DELETE THE WORLD ~全ステータスをカンストさせた俺、ゲームの世界に転移したので最高の仲間たちと無双する~
井浦 光斗
序章 終わりと始まり
序章―第1話 サービス終了
「ついに終わってしまった……か」
哀愁を漂わせるような一言を呟いた俺は頭につけていたVR装置を外すと、静かにテーブルの上においた。
目の前のモニターには思わず見惚れてしまうほど美しい星々の背景と“FIN”の3文字がキラキラと仄かに輝きながら表示されている。
ついに終わってしまったのだ。MMORPGの常識を覆したと言われ、多くの人々から愛されてきたVRゲームが10年目にして幕を閉じてしまったのだった。
「はぁ……やっぱり寂しいな」
たかがオンラインゲームのサービス終了で……と高をくくっていたが、いざその瞬間を体験すると込み上げてくるものがある。
なにせ俺の青春を半分以上はこのVRMMORPGゲームである“Astral Magic Online”、通称AMOに捧げてきたのだ。とてつもなく難しいクエストを仲間と達成したり、数十種にも及ぶ職業を極めたりしてはこの上ない達成感を味わってきたが、それが水の泡となって消えていくのを眺めるのは……やはりキツイ。
ふとスマートフォンの着信音が暗闇に包まれた部屋の中で鳴り響く。
見ると、ゲームで知り合い長い時を共に過ごした仲間たちが互いにサービス終了の瞬間を悲しんで慰めあっていた。
AMOが終わった今、俺に残されたのは10年も掛けて築き上げてきたこの人脈くらいだろう。サービス初期から苦楽を共にした仲間たちと繋がれているだけでも感謝すべきなのかもしれない。
「……ベランダで一杯飲むか」
少しでもこの喪失感を紛らわすため、俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出すとベランダの外に出た。
そして、明かりが消えた街を見下ろしながら物思いにふけるのだった。
俺こと
高校受験の合格祝いに親に買ってもらった当時最新のVRゲーム機を手にして、どんなゲームをやろうかと探していた時に、ふと目に留まったのがサービスが開始されてまだ間もないAMOだった。
――ようこそ、希望に満ちた星々の世界へ
その文言をはじめとした好奇心をくすぐる紹介文につられて、俺はAMOを始めてみたのだ。
当時のオンラインゲーム界隈は達成感の味わえない放置ゲーや素材集めでボリュームをかさ増しした周回ゲーが、無料を謳いながらはびこっていた。
けれどAMOは当時主流だったガチャシステムの一切を排除して、古き良きMMORPGの要素を斬新なシステムの数々に落とし込めた画期的なゲームだったのだ。
一文で紹介するなら……自分のやりたいことをなんでもできるハクスラ系キャラ育成ゲームと言ったところか。
ダンジョンに潜って珍しい武器や装備を集めるもよし、クエストをこなして冒険者稼業を営むもよし、自分の畑を作ってのんびりと農作を楽しむもよし、店を経営して稼ぐもよし、とにかく自由度が高すぎてなんでもありなゲームだった。
現に高難易度クエストを一緒に攻略してくれた俺の仲間には、自分好みの魔法創作をするためにずっと魔法書を読み漁っているような奴や、皆に「錬金術は最強!」と言い張ってゲームバランスを崩壊させかねないアイテムの自作を試みていた奴もいたからな。
ちなみに俺はそんなAMOで全職業の熟練度をカンストさせた唯一の人物として巷ではまあまあ有名だった。
なおAMOにおける職業とはRPGでいう
例えば『剣士』の職を極めれば剣士に必要な剣術スキルが手に入り、『農民』の職を極めれば農耕を効率化させるスキルが手に入る。
つまり、職業を極めることでそれぞれの職業に対応したスキルや能力が手に入り、自身の力が強化されるのだ。
職業の極め方は至って簡単、普通のRPGのレベル上げのごとく職業に沿った行動や経験を積むことで熟練度を上げていけばいい。
そんでもって、俺はそんな職業を全種類極め切った俗にいう廃人ゲーマーなのだ。
