第47話 現世の眠り姫
レンは病室のドアをゆっくりと開けた。そこには窓辺のベッドに点滴とインターフェースを着けたミレイの姿があった。
「ミレイ……! ここに居たのか!」
しかし、ミレイは目を覚さない。もしかしたら起きていてくれているのではというレンの淡い期待は叶う事はなかった。
「海玲様! 生きて、生きてるんですよね!?」
「脈拍、心拍数、血圧、基本的なバイタルサインは全て正常。間違いなく生きているよ。でもね、もう数日海玲ちゃんは目を覚ましていないんだ。こればかリハ私もお手上げだよ……」
生きている、という情報だけでも少し安心する事が出来た。
「突然、来院したと思ったら空いている部屋を貸してくれって……この病室は元々聖堂寺家の為に開けている部屋だからいいんだけど、大きなスーツケースから色々機材を出して、こんな状態さ」
「随分ムチャクチャやったんですね……」
「ウィスタリアとやらに行くと言っていて……インタフェースは外すなとかどうとか、私には何の事だかさっぱり……」
「それについては、俺の方から後で説明します。でもその前に少し外して頂いてもいいですか? ミレイと少し話しがしたいんです」
「わかりました。では、部屋の外に居ますので終わったら声をかけてください」
院長と高木はレンを残し退室する。
「……よぉ。こっちで会うのは久しぶりだな」
ミレイは静かに寝息を立てている。レンには当然ミレイが起きない原因が分かっている、しかしそれを受け入れるまでに時間を要した。やはりミレイは今もウィスタリアの中にいるのだ。
「今からでも遅くないんだぜ? 俺を驚かす実験だって言って、急に起き上がっても」
「…………」
「……やっぱり、そんなわけないよな。じゃなきゃあの時、お前があそこまで泣くはずないもんな」
「…………」
「俺も俺で、あの後丸一日泣きはらしちまったんだぜ? こんなんお前が見てたらなんて言うのかな? 笑うのかな、それとも呆れるのかな」
「…………」
「なんで……俺だけログアウトさせちまったんだ」
「…………」
「
「…………」
「どうしたら、お前を助けられるんだっ……!」
――――チャリン
ミレイの首元から聞こえた僅かな音。レンがかつてあげたネックレスが擦れた音だった。
「それ、まだつけてたのか? 3年も前にあげたやつだぜ? お前ならもっと良いもんつけられるだろうし似合うだろうよ」
「…………」
「本当に気に入ってくれてたんだな」
レンは握り拳を作っていた力を抜き、ゆっくりと立ち上がった。そして深呼吸をする。
「さて、メソメソすんのはもうヤメだ」
(ウィスタリアにもログイン出来ないし、アロンダイトも折られちまったが……)
レンはミレイから修正パッチにアロンダイトの名をつけてもらった時の言葉を思い出す。
(――"諦めの悪い君にピッタリだろう")
(そうだ、俺から諦めの悪さを取ったらミレイに怒られちゃうよな)
「待ってろ、必ずお前を迎えに行く」
レンも部屋を出る。もう少しミレイの元に居たかった気持ちもあったが、少しでも解決策を練る時間が必要だった。こうしている間にもウィスタリアでどれだけの時間が流れているか分からないからだ。
「お話しは出来た? 蓮君?」
「はい、そりゃもうタメになる話しが出来ましたよ」
「蓮君、なんというか、だいぶ活力が戻ってきたわね」
高木はレンの目つきと表情に曇りが無くなったことに気づきクスっと微笑んだ。
「約束しましたから、迎えに行くって」
「そう、ありがとう。蓮君」
「一度現状を整理したいと考えてます。どうすればミレイを取り戻せるのか」
「私にも詳しく聞かせてもらえないかな? 先程のウィスタリアというのも含めて。もしかしたら今の彼女のメカニズムの解明が出来るかもしれない」
「……分かりました」
レン達は院長に連れられて、小さなミーティングルームの様な場所に案内された。レンはそこで院長にウィスタリアの事、そこで何があったかを説明した。
「……俄かには信じがたい事だが、それが真実なんだよね」
「はい、ミレイが未だ目を覚さない原因は、まだ意識だけがウィスタリアに残っているからなんです」
「わかった。一旦その話しを信じよう。だが、そうだとしたらどうすれば海玲ちゃんの意識を戻せるんだ?」
「大前提にウィスタリアへの再ログインが必要です。そして、バグを倒して且つミレイのデータを取り戻さないといけません」
正直問題は思いつくだけで山積みだ。そしてその一つ一つも山の様に高い問題だ。
「まるで、雲を掴む様な話しだね」
「掴めそうな
「そうか、私だって医者だ。見習わなくちゃいけないな。諦めたら患者なんて助けられないしね」
3人の作戦会議はその後1時間程続いた。
※ ※ ※
――――同時期。国外にて、ある人物が動き出そうとしていた。
「Are you really going to Japan!?(なぁ、本当に日本に行くのかよ!?)」
荷物とスーツケースを引く大柄の男が自身の数歩先を行く女性に呼びかける。
「Of course. because she's there. I'm going to settle(当然よ。そこにアイツがいるんだから。ケリをつけに行くわ)」
彼女は男からスーツケースを回収し、代わりにチップとして紙幣を数枚手に握らせた。そして、男の静止を振り切り再び歩き出す。
「
「"Nasha"! calm down please!(落ち着けって! "ナーシャ"!)」
彼女の足取りは忙しなく、人混みの中へ消えていった。
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