第39話 墓穴は要らない
最低でも2分半の時間稼ぐ必要がある――レンにとって今まで生きていた中で最も長く、過酷な戦いが始まっていた。
「あら、威勢良く出てきたクセに何もしないのかしら!?」
一撃が重い。直撃すればもちろんアウト。掠っただけでも身体が切断されてもおかしくない。そしてレリエッタの鎌の一振りは見た目以上に広範囲に攻撃しており、真芯を捉えずともその勢いだけで瓦礫や棺桶などをまとめて薙ぎ払っていた。
(くそ……! 反撃に転じる隙もねぇ! 少しでいいんだ、なんでもいいから時間を……!)
最初の数度のやり取りでレンは確信する。優位に立てる可能性があると思っていた接近戦でさえも全く太刀打ち出来ない。
「何故、俺たちが来ることがわかった? お前のさっきの動きは事前に存在を認知してなければ出来ないはずだろ!」
次にレンが取った手段は『会話』だった。下手に逃げ回る事も出来ない以上、少しでもレリエッタの動きを止めたいという一心があった。
「あなた達はサーチかなんかで私達の居場所を突き止めたの? 仮にサーチを使ったなら私じゃなくてフィガロの方でしょうけど。じゃあ、逆に私たちに探知能力がないとは考えなかったのかしら?」
「――!?」
(そういうことか……! よりによって虚を突くつもりだったのにそこを掠め取られたか!)
「だからね、あんたが身体張ってあの女を隠そうとしても無駄よ」
「なっ……!」
レリエッタの手のひらから先ほど潰した人魂の様なものが飛び出し、レンとレリエッタの周囲を飛び始める。
「さあ、行きなさい。私のドールになりたければあの女を見つけておいで、
レリエッタの鎌が紫色に妖しく光る。彼女の号令と共に人魂が飛び散り、辺りを無造作に飛び回りはじめた。
「くそ! なんだよこれ……!」
(なるほど……こんな技が使えたのか。厄介だな、もう少し粘ってくれレン……!)
レンは人魂に向かって剣を振るが、的が小さく狙いづらい上に、当たっても手ごたえがない。
「そんなのでなんとか出来るワケないじゃない」
レリエッタがレンに迫る。
「ヤべ……!」
レンはギリギリでレリエッタの鎌を躱したが、ある異常に気づく。
「身体が……動かない!?」
「
「動け……動け! くそぉ!!」
「このまま真っ二つにしてもいいけど、アンタには怨みも何もないから後でいいわ。その前に仲間が殺されるところを見させてあげるわ」
飛び回る人魂の内の一つが棺桶の山に身を潜めるミレイの姿を捉えてしまった。
「みぃーつ・け・た」
「やめろ!!」
レリエッタは人魂の輝く方へ向かう。鎌の持ち手を下ろし、カランカランと音を鳴らしながら鎌を引きづっていく。
「隠れんぼはもうお終い」
ミレイに逃げ場はなかった。レリエッタに人魂を通して、サーチ同様の力を得る手段が有るとなると身を隠す術はない。
レリエッタは鎌を振る、吹き飛ばした瓦礫からミレイの姿があった。
「最初に殺されてれば良かったのに。手間かけさせないで欲しいわね」
(さて……見つかってしまったか。出来ればもう少し時間が欲しいんだがな)
「何をするつもりだったか知らないけど、これでもうゲームオーバーね」
レリエッタは大きく振りかぶる。
(えっ――詰んだのか? これ)
「ふふ、自分の尻拭いが出来て満足か?」
ミレイはこの状況にも関わらず微笑んでいた。
「はっ?」
「色々と語っていたが、結局こんな無駄な時間を費やして、なんの為に分断したのやら」
「何が言いたいわけ?」
「ああ、お前はフィガロといても足を引っ張るだけなんじゃないかと思ってね。大して役に立たなそうだし」
露骨とも言えるレリエッタへの挑発。最初は笑いながら聞いていたレリエッタだが、次第に怒りが込み上げてそれが表情に現れ始めていた。
「あんた、生意気ね」
レリエッタは鎌の持ち手を替えて刃の付け根、柄込みの部分でミレイの頭部を叩いた。
「ぐっ……!」
「ミレイ!! くそっ! やめろ……やめろよ!」
ミレイは這い起きるも、その動作は力無く、叩かれた頭部からは流血している。しかし、尚もミレイはレリエッタを挑発する。
「おやおや……その鎌で一思いに斬ってしまえばこの勝負は終わったのに。感情をあらわにするということは多少なりとも自覚はあるみたいなんだな」
レリエッタの中で堪忍袋の緒が切れる。持っていた鎌を地面に突き刺すと、先程までとはまるで別人の様な面持ちをかもしだし、ミレイの胸ぐらを掴み、持ち上げる。
「あーもういいや。その減らず口、叩き潰すわ」
「痛っ……!」
レリエッタは執拗にミレイを顔を殴る。影縫を受けたレンは庇いたくても動けない。ただ、一方的な蹂躙を見せつけられていた。
「もうやめてくれ!! レリエッタぁぁぁ!!」
レンが必死に呼び止めるも、レリエッタは手を止めない。数発殴られてからはミレイはぐったりとして動かなくなっていた。
「こんなもんかしらね。もう動けないでしょ?」
「……」
「あーあ、喋ることも出来なくなったみたいね。もう終わりにするわ。良かったわね、このまま
レリエッタは鎌を手に取り、ミレイの前に立つ。渾身の一撃を放つ為に大きく振りかぶる。
「――墓穴は要らないよ。だって私の勝ちだからな」
ミレイは虚ろな表情を浮かべたが、ニヤリとレリエッタを見て笑っていた。
「こいつ、まだ減らず口を――!?」
「『
ミレイは胸元に手を当てスプリクトコードを自身へ向けて発動する。
「な、何してんの……? コイツ!!」
異変を感じたレリエッタはミレイから離れる。
「ふふふ、大魔導士ミレイ様の誕生だ」
ミレイは自身を改造して習得したであろう、ヒールでレリエッタにつけられた傷を癒していた。
「なっ……!?」
「さて、やりたい放題やってくれたが……まぁいい。ここいらで幕引きといこうか」
「なめんなっ!!」
レリエッタは鎌を引き抜き襲いかかる。僅かな稚気もなく、純粋な殺気を放ち、ミレイと激突する。
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