ただ全職業と言っても本当に全てかというと少々怪しい。
なぜならAMOには公式が公開している基本職や上級職以外にも隠し職業が存在し、その職業が幾つ存在するかはプレイヤーの誰も知らないからだ。
つまり、俺がカンストさせたのは基本職や上級職、そしてネットに公開されている隠し職業の全てである。
……とまあこんな廃人行為をやっていたせいか、AMOをそれなりにやっているプレイヤーからは全職業カンストの変態とよく言われていた。
そもそも、毎日2時間くらい遊んでいる普通のプレイヤーがひとつの職業の熟練度をカンストさせるには1年は必要と言われているんだ。それを数十種類もある全職業でやってのけているのだから……変態と言われて当然だろう。
けれどその分、時間も費やしたし、それなりのお金を運営に捧げていたんだけど。
「ありがとな、運営さん。最高のゲームだったよ」
AMOで紡いできた思い出を振り返っていた俺はそうポツリと呟くと、殻になった缶を片手で潰してゴミ箱の中に捨てる。
全職業カンストの偉業はネットで語り継がれたとしても、カンストさせたデータは残念ながらもう俺の手元に残ってない。そう思うと、たかがゲームのことでも泣けれくるなぁ。
ベランダから部屋に戻ってスマートフォンを確認すると、サービス終了の瞬間からすでに1時間が経過していた。それなのにもかかわらず、ゲーム仲間同士のチャットはあれからずっと盛り上がっているようだ。
「5人のグループで通知400件ってなんだよ……、いくらなんでも騒ぎ過ぎじゃないのか?」
ログを軽くさかのぼってみると、どうやら皆でAMOの思い出を語り合うオフ会を開こうという流れになっていたようだ。
この仲間たちとはすでに8年以上の付き合いだからな、住んでいる場所は互いに遠かれど東京に集まって何度かオフ会を開いたことがある。
……仕事の予定さえ被らなければ俺も参加しようかな。
そう思ってチャットに返信しようとしたその時だった。
耳障りなノイズが俺の鼓膜を震わせる。
ふと音の聞こえたモニターの方を見ると、そこに映し出されていたのはAMOのサービス終了画面ではなく、ゲームを新規で始める際に表示されるAMOのタイトル画面だった。
しかもそのタイトル画面はホラー映画のワンシーンかのように奇妙な乱れを起こしている。
ホラーが大の苦手な普段の俺がこんな光景を目にしたら、ちびってもおかしくなかっただろうが……その時の俺は、缶ビールを煽って若干酔っていった。
怖がるどころか、もしかしたらまたAMOがプレイできるかもしれないという淡い期待を抱いてしまったのだ。
俺はスマートフォンを置いて、のそのそとモニターの前に近づくと、テーブルの上にあったVR装置をおもむろに装着した。
そしてコントローラーを手にすると、その場に呆然と立ち尽くす。
いつぶりだろうか、この画面を目にするのは……。
動画配信ではちょくちょく見るけど、この装置を通して初期のタイトル画面を見るのはとても新鮮だった。
誰かに取り憑かれてしまったかのごとく、俺はおもむろにコントローラーのスタートボタンを押してしまった。
その次の瞬間――鈍器で殴られたかのような衝撃が頭部に響き渡った。
「アガ……、痛いっ」
あまりの痛さに俺はその場にうずくまってしまう。
だがその痛みは和らぐどころか、頭の中を徐々に支配していき脳を焼き切るような熱を持ち始めたのだ。
「ア、アアァ、なんだよ……これぇ!」
平凡な会社員には到底耐えられない頭痛に悶ながら、俺はわずかに目を開けてみると、そこには奇妙なうねりをみせるAMOの景色が映し出されていた。
そしてそのうねりは段々大きくなっていき、見ているだけで吐き気を催すほどになったのだ。
――ようこそ、終末に沈んだ星々の世界へ
その一文が白文字で画面に表示されるやいなや、俺の意識は暗澹へと落ちていった……。
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