第20話 帰郷

年末、僕は実家に帰ることになった。

上崎さんとクリスマス会を終えた翌日に親から一本の連絡が届き、ギリギリで買えた特急券で実家の山梨へ帰る。

元々、年始には顔を出すつもりだったがこんなにも早く帰ることになるとは思ってもおらず28日の夜、もう21時を回っている状態の最中、急いで帰省用に荷物整理をおこなっているのだ。


『年末年始、実家の山梨県に帰省します。年明けにでもお土産持っていきますね』


上崎さんに連絡を送る。すぐに返信が帰ってきた。『りょ〜かい!期待してる(^^)』なんて短文とスタンプが押されていた。

彼女はここから数ヶ月間が勝負の時なのだ、この時間まで返信が返ってくるだけでもありがたいと思う。


「眠いけど明日の特急には間に合わせないと」


急ぐ必要はないが12:45分という出発時間だ、冬季休暇期間中で私生活が乱れた自分にとってギリギリにならないか不安になる。着替えは実家にもあるのでわりと小さめなリュックでも大丈夫だろう、特急券にスマホ類にヘアワックスなどを詰め込んでいく。


「着ていく服はこれでいいか・・・そういえば親には何も言っていなかったな」


クローゼットを開き明日の洋服を探しているときに目に映ったのは、綺麗にハンガーにかけられた『くすみピンクの可愛らしいワンピース』


上京して大学生活をスタートしてから始めた新しい僕の一面であり、趣味である。そのことを親に一言も言っていないのを今、思い出した。


「もし言ったりしたらどんな反応をするんだろう、、、やっぱり引くよね」


女装に関して寛容なのかどうか、それといった話をしたことはなかった。両親に関しては、テレビに映る女装芸能人に対していい顔をしていなかった。社会人となった姉は同じく東京に出て早3年も経ち多少は免疫はあるだろうが、身内でしかも弟がこんな趣味を持っていた事を知ったのなら引くことは確定だろう。


「まぁ言わなくてもいいか、バレもしないだろうし」


クローゼットを締めて一息をつく。この姿は、身内という関係性の中ではさらさなくていいのだ、今あるこのつながりの仲で楽しめればいい。

時計を見ると夜の23時を示していた、荷造りした荷物を玄関に置き明かりを消した。



「やっぱりこっちの方が寒いな、、、雪を振った形跡があるし。戻ってきたんだな」


新宿駅から特急に乗り1時間半ほどで僕の住み慣れた土地へ行くことができる甲府はやっぱり都会よりも空気がきれいに感じる、人混みが向こうに比べて少ないからだろうか。進学前は、このロータリーに通る人混みを見たりして肩を落としていたが都内での生活を一年続け、あたらめてみると何ともないものなのだな、と感じる。


『おはよ、甲府に着いた。これからバスに乗ってそっちに向かうから』


駅を降りて外に出る、通いなれたバス停前歩き乗車して再度揺られながら実家に向かった。窓の外から見える景色は都会比べて落ち着いている。ドリンクを片手に短めのスカートを履いた女子高生はいないし、飲み屋の喧騒もない。自動販売機よりも多いと感じるコンビニも見かけない。


「やっぱりこっちは何もないな・・・!」


懐かしさのあまり笑えてくる、ここまでも違う環境で生活をしているとは思ってもみなかったからだ。まるで国が違うように感じる、そんな感情に浸りながらバスに揺られていった。



「ただいまー、帰ったよ」


「お帰り~!海人、なんか変わったわね!!早く上がってきなさい。お父さんは今、買い物に行っているから」


「姉さんは?まだ、帰ってきていないの?」


「うん、ちょっと仕事が立て込んでいるらしくて30日ぐらいに帰ってくるらしいわ。本当、過労で倒れないか心配よ」


我が家は、家族四人の一軒家で一回が共有スペースで二階が姉と僕の部屋となっていた。今となっては二人とも実家出ている身で姉の部屋は奇麗にされている。

母である君島智代は二人の子供のことを日々心配しており、いつ家に帰ってきてもいいように部屋を掃除しているようだ。


「でも海人が元気そうにしていて良かったよ。ご飯もちゃんと食べているようだし」


「?あれ、そんなこと伝えたっけ?」


「分からない?この前の夏休みに帰ってきた時と比べて肌の艶もいいしだいぶ健康的に見えるわよ?」


僕はその一言にハッと気づいた。

女装趣味を知らないでいる普段顔を見せ合う人なんてバイト先でしかなかった。けれど、それ以上に僕自身をよく理解している親から見た姿というのは、かなりの様変わりに写ったのだと思う。

肌と体型も髪質も夏休み中と比べたら別人のように写るのだろう。


「大学生活楽しんでいてよかったわ。私たち少し心配していたし…あ、お父さんと亜澄(いずみ)帰ってきたかも!」


母さんの言った通り、車の音が近づきエンジン音が止まると2人の足音が玄関を開けた。

50歳になり少し髪が後退しつつも以前と変わらない見た目で黒の眼鏡が似合う父、義信と少し茶髪が混じった髪型だがきちんと社会人のようにケアをしたロングヘアの姉、伊澄が帰ってきた。


「お、海人じゃん〜久しぶり!なんか変わったね、大学デビューでしょそれ」


「まぁ多少は…父さんも久しぶり」


「ん、元気そうで何よりだよ。夕飯は鍋らしいからそれまでゆっくりしてな」


そういってリビングのテーブルではなく、炬燵に入りテレビを眺め始めた。なんだか、年相応のお爺ちゃんに見えたのは自分が少し大人になったからだと思う。


「それじゃあ私たちは部屋に戻ってますか」


姉である伊澄に続いて二階に上がる。互いの部屋の前に来た後、自分の時間を楽しむのかと思ったら声をかけられ正面を向いた。


「久しぶりに会ったんだし、ちょっと話さない?海人と話すのなんか今年初めてなんだし」


確かに伊澄とはお盆の時期が上手く重ねる事ができず会うことが出来なかった。彼女の言う通り今日が初の顔合わせ。

姉の部屋に入り、丸いちゃぶ台に飲み物とお菓子を広げ話し始めた。

大学生のこと、彼女ができたか。社会人の辛さ就職は何にするの、なんて他愛無い会話だった


けれど姉が聞きたいのは他のことだった


「ねぇ、海人。私たちに隠していることはないかな?怒るようなことじゃなくて」


「どうゆうこと?彼女は本当にいないけど」


「違うって笑…まぁ知っているのは私だけだと思うんだけどさ…」


何故だろう、少し嫌な気がする


「私の高校生の時の制服、着てたでしょ?」


「だからさ、その話も聞きたいし海人の女装趣味の話を聞かせてよ」






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