サンッ

神は冗談を言う。

神は自分が間違えたことは無いと言うのだ。

神は多くの可能性を産み出し生までも創った偉大な者だが、一つ大きな間違いをした。

それは、運命や必然と言う言葉を作ってしまったことだ。


by 社畜で過労死したとある転生者


ーーーーーー


あれから食事を済ませた俺とミルは学園に訪れていた。

俺の通う学園はヤルブァン高等王立学園。

王族が古来から運営する学園で国内トップの教育システムを兼ね備えていて、貴族の子供や上位の商人の子供が通う。

コネを作るのがこの学園に通う者の多くの目的だが、俺にコネ何かが作れる訳無かった。


「それじゃあギル様。行きましょうか。」

「あぁ。行くか。」


ミルに手を引かれて学園内を歩いていくと、あちらこちらから鋭い眼光がこちらを覗く。俺はこんな見た目をしているのであらゆる者から嫌われているのだ。無論家族からも。


上の兄弟二人はたまに会えば雑談する程の仲だが、両親とニ人の姉妹からはすれ違えば舌打ちをされ、幼少期から軽い意地悪をされていた。この学園に入るのに使ったのは、親の金ではなく俺が稼いだ金だ。俺はミルに与えた休日に何も無ければ経験値を貯金する為に、冒険者にはなってないがそれなりの魔物を討伐しに冒険に出ている。俺の稼いだ金の殆どは倒した魔物による物だ。ずっと経験値を貯めているので、それなりに保存した経験値に利子がついていると思う。


今までの自分の頑張りを振り返りながら、俺はフードを顔を隠すように深く被る。顔を見せない為に仮面みたいな物を当初は被っていたが、授業の際魔法で仮面が何度も事故を装いながら壊されて以来被るのを止めた。


ミルはそんな俺のことをたまに心配そうに見てくるが、俺は大した風に思っていない。何故なら、保存した経験値を一気に反映すれば解決するからだ。

しかし大丈夫なように振る舞えば、ミルは何か悔しそうな情けないような表情に変わり、普段明るいミルとは真反対のような落ち込んだ雰囲気になる。どうしてと尋ねても、はっきりと答えずに誤魔化したようにミルは答える。そんな元気の無いミルの姿を見るのは俺は凄く嫌で、俺はわざと気にしているような素振りをすることになった。


少し演技が出来ないときもあるが、ミルの為に気付いたら直ぐなおすようにしている。


それにしても最近のミルは少し様子がおかしい。

さっき俺が悪戯した時はいつもの自然のような様子だったが、何か無理をしているように感じる。見た目には変化が無いので、言ってしまえば俺の勘だ。だがら今日は恥ずかしながらも悪戯をしてみたが、やっぱり何処かおかしいと思う。特に食事の時なんかは、嬉しそうにも見えたがどこか悲しそうにも見えた。


ミルが俺のことを好意的な目で見ていることは知っている。

もしかしたら、好意的な目で見ている俺のことがこんなにも嫌われていることに腹を立てているのかもしれない。それとも、嫌われ者の俺に少しでも好感を持っている自分自身にストレスでも抱えているのか?


尋ねても答えてくれないので正解は分からないが、そうなると俺もこの学園を去った方がいいかもしれない。この学園には一応貴族の嗜みとして入学したが、別に思い入れは無いし学ぶことも殆どない。貴族の嗜みとミルのストレスを考えたら、俺は即後者を選択する。


ミルのことは、俺の本当の妹のように可愛がっている。ミルには将来は頼り甲斐のあるいい男と結婚して貰い、幸せな生活を送って欲しいと思っている。勿論その時は奴隷契約を破棄。その時が来たら寂しくて一日くらい泣いてしまうかもしれないが、ミルは明るくて気を遣えて静かに支えてくれるいい女性なのだ。スタイルもいいし、案外その時が来るのは早いかもしれない。ミルが俺に対する好感というのは、兄としてだろう。心配掛ける兄で本当にご免なさい。


ミルがもし聞いたらミルがギルに初めて激怒しそうな内容をあっさり心呟くギルだったが、無理をした様子は無く本心からの言葉だった。


そんなこんなで睨まれながら学園内を歩くこと数分。

ギルとミルは自分達の教室に辿り着いていた。


「今日も連れてきてくれてありがとう。明日もよろしく頼む。」

「えーっと………はい。」


何だか歯切れ悪く答えるミル。目を覗くようにしてじっと見ると、思わず目を合わせるのを避けられた。これは相当ミルを傷付けていたのかもしれない。

目を反らすということは、明日学園に来るのを嫌がっているということか、これないということだ。恐らく前者の可能性の方が高いだろう。後者であるとはあまり考えにくい。


これは本格的に急いで退学書類を作成して、明日にでも提出しなければならないかもしれない。ミルも俺に学園に行きたくないと言ってくれればいいものの、言ってこないのは俺に気を遣ってだろう。役に全く立たないのにわざわざここに来るのも馬鹿らしいので、明日には退学しよう。


