第14話 地獄の幕開け

—1—


 更衣室の中に入ると志保と芽以、ありすがいた。


「真緒ちゃんは?」


「ごめん」


 俺と蓮が更衣室の隅に座る。


「5人だけになっちゃったね」


 小さい声でありすが呟いた。

 芽以はスマホを見つめている。


「もう日付変わるね」


 芽以に言われてスマホを見てみると23時50分だった。

 あと10分で今日も終わる。


 今日はいっぱい死んだ。明日はもっと大勢死ぬかもしれない。

 葵と武のことを話していると日付が変わる。

 0時丁度にメールが届いた。


【特別ルール2:7時に学校の敷地内のどこか2箇所に拳銃を配置する。見つけたチームは自由に持って行ってよい。持って行く数に制限はなく早い者勝ちとする】


「そうきたか」


 弾数に限りがある以上どこかのタイミングで補充はできると思っていたが、このタイミングでか。

 2箇所で早い者勝ちってことは奪い合いになる。


 数の上ではAチームが有利だ。

 なんとしてでも他のチームより先に見つけたい。


「7時近くになったら拳銃を探しに行こう」


「どこに?」


「7時に配置するってことは元々人がいるような所じゃないと思うんだよね。だから裏山とか人が少ない所を探そう。昨日の雨で結構地面がぬかるんでると思うから今はしっかり休んで少しでも体力を回復させよう」


「そうだね。見張りはどうする? 交代にする?」


「じゃあ、ありすが最初に見張りやってくる」


「頼む。何かあったらすぐに呼びにきてくれ」


「うん。いってきまーす」


 ありすが見張り役として外に出て行った。

 とても眠れる気分ではなかったけど、次の特別ルールに備えて体力を回復させるべく座って目だけは瞑っておいた。


 これだけでも意外と体の疲れが取れる。

 気が付いたら俺は寝てしまっていた。


「おっ、洋一起きた?」


「蓮、ごめん完璧寝てた。見張りは?」


「今、志保ちゃんがやってるよ」


「そっか。交代行ってくるわ」


「うん」


 更衣室の扉を開けてプールサイドに向かった。


「志保、お疲れ」


「あっ、洋一くん」


 校舎の方角を見ていた志保が振り返った。


「交代しにきたよ」


「ありがとう! でも、もう少しだけここにいようかな」


「戻って休んだ方がいいんじゃない?」


「いいの私がここにいたいの」


「そ、そっか」


 志保が俺の顔をチラッと見た。


「選別ゲームが始まった日の朝のこと覚えてる?」


「んっ? あー、覚えてるよ」


「えー、本当に覚えてるー?」


「覚えてるって」


 志保は笑いながら、少し恥ずかしそうに俺の顔を見た。

 選別ゲームが始まった日の朝に、俺は志保と放課後遊ぶ約束をしていた。


 しかし、選別ゲームが始まってしまい結局遊べなくなってしまった。

 もう遊ぶどころの話ではない。


「洋一くんと遊びたかったなー」


「お、俺だって遊びたかったよ」


「これが終わったら絶対遊びに行こうね」


「うん。絶対行こう」


「それじゃあ、私行くね」


「あと少しだけどしっかり休んでね」


「はーい」


 手を振って志保は更衣室に戻って行った。

 選別ゲームが始まってから志保との距離が少し縮まった気がする。


 全てが終わったら志保に俺の気持ちを伝えよう。

 そのためにも生き残らないといけない。


 太陽が上がり始めてきて時刻は5時を過ぎていた。見張りを始めてから誰もここを通っていない。

 裏山には、あまり時間がかからないので6時頃にここを出ても十分間に合うだろう。


 いったん時間の打ち合わせをするべく更衣室に戻った。

 芽以だけ起きていて他は全員寝ていた。


「洋一くん、どうしたの?」


「太陽出てきたから時間の打ち合わせだけしておこうと思ったんだけど」


「みんな起こす?」


「いや、いいや。みんな起きたら芽以が伝えててくれ。6時にここを出るって」


「わかった!」


「じゃあ、俺は戻るよ」


「りょうかい」


 更衣室を出てまたプールサイドの元の位置についた。

 見張りをしつつ時間が経つのを待つ。


 6時までの約1時間の間に変わったことと言えば、プールにすずめが2匹来て水浴びをしていたことくらいだ。結局誰もここを通らなかった。


 6時になり蓮と志保がプールサイドに顔を出した。


「洋一くん、お疲れ様。誰も来なかった?」


「うん。1人も通らなかったよ」


「そっかー。良かったね何もなくて」


 志保は「顔洗ってくる」と言って蛇口があるところに向かった。


「蓮の銃は1発しか残ってないから、昨日みたいに俺と一緒に残らなくてもいいよ」


「洋一、大丈夫だよ。それに洋一1人だったら危なかったでしょ」


「それはそうなんだけど」


「今から拳銃を取りに行くんだからいいんだよ。ここぞって時にしか使わないようにするしさ」


「危なくなったらすぐに助けを呼べよ。俺が飛んでいくから」


「頼もしいね」


 蓮と話していると女子のみんなが全員起きてきた。

 準備ができているようだ。


「よし、行こう」


 プールを出て裏山を目指す。

 校舎に人影が見えたので、気づかれないようにゆっくりと隠れながら進んだ。


 予定より時間がかかってしまったが無事に裏山まで辿り着いた。


「6時47分」


 あと10分ちょっと。この裏山をまとまって探していたら結構な時間になってしまう。

 かといって手分けして探しても、他のチームと出くわしたらほぼ確実に勝ち目がない。この選択は非常に難しい。


「洋一くん?」


「あっ、ごめん。時間になったらお互いが見える距離まで広がって、裏山を登りつつ拳銃を探そう。それで見つからなかったら、次は同じように降りながら探す。これを何回か繰り返す。もし、探している最中に他のチームに見つかったら、俺たちがいる方に逃げること。これでいいかな?」


「うん。いいと思うよ」


 気のせいかもしれないが作戦を伝えているとき、裏山の上の方から人の気配を感じた。

 もしかしたら俺たちより早くに他のチームが登っているのかもしれない。


 最近、何をするにしても、「かもしれない」と思うようになっている。

 行動を起こす前には、まず疑いから入るようになっていた。


 7時になったところでスマホが鳴った。


【拳銃の配置が完了した】


 そう書かれていた。


「広がって」


 全員の姿が見えるくらいの距離に一定に広がった。


「ペースを合わせて行くよ! せーの!」


 俺の掛け声で一斉に山を登り始める。

 こうして、俺たちの地獄の拳銃探しが始まった。

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