第16話バイバイ記念日


「二次面接ダメでした。応援してくれたのに

本当に申し訳ありません」


私は最後の試験結果報告を電話で聞くため

さくら通りを散歩していた。

唯一、1次試験を突破して2次試験の論文と面接まで辿りついた試験だった。


「一旦受験するのは辞めて、仕事量を増やして、とにかくお金を稼ごうと思っています。

お借りしていたお金は5月から返済を始めて

必ず8月までにはお返しします。

その上でなんですが、

マホと一旦お別れしようと思います」


やっぱりな…と私は思った。


「マホの生活は壊さないルールでしたが、

いつからか子供中心のマホの生活を見ているのが辛くなってしまいました。

例え医学部に受かったとしてもその先に

本当に我々の未来があるのかも分からなくなってしまいました。

受験もことごとく玉砕して、今の自分では

愛してるなんてとても言えません。

もうマホの事が好きなのかすらも、

分からなくなってしまいました。

なので、一旦、一旦お別れしてください」


私は何故かスッと腑に落ちた気がした。


試験に落ち続ける彼を励ますこと、

お金が足りないのか気にすること、

あるか分からない未来にしがみつくこと、

私も確かに疲れていた。


猛烈に悲しいはずだけど、

何故か涙は出てこない。

ただ静かな寂しさと、

やっとこの苦しみから解放されるんだという

安堵に似た感情が確かに存在していた。


「わかったよ。なんとなくこうなるような

気がしてた。元気でね」


春めく街角での電話。

そういえば初めてキスをしたのは、

この通り沿いだったな。


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