいだろう?」


 これの言葉を聞いて、黙っていた部族長たちが隣の部族長と相談しはじめた。

 彼らも俺に逆らう気はなくても、他種族を村に入れる事に不安や反感がある。

 それを納得してもらっておかないと、後で嫁たちが苦労するかもしれない。


「入り込んだ密偵から、こちらが密偵だと気がついていないように演技して情報を聞き出すのは、経験豊富な各部族の猛者に頼みたいが、できるか?」


 俺にこう聞かれたら出来なとは言えないだろう。


「「「「「やれます」」」」」

「「「「「まかせてください」」」」」


 こういう時には誇り高いキャット族の性格は扱いやすくて助かる。


「では今日から他種族を村の中に受け入れる事にする。

 交易はホモカウ族にまかせるが、自分たちで交易がしたい者は、ホモカウ族に値段を相談して自由に売買しても構わない。

 ただ、なれない者が商売をすると大損をする可能性があるから、宿屋や飯屋を営む方がいいと思うぞ」

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