第21話 背負った思い

—1—


 裏山を少し下ったところで志保とありすは海沙と戦っていた。


「んっ、きゃっ」


 銃声が響く度にありすが反応する。

 そんなありすとは打って変わって志保がどんどん海沙に近づいて行く。

 スマホが鳴り、木に隠れてスマホを開く。


【島貫きらら、脱落。Bチーム残り5人】


「きららちゃんが……」


 海沙はスマホを見ている志保に気付かれないように死角に入った。


「志保! 右!」


 ありすが叫ぶのと同時に木から姿を出した海沙が志保を撃った。

 志保の脇腹に弾が命中する。


「志保!」


 ありすが志保の元に駆け寄る。

 そして海沙に発砲した。

 しかし、弾は当たらない。


「志保、大丈夫?」


「う、うん。大丈夫」


 志保が撃たれた脇腹を抑えながら立ち上がった。

 その姿はとても大丈夫そうではない。


「志保、志保は休んでて。ありすがなんとかしてくる」


「ありす……」


 小さい背中が志保の元から遠ざかっていく。


「海沙ーーー!」


「あーりーすーー!」


 ありすの勢いに負けず、海沙も走ってくる。

 両者の手には拳銃が握られている。

 円を描く様に2人は走り、1発、2発と発砲した。


 もうありすの残りの弾は1発しかない。

 一方、海沙は持っていた拳銃を捨て、ポケットから新しい拳銃を出した。


 そして、ポケットから拳銃を抜くなり、ありすに向かって乱射した。

 ありすは咄嗟に半身になって小さくなり弾を腕で防いだ。2発右腕で弾を受けたありすはその場でうずくまった。


「ありすー!!」


 志保が震える手を上げ、海沙に向かって引き金を引いた。

 弾が海沙の胸に命中した。


 しかし、海沙は倒れなかった。

 志保に狙いを定めると素早く引き金を引く。銃をスライドさせもう1度発砲した。


 その時、海沙の頭から血が噴き出て海沙が横に倒れた。

 海沙の撃った弾はというと1発目は外れ、もう1発は腹に命中した。

 志保がうつ伏せに倒れ込む。


【足立海沙、脱落。Dチーム残り2人】


 草が揺れる音がしてありすが顔を上げた。


「芽以?」


「ありす、やっぱり私にはありすとか志保とかと戦うことはできないよ。さっき偶然きららと会って、戦ってきららを殺しちゃったんだけど、その光景が今でも頭から離れないの。今だって本当は、海沙のことを助けなくちゃいけなかったのにそうはできなかった」


