第5話 出会いの話

アラリウルは国で1番治安が悪いと呼ばれるジキル街に訪れていた。


たがその姿はまるで別人のように変わってしまっている。


タレ目がちな目元はつり目になり、身長も伸び、髪の色は黒から白味を帯びた紫色に変色していた。


瞳の色に関しては、右目には変化が見られないが左目は真っ赤に染まっているため眼帯で隠している。


{リウル、これからどうするつもりなんだ}


「まずはどこかの組織に所属して、情報を得やすい環境に身を置こうと思ってる」


あの時森の中でヴァルナダと魂を一体化したことで、アラリウルは一命を取り留めた。


その影響で、外見が変化し頭の中にヴァルナダの声が聞こえるようになったのだ。


{組織って冒険者ギルドとかか? }


「まぁそうなんだけど、僕はいま悪い方向でかなりの有名人だから、普通の冒険者ギルドには入れないね」


{ではどうするつもりだ? }


「どうやら冒険者協会の非公式で、冒険者パーティーを組織している人達がいるみたい。 その選考会に合格して、そこで活動しつつ母さんとベルの情報を掴むって言うのが、今の僕の計画かな 」


アラリウルがヴァルナダと契約してから半年が経とうとしている。


その間1人で活動し母メリル、妹ベルの行方を追っていたが、全く手掛かりを得られなかった。


そこで、裏社会とも精通していると言われる非公式パーティーに入り情報収集することにしたのだ。


そのギルドは一定の実力があればどんな経歴の人間でも採用するという。


2人での情報収集に限界を感じたアラリウルはそこに所属することにしたのだ。


{なんだ、私との2人旅では不満か? }


ヴァルナダは少し不機嫌そうに尋ねる。


「いやいや、そいうことじゃないよ。 でも僕もヴァルナダも情報収集が下手すぎる… 」


{さっきの酒場のことか? あれはよく出来ていたとおもうが}


「いやいや、結果的に20人くらい半殺しにしちゃったじゃん! 」


{あれは、あの男どもがリウルのことを悪く言うから…… }


「それはありがとう。 でもダメ。 目立つ行為は絶対禁止だよ」


ヴァルナダは拗ねたように返事をすると、そこから暫くは黙り込んでしまった。





「ほら、着いたよヴァルナダ」


{着いたって、その非公式ギルドの選考会がここであるのか? こんな小汚い路地裏で? }


アラリウルは落書きまみれの路地裏にある真っ黒の壁前に立っていた。


「ここで、合言葉を言うと転移魔法が発動して―」


{リウル、誰か来るぞ! }


ヴァルナダの声を聞き、アラリウルは呼吸を殺しあたりの気配を探る。


「魔力の気配は感じないよ」


{忘れたか、私は魔力だけではなく殺気も感じ取れる}


アラリウルは再度魔力を探るが、やはり感じない。


{ここまで、完璧に気配を消すのは相当な実力者だろうな}


アラリウルはヴァルナダが珍しく自分以外の人間を褒めるのに少し、感心する。


「誰だか分かりませんが僕に何か用ですか? 」


「―どうして私が分かったの? 」


物陰から真っ黒な外套を身にまとった少女が現れる。


「いや…… 」


まさか、本当のことなど言えるわけもない。


「え、非公式冒険者パーティーに入るとめちゃくちゃ儲かるって聞いて… えと確かパーティー名は― 」


「アンザイレン… 」


彼女はフードを深く被っており、アラリウルには顔が見えないが恐らく無表情でそう言った。


「そうそう! たしかそんなような名前だった」


「あなた、これから入る冒険者パーティーの名前すら覚えていないの? 」


彼女はアラリウルの横に立つと静かにそう言い放つ。


「まぁ、でもここに来たってことは君もその選考会を受けるんだね。 よろしく、お互いがんば― 」


「あなた程度の覚悟と実力では受からないわよ」


彼女はアラリウルが握手をするために差し出した手を無視して、壁の前に立つ。


「ドーグル」


彼女がそう唱えるとたちまち光に包まれ、転送魔法が発動される。


発動された魔法の勢いで彼女の被っていたフードがめくれ上がり、その素顔が現れる。


真っ黒な長髪がなびき、その瞳は黒真珠を彷彿とさせる美麗さをもち、間違いなくアラリウルが今まで見てきた女性の中で1番と言っていいほど美しい顔立ちであった。しかしそれゆえ右頬にある大きな火傷の後に目が奪われてしまう。


そしてその腰に付けている真っ黒な刀からは何か禍々しい気配を感じさせていた。


アラリウルと彼女は何も言うことなく数秒間見つめ合い、やがて彼女は転送されていった。


{気に食わん女}


ヴァルナダはただそう一言感想を述べた。

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