彩球(サイタマ)経由三馬(さんま)関所

「ムカシノうどん、美味しかったねえ」

 私がうっとりしながら云うと、メイも少しポーッとした感じでこくんとうなずいた。

 久々に肉の旨みを強く感じるごはんだった。


 ムカシノうどんは太いうどんに、獣肉とネギの温かいつゆの、つけ麺だった。シンプルといえばごくごくシンプルな田舎風のうどんだったが、それだけにダイレクトにネギの甘みや肉出汁の濃厚さがガツンとくる。


 元々一杯あたりの量は多かったが、私たちはお代わりをして、まわりの人たちが物珍しそうに見ていた。


 道中は噂に聞くほど栄えているという感じではなかったが、もしかすると彩球は彩球でも、違う集落のことだったのかもしれない。


 拍子抜けするほど無人兵器の数も少なく、強行軍という感じでもなさそうなので、このまま夜のドライブと洒落込んでも良かったけれども、私たちはそのままチチブの集落に泊まることにした。


 宿には大浴場があって、自由に使えるとのことだったので女ふたり、貸切で大浴場を堪能した。


「元々ここは鉱泉が湧いてて、それを沸かしたのに入れたらしいな」


 男らしく頭にタオルを乗っけて、メイが云う。へえ、と返しながらメイの上気した肌を見る。首筋から肩のラインたまんねえな!


 私はふう、と息を吐いて深く湯に沈む。


 三馬に着いたら、本物の温泉に入れるのかなあ。


「本物の温泉入ってみたいな」


 屈託のない笑顔のメイに、私もブクブクと肯定の音を立てた。



 何事もなく朝を迎え、朝からムカシノうどんをおかわりして、若干の未練を残しつつ三馬県へと向かった。

 まさかの最難関は、その国 境くにざかいにあった。


「……これがサンマーは秘境だとかいわれる所以ゆえんか……」


 メイが赤髪をくしゃくしゃとかきむしった。私もあと少しで本気で地団駄を踏むところだった。


 三馬へは、車では入れない。

 K国鉄道とかいう、特殊な乗合車両でしか行けないのだそうだ。なんじゃそれ。


 強行突破しちまうか、とメイが目で訴えてきたが、私は首をふった。仮に私たちが滞空型自翔砲や無人航空機ドローンを振り切れたとしても、そこから一気にサンマーに無人兵器群の注意が集まっては  鏖  みなごろしの大惨事ということもありえる。


 メイが折れた。警備兵兼駅務の男へ、なけなしの大枚をはたく。


「あたしの愛車はちゃんと管理しとけよ!」


 私は会釈をしてメイのあとを追う。

 駅舎は、秘境の名にはふさわしくなく、結構な佇まいだった。そもそも電動の大型機関を動かすぐらいなのだから、需要も大きいのだろう。


 電気機関車が到着するまでまだまだ時間があった。私とメイは暇を持て余していたが、いくら暇でも腹は減る。


 弁当売りが目ざとく私たちに気づき、赤いひょうたんみたいな形で顔のある弁当と、陶器製の高級そうな弁当のふたつを寄越した。ともに安くはない値段だった。


「あの野郎、ふっかけやがって。まずかったら絞めてやる!」

「まあまあ」


 見るからに高そうな器に入った弁当と、さして値段の変わらないキッチュな弁当。どちらがうまいか、どちらを選ぶべきか。

 ぐぬぬ、と悩む隙にメイが手近にある陶器弁当を手に取りフタを取った。


「お、炊き込みごはんか、これ」

「半分こ!」

「は? ……べつにいいけど」


 やれどちらがどれをとっただ、これは美味いとかこれはなんなんだとかいってるうちに電気機関車——電車がやってきた。

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