自分の席を見つけると、俺はそこに座り机の上に肘を立てて机に身を預ける。

どうせ授業に参加しても俺なんて相手にされないし、学ぶことといっても全て前世の中学校で学んだことが殆どなので殆どの授業は寝ている。教師としても俺に関わりたくないのか寝ていたとしても何も注意をしてこない。今日はいつになく青々しく空が輝いている。絶好のお昼寝日和だ。


少ししてミルも俺の隣の席に座ると、いつもなら直ぐ俺に寄り掛かってくる筈が、何処か落ち着かない様子で周りを何度も見渡していた。俺に悪口をいう奴等がそんなに気になるのか。今まで気付けなくて本当にごめんな。


俺は安心させるようにミルの背中を撫でながら、自分のコートでミルを覆う。コートは少し暑苦しいだろうが、視界を防ぐのにこれ以上の物は無いので少し我慢して欲しい。

最初の内は暑いのが嫌なのか反抗しようとコートを外そうとしてきたミルだったが、わざわざ辛い思いさせる訳にもいかないので全てミルの攻撃を防いでいると、やがて安心したのか気付いた時には寝ていた。


よしよし。今日で終わりにするから今日だけは我慢してくれよ。少し早いがお昼寝を楽しんでくれ。

ガヤガヤと騒ぐ同級生達を心の中で睨みながら、俺はミルの呼吸が落ち着くまで背中を撫で続けた。



ミルを寝かし付けたギルも少しして眠りに入った。

ミルはいつ襲い来るか分からない奴に警戒していたが、ギルにあやされるとそんなの気にならなくなり、気付けば安心感を覚えて眠りに入っていた。


ミルとギルが寝てから約二時間後。

突如何の予兆もなく学園の闘技場にただならぬ気配を持つ者が現れた。その者から発せられる気はあらゆる生物の生存本能を最大限警告する物で、近くに居た闘技場で授業を受けていた者達の脳神経は一瞬で大ダメージを受け、筋肉が急激に緊張しその場で体が動かせなくなる。


元人間とは思えないはち切れんばかりの膨大な魔力と計り知れない悪がザマテスから溢れ出る。さっきまで青々しかった空は気付けば黒の絵の具でべっとりと塗ったように底知れぬ黒で染まり、辺り一面は電気を消した直後の部屋のように一瞬で闇に包まれた。


室内で授業を受けていた生徒も突然脳神経にダメージが入り、感覚にずれが生じて尿や便を垂れ流す者や、気を失う者が多く出た。

学園内には生徒を守る為の騎士団が滞在しているが、その騎士団も急に現れた禍々しい存在に多くの者が恐怖し、動ける者は騎士団の隊長だけしか残らなかった。



突如現れた者はーー殺戮のザマテスに思えた。


殺戮のザマテスとは地上の生き物を殺し過ぎたことで一度地獄へ落とされた元人間で、地獄でも反省することなく殺戮の限りを尽くした為地獄から追い出された『地獄泣かせ』との二つ名を持つ殺戮者。地獄を追い出された彼は地上に戻ると魔王を創り出し、更に多くの人々を殺したとされる神話上の人物。封印されたという文献は何処にも無いが、気が付いた頃に彼の殺戮の噂はひっそりと消えていったので寿命で死んだとされていた。


本来ならばここには現れる筈のない存在だが、魔王すら甘く感じるような邪の根源を持つような者の気は殺戮のザマテスにしか思えなかった。


ぐっすりと昼寝をしていたギルはこの禍々しい気に思わず目が覚めた。生存本能が無理矢理ギルを起こしたのだ。ギルは何事だと周りを見渡すと、ミルがガタガタと震えていることに気が付いた。


「大丈夫かミル。」

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい………」

「大丈夫かしっかりしろ。」


肩を揺らしても全く反応は変わらず、ミルの目は虚ろのままでごめんなさいと壊れたように言葉を口にしていた。その姿は壊れてしまった機械のようで、決して反応することは無かった。


全身を震わす邪気に思わず目が覚ましたが、ミルは壊れているし尿や糞まみれになって気を失っている貴族様達が居た。もしかすると、俺が寝ている間に何かが起きたのだろうか。ミルを苦しめたこの貴族達は別にどうなってもいいが、ミルをこんな目に合わせた奴は許すことが出来ない。


忌々しい気が発せられる方へ体を向けると、その忌々しい気を発していると思われる者は口を大きく開き周囲へ自己紹介を始めた。


「私の名は覇王ザマテス。お前らと同じ元人間で、今は破壊神をさせて貰っている。俺はお前らを無差別に全員殺してやってもいいが、俺は契約の履行によってミルという獣族の少女を貰いに来た。予定していた契約の日より少し早まっちまったが別にどうでもいいよな。普通は深夜に契約を履行するんだが、思わず生け贄を全員殺してしまってな。在庫が無くなってしまったので、俺は契約を早めて少女を貰いに来たところだ。俺は優しい性格なのでな、獣族の少女を一日一人生け贄として頂くことでお前らを無差別に殺すことは止めることにしている。今日はミルという獣族の少女が生け贄という訳だ。俺は獣族の娘が大好きでな、獣族の娘が酷く苦しんでいる様子を見ると思わず昂っちまう。もう死んでるかと思ったが、意外にもふっくらと育っているようだしな。次の契約が来るまでこれでもかと苦しめながら嬲り殺してやるよ。」


