第25話 共感の喜び

『入ってみてら何かしら出会える』

『とりあえず入学してから考えたって遅くはない』


その言葉を頭の中で復唱させて心を落ち着かせる。長い試験勉強もきっとこの言葉のおかげでリラックスして取り組むことができた。

そして今、志望校のとある教室で試験を受ける。不安はあるけどきっと大丈夫、そう心に決めたから…


⭐︎⭐︎⭐︎


「もう試験が始まっている頃なんだな・・・大丈夫かなぁ」


自分の女装用品を整理しながら窓の外を眺め彼女のことを思い浮かべる。僕自身も去年経験した出来事であるが、一発勝負でしかも確定ではない試験であり勉強期間及び当日のプレッシャーというのは、何度も吐きそうになった。

彼女からは勉強のやり方などは聞かれたことはない。けれども受験期間中の過ごした方などはよく聞かれていたのを思い出す。話すたびに彼女の表情は曇っていたけど、僕はそうやって乗り切ったのだから下手にアレンジを加えて伝えるよりも真実を伝えた方が為になると思っていたからだ。


「年明けに一回だけ会ったきりだっけ。お土産渡して少しだべったぐらいだから、そんなに出会ったって感じもしないんだけどな~」


時計ははやくも午後1時を示している。お昼休憩はもうあとわずかで残りの科目の試験に移行したはずだろう。洋服を畳むことを辞めて、お昼ご飯の準備に取り掛かった。




「夕方になったら女子高生も多くなるな~、受験生ならわかるけどもお休みの日でも制服を着ているせいで休みの感覚が鈍ってくるな」


コンビニにたむろする高校生集団に家事を担当しているのだろうか、ポニーテールのように髪を纏めている女子高生とそれぞれのキャラクターが街に存在して面白い。活気があるように見えるが、前までは駐輪場から溢れる自転車の進学塾では自転車の数も落ち着いており、出てくる高校生の表情は疲れ切っているのがほとんどだった。


(やっぱり気になる・・・少し会えないかな。最悪、電話でも)


ひとまず彼女の声が聞きたかった。考えるような理由なんてない、いま彼女は元気なのかどうか、そのことばかりが頭の中に引っかかっていたからである。

上崎さんのアカウントを見つけ通話ボタンを押す。何度かコールが続いたので心の中では出れないんだろうと思い、通話終了ボタンを押そうとした瞬間に声を聴きたい本人が電話に出た。


「もしもし・・・あの今日、試験が終わって電話とか出る気なかったんだけど」


「ごめん、でも様子が気になったからさ。試験お疲れさま」


通話越しからため息をついているのが伝わる。呆れたのだろうか、表情を確認することができないから分からない。けれどクスクスと微かに笑っているような声も聞こえた。


「ありがとね、何とか乗り切ることができた。後は試験結果が出るのを待つしかないかなぁ。自信はないけどね」


「・・・多分、合格していると思う。上崎さんなら絶対に受かっていると思う」


根拠はないけど何故か受かっている気がしていた。彼女の日々の努力を目にしてはいなかったが、彼女が試験に落ちることを想像する方が難しかった。


☆☆☆


そしてそれから数週間が経ち、合格発表の日を迎えた。僕は彼女がどこの大学に進学するのかを聞かされていなかったので、彼女からの連絡を待つことに。そのため買い物などにも行かずに家でこもっていた。

そして10時を迎えて少し経ったのちスマホに着信が入る。上崎さんからだ、すぐに通話ボタンをオンにして電話を取る


「もしもし!結果どうだった・・・・」


「受かってたよー!!ちゃんと私の番号が載ってた!!」


心の苦しさがすっと抜ける。深呼吸のような深いため息をついてやっと落ち着いてきたかと思ったら涙腺が熱くなり涙がこぼれてくる。


「おめでとう…ほんとうにおめでとう!!」


他人のために流した涙はいつぶりだろう。頬を伝うその涙は普段よりもしょっぱく感じた

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