第6話 復讐という名の地獄落とし 前編 3-2

「証拠がなかったらこんなことしねえよ。てめえがしでかしたことがどれだけのことかちゃんと理解しろやカス!」


 思わずほとばしった怒鳴り声に、千春の態度が一転し、目を潤ませる。


「ねぇ、そんなこと言わないでよ。今朝まではあんなに優しかったのに」

「演技に決まってんだろバァーカ!お前のようなクソ野郎と仲良くするとか、吐き気しかしないわ!」


 途端、千春がまとう空気が一変する。


「ちっ。こうなったらやるしかないか」

「何を言ってるんだ?」


 その質問には答えず、千春は叫ぶ。


「邦彦、助けてぇ!政信に穢されるぅー!」


 その途端入り口から走って入ってくる邦彦。


「おい千春、だいじょうぶか?」

「うん。大丈夫、ありがとう来てくれて」

「そっか。で、何があったんだ?」

「前から政信に脅されてたんだけど、今襲われそうになって」


 あたかも自分が辛いことをされた被害者のようにすすり泣く千春。


「そうか。おい政信、貴様はやはりクズだったな。千春を傷つけるなど、お前は人間ではない!早く死ね!」


 そう叫ぶなり飛びかかってくる邦彦。

 その後ろにはさっきの叫び声を聞き、沢山の生徒が集まってきているのが見える。


「何、何が起きてるの?」

「なんでも、政信のやつが浮気したのに、その事実を千春になすりつけようとしたらしいよ」

「うわぁ。政信ってそんなやつだったんだ」


 あっという間に虚偽の情報が広まっていく。

 こうすれば勝てるとでも思ったのだろうか。

 残念ながらそれごときで引くわけには行かないし、噂なんて75日あれば消えてしまうものだ。

 反省の色が見えたならまだ容赦したが、このようなことをするなら一切の容赦を与えないのが筋だろう。

 というか、あまりの酷さに堪忍袋の尾が切れた。

 邦彦が放った右パンチをかわし、 股を蹴り上げたところで、みぞおちに右拳を叩き込む。

 そのまま動けなくなった邦彦を縛り上げ、床に転がす。

 それを見た千春がまたも叫ぶ。


「邦彦くんに何すんのよ!この殺人鬼!」


 やばい、もういろいろ頭にきた。


「悪いけど、もう容赦はしないから」


 そう宣言すると、耳につけた小さい無線に向かって声を出す。


「こちらMN。作戦実行です、どうぞ」


 すると体育館の電気が消え、スクリーンが灯る。

 そこに映し出されているのは。


 素っ裸の状態で合体している邦彦と千春。

 しかも、その真ん中には再生ボタンが付いており。

 次の瞬間、動画が再生された。


『やっぱりさ、政信とちとせに単に別れを切り出すだけじゃつまらないよね』

『そうだね、千春。どうせならあの二人を悪者にしたいよね』

『そうすれば私達はみんなから祝福されるし、あの二人は地獄に落とせるから一石二鳥だしね』


 という会話が流されたり。


『毎日こうやって二人で会ってること未だに気づかないんだけど』

『仕方ないよ、千春。だってふたりとも陰キャのクズだもん』


 という悪口が流れたり。

 10分間に渡って流された動画の本数、30本弱。

 さらにそこからスライドショー形式で次々と表示されだす、証拠写真の数々。

 十分追い詰めたと判断し、俺は口を開く。


「おい、千春。これでもまだ捏造されただの私は悪くないだのと言うつもりか?」


 その問いに対し千春が言ったセリフは。


「私をこれ以上貶めてなにをするつもりなの」


 未だに反省の色がないセリフで。

 そのセリフを聞いて思わず怒鳴ろうとしたその時。


 パシン!


 乾いた音が響き、千春は突然頬を抑えてしゃがみこんだ。

 それを冷ややかに見下ろしていたのは。


 般若の形相をして立っている、殺気を周囲に撒き散らす少女。

 もとい、千春の実の妹である、ちとせだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る