紅色の揺らぐ日々、それは特別

2章【紅色の揺らぐ日々それは特別】2-1

洞窟から出ると既に外は暗闇に包まれ、白銀の月が舞台を独り占めしていた。

 辺りをぱっと見回しても目に映るのはごく僅かなものしかなく、空から降り注ぐ柔らかい月明かりを受け、光る木が三本ほどと、ぼこぼこした土の地面があるくらいだった。

 ちらりと見えた外の景色、ここは山のようだった。

 二人の姿はぼんやりと光り、誰が見ても麗人と言えるような風格が漂っていたが、それはウィッドの手首に赤くほうほうと燃える炎の輪がついているのを見なければの話だ。

 左手の手首に炎の輪をすることは魔界では奴隷の印になる。当然、天界にいたウィッドが分かるわけもなく先程、突然グロウリィーに手を握ってもらえたことで、上機嫌だった。

 山を降りたところで、馬車を見つけ、街まで運転してもらうことに成功した。


 乗せてもらった鬼にグロウリィーがお礼を言い、銀色に輝くコインを一枚渡す。それを興味津々に見るウィッド。グロウリィーが「行くよ」と言って、大きな石で出来た門の前へ歩いてゆく。門の奥からはお城下町に住む悪魔や魔人、怪物たちの賑わう声が聞こえてきた。

 中に入れば賑わう声はうるさいくらいになり、天界でのんびりと静かで穏やかに風が吹いていた場所にいた彼にとっては想像もできない様子だった。よく見たかったがグロウリィーにフードを深く被るように言われていたし、グロウリィーがどんどんと奥へ進むので詳しく見ることは出来ず、赤色に光る街を流れるように見ることしかできなかった。

「なぁ、もう少し歩くスピードを落としてよ」

 と頼んでみるが無視され、どんどん奥へ行く。やがて、住人たちの賑わっていた声が遠くなった頃、城壁だろうか。とても大きく、岩がピッタリと重なっている。

 グロウリィーが門の見張りの一人に紙を渡し、話している横をウィッドはなんだか面白そうだと思い、少しは小さくなった住人たちの声からかき分ける聞きいる。

「──様がそんなこと……」

「本当です」

「うーん、通行証は本物だと分かるんですけど、理由がどうも怪しいんですよ」

 どうやら先程の紙は通行許可証の様で、それは本物なのだが、理由が何やら怪しいらしく入れてもらえない様だ。

(グロウリィーは結構しっかりしてるんだな……理由は怪しいて言われちゃってるけど)

 グロウリィーが説得しようとまた口を開こうとした時だった。大きな門が軋む音がして、ゆっくりと、扉が開き、完全に開くのを待たず、声が飛んでくる。

「何事だ⁉︎」

 その声を聞いた途端。彼は見張りの者から素早く離れ、ウィッドの腕を掴むと出てきた者と必要以上に距離を取る。グロウリィーの睨みつける横顔が目に映る。

「モンクサー様!」

 モンクサーと歓喜の声をかけられたのは見るからに幹部の者で、派手な金色の装飾、黒い肌に、目元には白い模様が入っている。呼ばれる声に振り向きもせずそのまま二人の方へ大股で近づいてくると、いやらしい笑みを浮かべ。「おやおや、これはこれは」と高価な品物でも見た様な口ぶりで跪き、グロウリィーを見上げる。

「グロウリィー様ではありませんか。私の見張りがご無礼なことを……どうか許してください」

 グロウリィーの手を取り、自らの唇まで持っていこうとする。

「今すぐ離せ、いやらしい」

 氷で刺す様な視線でモンクサーを睨み、振り解く。ゆっくりと立ち上がると微笑んでみせる。

「そうでした、貴方はこういうことが嫌いでしたね。すみません」

 と言うと、ウィッドに一瞬だけ目をやる。

「奴隷ですか、いい趣味をお持ちで」

「……世辞はいい」

「……ふふっ」

「申し訳ないと、うわべだけでも思っているなら、通せ」

「やはり、貴方には皮肉も通じないみたいで」

 ウィッドはこの光景を見て混乱していた。幹部の者らしき奴はグロウリィーを様付けをするし、グロウリィーは明らかに彼を嫌っているし、二人の間に何かあったのは確かだが、手下の者は彼を知らない様だった。それにもう一つ気になることもある。

(あいつの言う奴隷て誰だ? 俺のことか? グロウリィーは何者なんだ? ……駄目だ、頭が痛くなってきた……後でグロウリィーに色々聞かなきゃな)

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