「芽以」


 芽以の体は震えていた。


「だから私、Bチームのみんなと一緒に戦う。その結果死ぬことになっても」


 そう言って芽以はありすの前から去って行った。

 芽以の背中は赤い血で染まっていた。


「志保が、血を止めないと」


 ありすはうつ伏せになった志保を起こした。


「凄い出血。はやくしなきゃ。何かないかな」


 血を止めるものと言っても山の中だから当然何もない。保健室に取りに行ってからでは恐らく間に合わない。

 ありすは服を脱いでビリビリに破き、志保の傷口に巻いた。


「どうしよう。洋一くんに連絡しよう」


 ありすは洋一に電話をかけた。


—2—


 ショーンを倒し、祥平の援護に向かっていた洋一は裏山を下りたところで2人の姿を見つけた。

 祥平の体からは血が出ていて所々服が赤く染まっていた。


「祥平!」


「洋一、来るのが遅いんだよ。もうちょっとで死ぬとこだったぞ」


 武が俺に銃口を向ける。

 俺は右に飛んだ。

 しかし、武が撃った弾は左腕に当たった。


「ぐぁーーー」


「なぁ、武。洋一も来たことだし少し話をしないか?」


「何も話すことなんてない。俺は早くこのゲームを終わらせなくちゃならないんだ」


「さっきもそれ言ってたけどなんでそんなに急いでるんだよ」


「倒れたんだよ」


「はっ?」


「婆ちゃんが倒れたんだよ!」


 武には両親がいない。小学校に入る前に事故で亡くしてお婆ちゃんに引き取られたのだ。

 武の家に遊びに行ったとき、両親のことを聞いたら武が教えてくれた。


「なるほどな。そりゃあ、むきにもなるわな」


「早く病院に行きたいんだよ」


 武が祥平の足を撃った。


「ぐっ、でもな俺もお前にすんなり殺される訳にはいかねぇーんだよ。何人もの想いを背負ってるからな」


「俺もだ!」


 俺と祥平は同時に武に向かって走り出した。足を撃たれた祥平は、引きずりながら走っている。

 俺と祥平が撃った弾が武の体に当たる。武も負けじと撃ち返してくる。

 もう体に弾が当たっても関係ない。痛む体を無視して武に突っ込んで行った。


「武ーー!!」


 突然、そう呼ばれて武が声の方に首を曲げた。

 声の主は芽以だった。全速力でこっちに向かってきている。手に握られている拳銃の先が武へ向いていた。武が芽以を撃ち抜く。


 突然現れた芽以が生み出した数秒を俺と祥平は見逃さなかった。

 俺は武の心臓付近に、祥平は武の頭を撃ち抜いた。


【高橋武、脱落。Dチーム残り1人】


 体から見たこともない量の血が出ていたが不思議と痛みは感じなかった。これがアドレナリンってやつだろう。

 倒れている芽以の傍に行った。


「芽以、どうして?」


「私はみんなと戦えなかったんだよ。だって友達だからさ」


「芽以」


 芽以の頭から血が流れているのを見て、素人の俺でもわかった。

 もう芽以は助からないと。


「そうだ。ここに来る前にありすと志保に会ってきたんだけど2人もだいぶ怪我してたよ。うっ」


 芽以が顔を歪めた。


「洋一、最後に伝言頼んでいいかな?」


「あぁ、なんだ?」


「お母さんに、今まで育ててくれてありがとうって……」


「芽以、おい! 芽以!」


【三嶋芽以、脱落。Dチーム残り0人】


【残り1チームとなりましたので的当てゲームを終了します。お疲れ様でした】


「芽以、わかった。絶対伝えるよ」


 メールを閉じた俺は、スマホに着信が入っていたことに気付いた。

 ありすからだった。すぐに電話をかける。


『やっと出た! 洋一くん、早く来て! 志保が、志保が』


 ありすは、涙声だった。


「どこにいるんだ!」


『裏山の東側!』


「わかった。すぐ行く!」


 電話を切って、祥平の方をチラッと見た。

 祥平は横になっていて、俺を見ると何も言わず片手を上げた。

 俺は祥平を残して志保とありすがいる東側に走った。


「ありす! 志保は?」


「ここだよ」


「志保」


 倒れている志保の横にありすが座っていた。


「志保、大丈夫か? ゲームは終わったぞ!」


 何回か志保に呼びかけると志保が目を開けた。


「あっ! 志保! よかった、気付いた!」


 ありすが歓喜の声を上げる。


「よういち、くん?」


「あぁ、ゲームは終わったぞ」


「そうなん、だ。よかった。これで遊びに行けるね」


「そうだな。怪我が治ったら遊びに行こう」


「うん。みんなは?」


「いや、残ってるのは俺たちと祥平だけだよ」


「そう。よういちくん」


 志保が俺の顔に手を伸ばしてきた。志保の手が俺の頬に触れる。


「なに?」


「私ね、洋一くんのことが、好きです」


 突然の告白に一瞬、頭が真っ白になった。

 そして、頬が熱くなった。


「へへへっ、言っちゃった……」


 志保の手が俺の頬から離れ、地面に落ちた。


「志保!! 行くな! まだ俺の気持ちを聞いてもらってないのに。あああああーーーー!」


 志保は2度と動くことはなかった。

 赤く熱い日差しが裏山に差し込み、太陽を見ると夕日が校舎を真っ赤に染めていた。

 

「志保、俺も志保のことがずっと前から好きでした」


 志保の顔に涙が落ちた。

 そこで俺のアドレナリンも切れて、俺は意識を失った。

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