第21話:治療

王歴327年2月16日:南大魔境のキャト族村集会所・クリスティアン視点


「ハイヒーリング」


「忙しそうだな」


 グレタが集会所に臨時開設された治療所にきて俺をからかう。

 キャット族の大半が夜行性だから、治療所には日が暮れてから来る者が多い。

 ホモサピエンス視点だと、油が高価なこの世界は夜が長いのだが、今は違う。

 俺は朝早くからスライムに変化して狩りをしているので、キャット族に合わせて夜に診療と治療を行うと寝不足になってしまう。


「疲れたり眠くなったりしたら、手伝いの人に薬を渡して休むから大丈夫だ。

 グレタこそ昼夜働いて辛いのじゃないか?」


 リンクス族は基本夜行性なのに、俺の実験狩りに付き合ってくれている。

 村の警備のために昼間に行動する事もあるとはいえ、連日になると辛いはずだ。

 ましてグレタは多くの孫がいるくらい高齢なのだから。


「年寄り扱いするんじゃないよ!

 あんたも私が現役なのはよく知っているだろう。

 その気になれば、まだ子供だって産めるのだからね!」


 やばい、言ってはいけない事を口にしてしまったようだ。


「そうか、グレタの子供なら賢く強い子に育つだろう。

 食糧不足の方は、オーク族のナワバリで狩りをしてやればいい。

 グレタたちを襲っただけでなく、イングリートまで襲いやがったからな」


 治療スキルのレベルアップを目指すだけでなく『悪食』スキルという根本的な部分もレベルアップさせなければいけない。

 なにより、新たに思いついた能力が使えるか試したい。


「そうだね、オーク族にはキッチリと落とし前をつけてもらわないとね!」


「そうだな、落とし前はつけなければいけない。

 だが俺たちだけでやってもいいのか?

 ヤスミンが直接復讐したいと思っているのではないか?」


「ヤスミンは責任感が強いから、村長の立場を放棄する事はないと思う。

 それに、いくらなんでも私たちだけでオーク族を皆殺しにはできない。

 ナワバリを巡回する連中をいくら殺しても大丈夫だ。

 ヤスミンが殺したいのはオーク族の族長だろうからな」


「そうか、だったらヤスミンには、オーク族の村を直接襲撃する時に指揮を執ってもらえばいいな」


「そこまで有利の戦いを進められればヤスミンもよろこぶだろう。

 だが、正直なところ、それは難しいと思うぞ」


 誇り高いグレタでもキャット族ではオーク族に勝てないと認めているのか?


「グレタ、もし明日も俺に付き合ってくれる気なら、寝た方がいいのではないか?」


「そうだな、そろそろ家に戻って休ませてもらう。

 クリスティアンも家の方が休めるのなら眠りに戻って来いよ」


 グレタはそれを言いに来てくれたのか?

 本当に心優しいキャット族だな。

 さて、治療に来る人間も途切れたし、狩りで手に入れた食糧を食べる前に思いついた事を確かめるか。


「ストマックサブスペイス」

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