第3話 始まった理想探しへ

あの夜、彼女と会ってから数日後。僕の女装は少しづつだが、変わっていっていた。


『まず女の子の服を着る前に…瘦せなさい!海人君自身、瘦せてはいるけど引き締まってないんだよね~ほほのお肉とかお腹周りとか・・・』


『僕、結構瘦せていると思いますけど・・・まぁ少し頑張ります。何か注意したほうがいいのってありますか?』


『とりあえず食べることを抑えれば?食事も野菜とか脂っこいものよりサラダとかヘルシーなものを中心にして食べてみたほうがやせると思うし、肌とかの艶にもつながるから』


メイクとか服とかのアドバイスが来ると思っていたが、自分の体へのケアが先に来るとは思ってもいなかった。よくよく考えれば肌の艶がメイクのノリにも繋がるって思い出す。

(まずは体のケアが優先てことか。美容の先生みたいだな)


そこから僕は食事を見直し野菜中心の生活から始めていった。大学の友人たちからは

『いったいどうした?』なんて聞かれるが、女子高生から言われていて何て話したら一気に広まる気配がするので、それとなく濁していき一か月ほどが経った。


(肌変わってね?野菜食べてきたおかげなのか・・・!?)


全体的にはまだまだなのかもしれないが、少しやせた気がするしニキビの数が減った気がする。そんな、自分の変化に喜んでいると携帯に一件の通知が鳴った。佳澄さんからだった。


『お久しぶり!元気にしてた?突然だけど今日、少し会えない?時間はそうだね、夕方とか』


『こんにちは、お久しぶりです。夕方ですね、いいですよ。待ち合わせは最寄り駅にしますか』


返信をするとすぐに返ってきた。内容はスタンプでOKのやつ。


(今日は午前中で講義終わるし、時間もあるから大丈夫かな。とりあえず、お昼食べて時間をつぶそう)


急な予定はあまり好きではないが、せっかく彼女が時間を作ってくれたのだ。それまでの時間の潰し方に苦労しながら、約束した時刻になると僕は最寄り駅に向かっていった。


「確かこのあたりだよな・・・学校終わりだとしたら制服。探すのに一苦労だな」


待ち合わせの最寄り駅は四つも電車が入り乱れ、しかも併設されたショッピングモールもあるためか、夕方になると人の人数がかなり多くなる。

女子高生だって、ほぼ同じような姿(制服だし仕方ないか)だし、髪形や表情も同じように見えてくる。これがはやりなのだろうか、眺めているとそれを実感しそうになる。


あたりをキョロキョロと探していると一通のメッセージが届いた。彼女からだった。


『お疲れ~駅に着いたよ!改札口は人が多いから、東口を出てすぐ近くのコスメショップにいるから』


ご丁寧にお店のURL付きですぐに合流できるようにしてくれている。僕は東口に向かい、すぐに記されたコスメショップへと足を運んだ。


「ん?あー、いたいた。海人くん、迷わずこれてよかったよ」


待ち合わせにいた彼女はやっぱり制服を着ていた。紺のブレザーに水色と薄いピンクの線が入ったチェック柄のプリーツスカート。丈は巻いておりひざ上の高さで彼女のすらっとした足を魅力的にさせている。髪形も、あの時はOFFだったのかストレートで纏めていたが今は毛先を巻いており、一目で今どきの女子高生と感じられた。


「佳澄さんがお店の場所を分かりやすく教えてくれたおかげだよ、ありがとう。そっちこそ学校お疲れ様」


「ありがとう。合流できたところだし、カフェにでも行きましょ。立ち話もアレだし」


そう言われて、そこから少し歩いたところの人気チェーン型のカフェに場所を移した。互いにドリンクを購入し、たまたま空いたテーブル席に腰を下ろす。

ちなみに僕が購入したのは、カフェモカで彼女はレモンのシトラスティーだった。


「たまたま席が空いてよかった・・・カウンター席でもいいんだけどやっぱり

テーブルを挟んだほうが話しやすいしさ」


「まぁ、そうですね。お客さんの数が多いと尚更。ところで今日はどうして呼んでんですか?」


普段はメールでのやり取りだったので、こうも彼女から会って話したいと言われるとは思いもしなかった。だからこそ、何を聞かれるのか・言われるのかが心配で授業中もそれどころじゃなく、全く頭に入らない状態だった。


「ん?そのことね、一番はちゃんと話していたことを守っているのかを見ておきたくてさ。ほら、肌の状態って写真で確認するよりも、直接見たほうがわかりやすいから…」


そう言うと、彼女は僕の顔を眺めていく。途中途中、おでこにかかった髪をあげたり横を向いたりして全体を見せていった。


(ヤバい・・・視点をどこに向ければいいか分からない。てか、めっちゃ恥ずかしい)


ものの数分間、顔を見られるだけで恥ずかしがっているのは、自分の女性経験の無さからだろうか。何回も動かないで!と言われるのが、年上大学生として情けなくなる。


「うん!肌の状態がだいぶ良くなっているね!これを継続していればメイクのノリも良くなっていると思うし」


現役女子高生から、こうも褒められると少しうれしくなる。

けれど、メイクのノリがよくなってきたとしても自分にはまだ理想となる”顔”が見つかっていなかった。


「後はイメージだね、どういった女の子になってみたいか。これが結構大事なんだけど何かイメージが湧いていたりする?」


「・・・正直なところ実際は思い浮かばないです。ふんわり浮かんでいたりはするんですけどね・・・」


下地となる顔の状態をよくしても、個人でメイクの練習をしないのはこれが原因でもあり何を目指していくべきなのか、分からなかった。


「よし、じゃあ見ていこうか。そのいいなぁと思う理想像を」


「え?それってどういう・・・」


「このあたりなら色んな女性がいるし一人ぐらいはいいなぁと思う人がいるんじゃない?だから、ショッピングついでに探しに行こうか」


そう言って空の容器を捨て、店外まで歩き出す。

こうして『なりたい自分探し』の為、街中へ繰り出していった









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