第16話僧院ヒナルート11

 後日。

 奏介は僧院家を訪れていた。計画通り、来栖は強姦未遂で逮捕……一歩手前で釈放されたらしい。来栖家の力なのか、ヒナの父の手回しなのかわからないが。

 再度制裁が必要のようだ。奏介はそう決めている。


 さて、現在の状況だが、僧院家リビングにてローテーブルを挟んで向かい合っているのは不機嫌そうなヒナの父、文治である。

 ちなみに奏介はヒナと並んで座っている。

「で? それがお前の選んだ男か」

 眼鏡を指で押し上げ、不満そうに問う。

 ヒナは少し躊躇って、

「そ、そうだよ。少し前から付き合ってるんだから 」

「見るからにみすぼらしい貧乏人だな。ヒナ、相変わらずお前の感性は腐っているようだ」

「なっ……」

 ヒナ絶句。奏介はむっとした。自分の娘に酷い良いようだ。

「でもっ、お父さんが選んだ人は最低だったじゃん。来栖さんのところの息子! あいつ、ボクに襲いかかってきたんだよ?」

 文治は小さく息を吐いた。

「殿山の息子とのいざこざの時も思ったが、お前には我慢が足りない」

「が、我慢……?」

「そうだ。前回も今回もお前が我慢をすれば解決した話だ。妻は夫に尽くすものだ。多少の我慢は必要だ」

 ヒナは口を半開きにして呆然とする。

 今回の事件の顛末は聞いているはずだ。大人しく襲われろと?

「……実の娘を風俗で無理矢理働かすとか最低だな」

 奏介がぽつりと呟いた。それに眉を寄せる文治。

「なんだと?」

 目に見えて怒りのオーラ。

「きこえませんでした? 実の娘を、無理矢理風俗で働かすとか最低だなと言いました」

「風俗だと!? ふざけるなっ」

 テーブルをバンッと叩く。

「いや、だって、今回の件、ヒナは嫌だって言ってるのに、来栖の息子を受け入れろってことですよね? あなたが無理矢理しろって言ってるようなものでしょ。で、娘を嫁がせれば来栖の方から援助してもらえる。未成年の娘を風俗で無理矢理働かして金を手に入れる最低親父でしょ。何か間違っています?」

「ヒナの婚約者だったんだっ、それくらい普通だろうっ」

「なるほど、ヒナのお父さん的には性的暴行は婚約していればオッケーってことですね? 合意の上で仲良くするのは良いことですが、無理矢理は犯罪なんですよ。殴る蹴るの暴行と性的暴行に違いなんてありません。あるというならここで詳しく説明して下さいよ」

 この場がしんとなる。

「この貧乏人が」

「娘を売って金手に入れてる人に言われたくないですね」

「誰に向かって口を聞いてる!?」

「来栖さんの息子さん、ヒナに手錠かけて遊ぼうとしてたんですけど、あなたの指示ですね? 合意してないのにド変態ですね」

 奏介がにっこりと笑う。

「っ!」

「ヒナ、手錠かけられて嬉しかった?」

「んなわけないじゃん! そうだよ、きっとお父さんがボクに手錠かけてプレイしろとか言ったんだ。この変態クソ親父っ、最っ低!」

「そんなわけないだろうっ!」

「そんなわけないって、今我慢しろって言ったんでしょ? なのに手錠に関しては知らないとか通らないんですよ。なんのための言い訳ですか? ヒナにとっては同じです。我慢しろっつってるんですから、ド変態と思われても文句言えないでしょ」

「なん、だと?」

「はぁ、娘に手錠プレイ強要とか信じられないー」

 ヒナが呆れたように言う。

「仕方ないだろ、変態なんだから。でも、娘に対してはないよな」

「そうそう。実の娘をどういう目で見たらそんな発想に至るの? あり得ないんだけどー」

 文治はぷるぷると震え出していた。

「この馬鹿者がっ、私がやったわけではないだろう」

 ヒナは目を瞬かせた。

「ねぇねぇ、奏介君。さっき、お父さんは我慢しろって言ったよね」

「ああ、言ってたな」

「しかも婚約者決めたのはお父さん」

「だな」

「ボクが嫌だって言ってるのに勝手に決めた婚約者がヤバいことしたなら、責任はお父さんにある……と思わない?」

「ああ、当然だな。何しろ勝手に決めたんだからな」

「貴様ら、ここから出て行けっ!!」

 鬼の形相で叫んだヒナ父だったが、頭上から垂直に拳が降ってきた。

 ゴンッという音がして、

「がっ!?」

 ヒナ父が潰された蛙のような声を上げる。

「出て行け、じゃと? わしのかわいい孫娘に何を言っとる?」

「お、親父!?」

 ヒナ祖父は般若のようだった。

「貴様……僧院当主の名に泥を塗る気か」

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