十九話 早々に別れる?

「ね、ねぇ祐也。一緒に学園祭まわらない?」

「……へっ?」


 学園祭当日。

 俺は席についてボーッとしていると、白銀がいきなり声をかけてきた。

 しかも内容が内容だったため、俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「学園祭を? お前と、俺が?」

「な、何か文句ある!? 今日はたまたままわる人がいないの! だから、せっかくだから祐也を誘ってあげようと思って来たのよ!」


 いや、今日は全員いるし。

 欠席なんていないし。

 他に仲いいやついるんだから、そいつらとまわったらいいだろ。

 心の中でそう言葉を並べるが、それが口をつくことはなかった。


 白銀の様子がいつもと違うからだ。


 グイグイと来ることは変わっていないが、今日はそれの系統が違う。

 口を開けば俺とは真逆の意見が出てきたり、俺への罵倒が出てきた白銀だったが、今日は少しよそよそしい。


 頬も赤らめながら一生懸命に叫ぶ姿は、不意に俺の心を締め付けた。

 不覚にも、可愛いと思ってしまう。


「そ、そうか、ありがとう」

「で、一緒にまわるの!? まわらないの!?」


 白銀の剣幕に俺は上半身を仰け反らせると、ある少女へ視線を向ける。


 やっぱり、今日も人集ひとだかりがあるな。


 転校という形で光正学園に来てから約一ヶ月。

 未だに転校初日のように芹崎さんのまわりにはクラスメイトが集まっていた。


 本当は芹崎さんと一緒にまわりたかったのだが、あの調子じゃ割って入るのは無理だろう。

 人の目があるところで堂々と誘える程、俺は陽キャじゃないからな。

 俺は芹崎さんから視線を外すと、白銀に睨まれていることに気づく。


「わ、分かった! 行くよ! 一緒にまわる!」

「……早くそう言いなさいよ」


 物凄く小さな声で何かをつぶやく白銀。


「なんだって?」

「うるさい! いいから行くわよ! もうクラス発表とか始まるから!」

「りょ、了解!」


 俺は大きく返事をして席を立つ。

 すると、あろうことか白銀は俺の手を掴み廊下へ先導していった。


「あっおい! ちょっと待ってくれよ!」


 そんな俺の叫びも虚しく、俺たちは教室を飛び出すのだった。



         ◆



 あぁ〜なんということでしょう。

 祐也君が他の女の子に連れていかれてしまいました。

 それも白銀さんに。


 運が悪いことに、今はまわりにクラスメイトがいっぱいいて祐也君を追いかけることが出来ません。

 諦めるしかないのでしょうか。


 ……私だって、祐也君と一緒に学園祭をまわりたかったです。

 他のお友達とでも十分楽しめるのでしょうけど、やっぱり祐也君といるほうが楽しいし、何より落ち着きます。

 ありのままの自分でいられることも出来ますし、このまま諦めるには惜しいです。


「芹崎さん! 私達と一緒に学園祭まわろうよ!」

「あの、えっと……」

「おい、女子は引っ込んでろよ。芹崎さんは、俺と一緒に学園祭をまわるんだから」

「聞き捨てならねぇな、その言葉。お前なんかに芹崎さんが似合うわけねぇだろ」

「なんだと……!?」


 あぁ〜。

 どうしましょう、女子のお友達からのお誘いを断ろうとしたら、今度は男子たちが取っ組み合いを……。


 これでは、祐也君と一緒に学園祭をまわることが出来ません。

 一体、どうすれば……。


 私が頭を抱えそうになりながら悩んでいると、一人の聞き慣れた声が耳朶を叩きます。


「はい、ストップストップ。芹崎さん困ってるから」


 そうして割って入ってきたのは蓮君でした。


「お前は隣のクラスの……」

「どこの誰だろうが関係ねぇだろ? お前らは芹崎さんを困らせて楽しいのか?」


 蓮君の発した声に、まわりクラスメイトは私の方に視線を向けます。


「それは……違うな」

「うん。私たちは別に、芹崎さんを困らせたくてやってるわけじゃない」


 あれ? クラスメイトの勢いが、さっきよりもないような気がします。

 このままいけば、祐也君を追いかけることが出来るかもしれません!


「だったらさっさと他の奴らとまわってこいよ」

「でも、俺らが全員いなくなったら、芹崎さんが一人になっちゃうだろ!」


 男子のうちの一人がそう口を開くと、蓮君は口元をニヤけさせて言いました。


「それは問題ないよ、途中までは俺が一緒にいるから。芹崎さんもそれでいいよね?」


 そうして蓮君は私を見ました。


 ここは、どう答えるのが正解なのでしょうか。

 断ってしまったら、再び誘いの渦に巻き込まれてしまうのは確実です。

 だったら、口実をつけてでもここから離れたほうがいいような気がします。

 祐也君を追いかけるのは、その後でも大丈夫でしょう。


 時間はまだまだあります。


「れ、蓮君となら! 大丈夫です!」

「ありがとう、じゃあ行こうか」

「はい!」


 私が席を立つと、蓮君は私の手を握ってくれました。


「おい! もしかしなくともお前、最初っからそれが目的で来ただろ!」

「そんなことねぇから、お前らはとっととどっか行けよ!」


 そんなこんなで、私はクラスメイトの野次を背中に浴びながら教室を出るのでした。


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 れーずんです!

 二話連続失礼します。


 次のお話とその次は、それぞれ「荒巻祐也、白銀有紗ペア」と「芹崎有香猫、古川蓮ペア」の物語になります!


 今まで描いて来なかったそれぞれの関係性が少しずつ見えていきます。


 尚、厚かましくはありますが、もし少しでも面白いと思って頂けましたら、ハートや星、コメント、レビューなんかで反応を貰えるとむっちゃありがたいです!

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