第19話 乃愛の過去

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 全員スマホに目を落とす。


【特別ルール4:新たなチームを誕生させた。現在、存在するチームは2チーム。これが最後の特別ルールだ】


 最後の特別ルールは、新チームの誕生か。握手を終えた葵の表情を見た限り、新チームのメンバーは、事前にこのことを知っていた?


 いつ、どうやって知ることができたんだ?

 運営から直接、しかも俺たちに気付かれないように。


 ふと思い当たることがあった。未だ謎になったままのことがある。

 あれは、間違いなんかじゃなかったんだ。


「そうか。あの時か」


「何かわかったのか?」


 祥平がスマホを地面に置き、顔を上げた。


「あぁ、恐らく。そして俺の考えがあってれば7人目も見つけることができる」


「えっ、教えて洋一くん」


「もちろん。志保、昨日空メールが届いたことを覚えてるか?」


「うん。何も文章が書いてなかったメールだよね」


「そうだ。みんなにも届いたはずだ。だけど、俺の予想が正しければ空メールじゃない人もいたんだ」


「それが新しいチームを知らせるメールだったってことか?」


「あぁ、そうだ。それ以外思いつかない。ここにいる全員空メールを見せてくれ。1人だけ文章が書いてあるはずだ」



 これを思いついたとき、正直みんなに言うか迷った。

 特別ルール3の終了を知らせるメールで確実に祥平たちが仲間になったことが書かれていた。だから祥平たちは7人目じゃないことがわかる。


 ということは、元々Bチームだった俺たちの中に7人目がいるのだ。誰かが黙ってまだBチームに残ったのだ。


 当然俺ではない。メールが届いたとき、志保の空メールの画面も見せてもらったから志保でもない。芽以かありすが7人目だ。


 みんなが空メールの画面を見せてきた。ありすも画面をみんなに見せていた。

 芽以がスマホを持ったまま固まる。


「私が新チームのメンバーだよ。黙っててごめん。でもそうゆう風にメールにかいてあったからさ」


 祥平が芽以に拳銃を向けた。


「祥平! 待て!」


「なんでだよ。こいつは敵って認めたんだぞ」


「チームは違うかもしれないけど芽以は仲間なんだ。そうだろ芽以?」


「ごめん洋一くん。このゲームは、最後に残った1チームしか生き残ることができないからさ。私は、このチームから出て行くね。でもみんなのことは友達だと思ってるよ」


「おい、芽以!」


 芽以は、走って裏山を下りて行った。

 下りて行った芽以を狙って祥平が発砲した。芽以の背中に当たったが、芽以は何事もなかったかのように山を下りて行った。


「当たったよな?」


「何撃ってんだよ祥平!」


「俺は仲間は守るけど敵は容赦なく殺す。洋一、お前のその中途半端な優しさだけじゃ誰も守れないぞ。お前がこのチームのリーダーなんだろ」


「あぁ、そうだよ。そうだけど……みんな、生き残るぞ。生き残ってやりたいことを思いっきりしよう」


「洋一、新チームが来たよ」


 乃愛が立ち上がって銃をスライドさせた。


「みんな、最後の戦いだ!」


 全員が右手を合わせて気合いを入れた。


「洋一、約束の拳銃だ」


「ありがとう」


 祥平から銃を2つ受け取った。


「じゃあ、先に行ってるぞ」


「あぁ、すぐ行く」


 俺たちは頂上に陣を取り、葵たちを待ち伏せすることにした。

 上に陣を取った方が何かと都合がいい。

 みんなはもう移動を開始していた。


「乃愛、乃愛も早く行くぞ」


「うん」


 下を見て動こうとしない乃愛に声をかけた。

 乃愛と頂上に移動しながら葵について聞いてみた。


「葵と何かあったのか?」


「葵は、私が絶対に殺す」


 乃愛の目は、憎悪に満ちていた。

 その目に怯んで何も言えないでいると乃愛が話し出した。


 昔を思い出しながら、時々話すときに詰まりながら話していた。


「私ね、中学のとき葵と同じ学校だったの。私は、小学校からバスケをしてたから自然な流れで中学でもバスケ部に入ったの。そこで葵と初めて会った。葵とは話しも合ったからすぐに友達になった。みんなと切磋琢磨して、全国出場したいねーなんて言いながら毎日汗を流してたわ。これが青春か。なんて思っていたら事件は起こったわ。あれは忘れもしない2年生のときだった。私には、1年生から付き合ってたバスケ部の彼氏がいたんだけど、その彼と葵が部室に一緒にいたの。それも裸で。当然、葵は、私の彼氏だって知っていたわ。知っていながら体で誘惑したのよ。葵も許せないし、彼も許せなかった。私は、泣きながらその場を去って、後で葵に聞いたわ。なんで彼といたのか? って。それで葵はこう言ったの。『人のものってなんか無性に欲しくなるのよね』って……」


「歪んでる」


「でもね、まだ続きがあるの。彼とはすぐに別れて葵とも距離をとって、他のバスケ部の友達と仲良くしてたの。それを良く思わなかった葵が次は、私の友達を奪っていった。ある日から友達は、私を無視して葵と話すようになったわ。傍から見てもわかる完全ないじめだった。私は、それで部活を辞めたわ。何をしても葵に全部奪われる。だから中学時代は、できる限りおとなしく過ごした。それでやっと葵から解放されて高校生活ってときにまた葵がいるじゃない。でも、葵は私をいじめたことを覚えていないかのように接してきた。私は忘れてない。葵が私にしたことを絶対に許さない」


 乃愛によって全てが語られた。

 普通の友達なら友達が人を殺そうとしていたら止めなくてはならないが、乃愛の話を聞いたらそんな気は起きなかった。


 それに今は、自分の手で友達を殺すゲームをしている。


「乃愛、これやるよ」


 俺は祥平からもらった拳銃を1つ乃愛に渡した。


「えっ、いいの?」


「いいんだ。その代わり絶対に死ぬなよ」


「うん。全員生きてまた会おう」


 俺と乃愛も頂上に着いた。


「洋一君くん、下から来てるよ」


 葵と武を先頭に新チームの奴らが走ってここに向かって登って来ていた。


「みんな迎え撃つぞ!」

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