ザマテスはそう言葉を言い切ると、ワープ系の魔法でも使ったのか気付けば俺の目の前に立っていた。近くから溢れ出る計り知れない闇に俺は思わず、気が狂って窓から飛び降りそうになるが何とか気を保つ。


こいつは何と言った。

契約の履行だとか生け贄だとか一瞬じゃ理解出来ないことを多く言っていたが、俺の奴隷であり従者であり妹であるミルを生け贄と言い、持ち去り、嬲り殺しにすると言いやがった。


そんなこと俺は絶対に許さないし認めない。


とある童話の一節にこのようなものがある。


神は私達に殺生を許しました。

何故なら、死んでからでないと理解もしない聞きもしない馬鹿がいるからだ。

神は私達に憎しみを与えました。

何故なら、人を殺す時に心を痛くしないようにするためだ。

神は私達に心を与えました。

何故なら、心が無いと憎しみを理解出来ないからだ。



俺はステータス画面を開き、考えも無しに貯めていた経験値全てを俺のステータスに反映させた。


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ステータス


名前 ナハネス・ギル

種族 人類

年齢 17歳


[各レベル] 保存された総経験値量[0]


[体力]LV35→LV20580

[器用]LV35→LV15086

[肉体]LV40→LV12496

[魔法]LV40→LV14945

[剣技]LV35→LV20596

[料理]LV45→LV965

[美貌]LV1→LV721

[異常耐性]LV40→LV1058

[魅力]LV20→LV890

[礼儀]LV20→LV41

[瞬発力LV]30→LV8046

[会話]L35→LV48

[性欲]LV25→LV104

[教育]LV30→LV248

[読書]LV35→LV120


[各スキル]


・利子保存

・剣術

・優しい微笑み


[称号]


・転生者


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今まで保存していたステータスを反映させた結果、突然力が漲り何だか目の前のザマテスという男が何処にでも居る一般人のように見えた。溢れ出る圧倒的なエネルギー。自身から溢れ出る圧倒的なエネルギーは源泉の如く底が見えない。


自分の力にギルは現実感がまるで湧いていなかった。


貯めていた経験値が良くて二倍、三倍になっているくらいだと思っていたが、何千倍、何万倍という値にまで増えているとは。錬金術を遥かに凌駕しているぞこれ。それきしても桁5桁とは……世界が心配だ。


自分の気の何百倍もの圧倒的な気に、生まれて初めてザマテスは恐怖を感じた。ザマテスが邪悪の根源なる気とするのならば、ギルは世界を照らす圧倒的な聖気。ザマテスの体は自然と震え、視界が真っ黒になる。


生まれてこの方恐怖を与える側であった彼は恐怖を味わったことが無かった。思わずザマテスは気が狂いそうでこの場から立ち去ろうとするも、あまりの恐怖に指一つ動かすことが出来ずにその場で倒れた。


「………さっさと終わらせるか。」


ギルがそう呟いた時には、ザマテスの首と体が異次元な程綺麗に分離していた。遅れるようにしてザマテスの首から勢いよく血が流れ出る。

彼は光速2乗の速さでザマテスの首を切り落としのだ。何が起きたか理解出来たのは彼しか居なかった。神ですらも彼の剣筋を捉えることは不可能だった。

ただ彼以外に分かることは、ザマテスがギルに殺されたということだけ。多くの者が気を失っている今、その光景を見ることの出来る者は両手の指の数程も居ないが。



何とも呆気ない神話上の殺戮者の死に世界が揺れた。


彼はその場に剣を捨てると、壊れたように謝り続けるミルに近付く。

そして、優しく抱き締めた。


「こいつに何をされたかは知らないが、俺がもうやっつけたから大丈夫だ。ミルがもう泣く必要もないし壊れる必要もない。」

「……ありがとう」


ミルは何が何だかよく分かっていなかった。

ただ、自分を殺しに来るザマテスが死に、ギルがザマテスを倒してくれたということ。そして、ギルが実はとてつもなく強いということ、見るだけで盛ってしまいそうな程美しくなったということを理解した。




加えてーーまたギルに救われたということも。


ミルは近付いてきたギルに抱き付くと、そのままギルの胸に顔を埋める。

ミルの頭をミルが気が済むまでギルは優しく撫で続けた。



ーーーーーー


LV1~10 [最底辺]

LV10~20[底辺]

LV20~35[平均]

LV35~45[上位]

LV45~50[最上位]

LV50~[英雄]

LV100~[魔王]

LV1000~[神話]

NEWLV10000~[理解不能] ←今ここ。

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