第2話 歴史
ブリーフィングを終えると、俺は休憩室に移動する。
軍事学校であるAnD第一高校は生徒数三百の軍事関係の教育を行う機関である。
俺は好き好んでこの学校にいるわけじゃない。DNAの判断結果、ここにいるだけだ。
趣味でパンを焼くのが好きだったりする。
周囲からの評価は冷静沈着、非情、寡黙、無愛想……まあ、そんなところだ。
熊野にも、少しは愛想を良くしろと言われている。
そんな俺に話しかけてくれるのが
なぜ話しかけてくるのかも分からないが。
「もう聴いているの? 内藤くん」
「え。ああ……まあ」
ぷんすかと怒っているティアラに曖昧な言葉で返す。
実のところ聴いていなかったのだ。
「なんで火月に言われっぱなしなの?」
「事実を言っている」
ティアラがなんでそんなに怒っているのか、気になるが、火月が悪いわけじゃない。
「それよりもお昼だぞ」
そう言ってメロンパンを取り出す俺。
腹が減っては戦はできぬとも言うし、俺はパンで腹を膨らませる。
「もう。そんなことばかり言って」
「しょうがないよ。それが内藤君の良さなんだから」
銀の髪を払うティアラに呼びかけるのは大人しい神住だ。金糸のような髪を揺らして笑みを浮かべる神住。
「内藤君はどんなに言われてもへこたれない。そういうところ格好いいと思うわ」
神住からの一定の評価は嬉しいが、素直に喜べない自分がいる。
「そうよ。否定する方が格好いいて風潮あるよね。でも本当に大切なのは相手を受け入れること。そっちの方が難しいけど、格好いいよね」
うんうんと納得するティアラ。
「って。それはそれ。火月は別!」
×マークを出すティアラ。そんなところも可愛いのだから仕方ない。
どこまでも澄んだ蒼い瞳で俺を映す。
「それよりも昼、いいのか?」
「もう。オトメはお腹空かないの」
そう言ってぐるぐると鳴る腹の虫。
恥ずかしそうに顔をうずめ、くーっとなく。
「この屈辱は必ず果たすからね! ASGで勝つんだから!」
指をビシッと伸ばし、宣言してくるティアラ。
ASG――AnDサバイバルゲームの略称で、他校とも合同の公式試合である。
基本的にはサバイバルゲームと同じで、ただAnDという宇宙用戦闘機を扱うのがルールとなっている。
中には改造したAnDも存在する。ただし演習機である。軍事用よりも軽く、武器は三つの中から選ぶようになっている。
近距離用のハンドガン。連射性が高いが、弾薬がそれやすく、飛距離も少ない。
中距離用のアサルトライフル。最もバランスのとれた、特徴がないのが特徴のライフル。
遠距離用のスナイパーライフル。連射性は低いが、弾薬が真っ直ぐに伸び、飛距離も遠い。
この三つと、大型の
俺の機体は最大まで装甲を削り、軽くしてある。その分機動性が上がっているが、いわゆる紙装甲。ちょっとした攻撃でもすぐに壊れてしまう。
食事を終えると午後からは座学が始まる。
「AnDの始まりはアンディー博士の提唱したAnD計画と呼ばれるものであり、妻クサンドラと同名のブラックボックスが知られている」
淡々と綴る暇な授業。そんなもの、歴史を調べればいつでも出てくる。
「AnDには意味があると言われており、これはDNAを逆さにした反逆の意味だとか、Anti DNAだとか、色々な憶測が飛び交っているが――」
実際には憶測の域を出ていない。
もっともアンディー博士の生まれ育った100年前は遺伝子でその人の一生を決めることなんてしていない。
「いずれも現行のテロリスト集団が〝人類解放〟を掲げる口実になっているのも事実である」
実際に体験したわけでもないのに、歴史を語る人とはどういう気持ちなのだろうか。本当にその意味なのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます