第42話:ホモカウ族村
王歴327年4月1日:南大魔境・元ゴブリン族村・クリスティアン視点
「では、このゴブリン族が治めていた村と周囲の土地はキャット族の新たなナワバリという事でよろしいですな」
今回のキャット族、オーク族、ドッグ族、ドワーフ族が参加する種族長会議を仕切ってくれているホモカウ族の族長ヨアヒムが、強く念を押してくれた。
「オーク族の代表、後で文句を言うようでは、ホモカウ族のめんもくを潰す事になりますが、キャット族の土地と村でいいのですね!?」
「……ロードゴブリンを斃して村を占領したのは、キャット族の用心棒であるホモサピエンスだ、文句はない」
オーク族の村長は納得していない。
だが生きるためにはどうしても敵対できないホモカウ族に逆らう気はないようだ。
「ドッグ族の代表もオーク族と同じで、この村と周囲の土地がキャット族のナワバリだと納得しているのですね?!」
「……心から納得しているわけではないが、ゴブリン族を斃して村を占領したのが、キャット族と一緒に暮らしているホモサピエンスだと言う事は理解している。
今回は認めるが、正々堂々と戦って奪えばいいのだろう?」
「それはおかしなことを言ってくれますね。
この新しいキャット族の村には、ホモカウ族の店を建てるのですよ。
この村を襲うと言う事は、我らホモカウ族の店を襲うのと同じ事。
ホモカウ族の恨みを買い戦争になる覚悟があると言う事です」
「な、そんな事は聞いていないぞ、ヨアヒム殿!」
「ドッグ族に教える必要がどこにあるのです。
我々を皆殺しにして食べようとしたロードゴブリンを斃して助けてくれたのはクリスティアン殿で、ドッグ族ではない。
さらに奪った土地と村の中にホモカウ族の店を建て居住区まで作ってくれたのも、ドッグ族ではなくクリスティアン殿だ。
各種族の代表たちに聞かせてもらうが、今まで自分たちの村に我々ホモカウ族の居住区を設けたり商店を建てたりしてくれた種族がいましたかな?
我らホモカウ族がクリスティアン殿に味方するのは当然の事だ!」
キャット族の中に反対する者が1人もいなかったわけではない。
だがこの村はキャット族の手を借りる事なく俺1人で占領した。
『何もしていない奴が俺のモノに文句を言うな』と言えばそれですんだ。
元のキャット族村にホモカウ族の店を建てろと言えば多くの反対があっただろう。
「我らドワーフ族は、キャット族が戦って手に入れた土地や村を奪うほど恥知らずではないから、好きにすればいい。
儂が聞きたいのは、これまで通りホモカウ族が交易してくれるかだ。
どうなのだ、ヨアヒム殿?」
「キャット族に、いえ、我々の命の恩人であるクリスティアン殿に敵対しないのであれば、これまで通り交易させていただきますとも」
「だったら儂らドワーフ族に文句はない、好きにすればいい」
「さて、この会議の後でキャット族に戦争をしかけると言っておられたドッグ族は、どうされるのですかな?」
「ちっ、わかったよ、わかりましたよ、認めればいいのだろう、認めれば」
「では、キャット族、オーク族、ドッグ族、ドワーフ族、ホモカウ族による元ゴブリン村と周囲の土地に帰属争いがここに決着した事を宣言します」
★★★★★★
「ヨアヒム殿、お陰様で争うことなく話し合いで村と土地を確保できました。
ありがとうございます」
「いえ、いえ、とんでもございません、こちらこそありがとうございます。
クリスティアン殿のお陰で、南大魔境に安全な拠点が手に入りました」
「いえ、まだ完全に安全とは言い切れません。
ロードゴブリンを斃した後も、ゴブリンが活発に動いているようです。
強力なヒュージゴブリンが生き残っているのか、あるいは別のロードゴブリンがいるのかもしれません」
「そうですな、そうでなければ先ほどの会議はもっともめていたでしょう。
南大魔境の勢力が大きく変わるかもしれません。
私たちも今までの交易路を根本的に見直す事にしました」
「そうですね、それがいいでしょう。
実は、元の村とこの村の間に地下道を掘るつもりなのです」
「なんですと?!
そんな事が本当に可能なのですか?」
「俺はヒュージゴブリンだけでなく超大型のモグラやミミズにも変化できるので、その力を使って安全な地下道を掘るつもりなのです」
「そのような事が本当に可能ならば、とても安全な道になるでしょう」
「その道が完成したら、南大魔境の外にあるホモカウ族の拠点と地下道を結びたいと思っているのですが、いかがでしょうか?」
「……とても魅力的な提案なのですが、直ぐには返事できません。
私には5000人のホモカウ族の生活と命を護る責任があります」
「分かっています。
そう簡単にすべてをかける事はできないでしょう。
俺がホモカウ族を信じて地下道の提案をした事だけは覚えておいてください」
「分かっておりますとも、クリスティアン殿。
我々ホモカウ族が裏切った時、2つのキャット族村が滅亡する可能性がある。
それなのに地下道という秘密を教えてくださった事、絶対に忘れません」
「では、まずはこの村で一緒に暮らして信頼を築きましょう」
「そうですな」
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