第13話 変わらない日常

季節は11月。秋の生暖かさもいなくなり、あっという間に肌寒くなってきた。

街を歩いている人たちは、皆コートや薄いダウンジャケットを着ており女子高生たちも制服にカーディガンという着こなしが増えてきた気がする。

新田さんとは、あの出来事以来、特に変わったこともない。普通に講義の話もするしご飯だってたまに行く。女装の話も至って普通にやり取りしているし表面上は何も変わらないのだが、少しだけ気まずい雰囲気が残っていたりする。

それもそのはずで行為寸前のところまできて男側が拒否をしたのだ。普通に話せるだけでも有り難いと感じてしまう。

一方、上崎さんとはやり取りが激減している状態で、連絡をしても返信がないことがほとんど。最後に連絡をした際にかけれた言葉で『受験が忙しくなるから、もしかしたら会える頻度が減るかもしれない』と送られた。

以降こちら側から連絡しても返信がない。


そんな誰もいない状況下の中で僕は一人、女装をしていった。


・・・・・・・・・・


「チークはどれにしよっかな・・・あと、ファンデーションも新しいの買いたいし」


とある平日、たまたま午後の授業が休講になり僕は上崎さんと初めてコスメを買った駅隣接のショッピングモールに来ていた。店内は雑貨あるが大体が女性用品の物ばかり。先月、初めて一人でお店に来たときは心がバクバクで冷や汗を大量にかくなど緊張をしていたが、『プレゼント用で選んでます』と言えば少しは店内の雰囲気に合わせられるんだな、と感じ今日も足りなくなった化粧品を買いに来ている。


「こちら4点で2730円になります。プレゼント用にラッピングなどはされますか?」


「えぇ、お願いします」


代金を支払い商品を手にする。ピンク色のストライプで綺麗に袋詰めされており何とも可愛かった。


(家に帰るには少し時間があるなぁ・・・カフェでも行こうかな)


時刻はまだ午後三時を示しており、家に帰るにはまだ早い気がするが、特に行きたいところというのも思いつかない。出した考えが、彼女と行ったことがあるカフェに行くことにした。

お店に着くと、前回のようにいろいろな年齢層がごった返しで過ごしている訳じゃなく、仕事中で何かパソコンで作業をしているサラリーマン・OLやママ友だろうか、複数人でテーブルを囲んで話しているのが見て取れる。


「すみません、カフェラテを一つ」


商品を受け取り、奥のカウンター席に一人座る。外を眺めると制服を着た学生がちらほら見え始めて放課後を楽しむのだろう。彼女も今こうして、同級生と今の時間を楽しんでいるのだろうか。

そんなことを思うと、今までの時間は彼女の暇つぶしの一つに過ぎなかったのかもしれない。考えても、急にコンビニに現れたメイクも服装もなっていない女装した男がいたのだ、気になって声を掛けたのだろう。

そこから、暇つぶしの一つとして女装趣味を手伝ってくれた。こんな趣味を持つ人なんて、なかなかいない。物珍しさで接してくれた。けれど、彼女は高校生で僕は大学生。年齢差もあるしまず僕は彼女のことを何も知らない。だからこそ、飽きたら捨てることができたのだ、我ながら女々しく思ってしまうけどそれだけ彼女との過ごしてきた時間は楽しかったから。


(もう一回会えないものかね・・・)


受験はいつ頃終わるのだろうか、終わってもまだ覚えているだろうか。そう思いながらカフェラテを一口、飲む


「すみません・・・ここ座って、、、」


声をかけられて隣の椅子に置いていたカバンをどかす。その時、ふと声を掛けた方向に顔をむけた。


「え、、、上崎さん、、、?」


「奇遇だね、、、久しぶり」


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