第10話:魔力器官

王歴327年2月6日:南大魔境のキャト族村グレタの家・クリスティアン視点


「いったい何をするつもりなのだ、クリスティアン」


 リンクス族の族長であるグレタが付けた条件はただ1つ。

 どのような術であろうと、成功するかしないかは別にして、孫娘のラウラにその術を教える事。


「俺たちの身体の中に魔力を蓄える魔力器官がある事は知っているよな?」


「ああ、知っているぞ」


「食べたモノを魔力に変えて魔力器官に蓄える為にも、魔力をスキルに変えて使うためにも、魔力を流す魔力路がある事も知っているよな」


「ああ、知っているぞ。

 ただ、目に見える血管と違って見えないと言う事も知っているぞ」


「魔力や魔力路だけでなく、魔力器官も生きている間は見えないし触れない。

 死んだ後に現れて魔石や魔晶石、あるいは魔宝石に変わる。

 それも知っているか」


「ああ、知っているぞ。

 魔蟲や魔獣、他部族と戦って殺した時に自分の目で見ているからな」


「恐らくだが、魔力路や魔力器官は、霊体や幽体にあるのだろう。

 生きている間は形のないモノだから、意志の力で変化させる事ができる。

 それが俺の研究で確かめたい事だ」


「意志の力で変化させる事ができるだと?!

 魔力器官や魔力路を自分の思うままに変化させると言うのか!」


「まだ変化させられると断言できる状態ではない。

 これから変化させられるか変化させられないかを確かめるのだ」


 実際には変化させられる事はもう確認してある。

 普通の臓器のようだった魔力器官を、金庫のように堅固に変化させた後だ。

 俺が確かめたいのは、魔力路の所々に複数の魔力器官を創り出せるかだ!


「そうか、わかった、具体的にはどうするのだ?」


「ラウラは動物の小便袋を見た事があるか?」


「なんだ、急におかしなことを言いやがって」


「大事な事だ、見た事触った事があるのかないのかどっちだ?」


「見た事も触った事もあるぞ」


「だったら小便袋が柔らかく伸び縮みする事も知っているな?」


「ああ、知っているが、それが何だと言うのだ」


「知っているのなら、自分の魔力器官が小便袋のように伸び縮みすると信じろ。

 今一杯だと思っている魔力器官だが、新しい魔力が作られたら、魔力器官が伸び広がって今までよりも多くの魔力が蓄えられると信じろ。

 俺はその方法で3倍の魔力を蓄えられるようになったぞ!」


「バカな、そんな話しを誰が信じるのだ?!」


「ラウラが信じようと信じまいと俺は知らん。

 俺は今からその方法で魔力を蓄えるだけだ」


 すまんな、ラウラ、実際に俺がやるのは新しい魔力器官を7つのチャクラの場所に創りだす事だ。

 それができるようになれば、魔力だけに限ればこの世界で冠絶した存在になれる。

 他人に教えて自分の切り札を手放す気はない。

 まあ『悪食』スキルが使い物にならないなら、魔力も宝の持ち腐れなのだがな。

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