第8話 勇者フェリックスとレイブン登場

そして、一時間後……古代ダークエルフ迷宮の入り口。


その入り口には、独特の文化を持っていた古代ダークエルフであろう耳の尖った男の石像が両端に立っており、まるで訪問者を値踏みするような鋭い眼差しで睨みつけていた。


そこにはルビとアーネに加え、昨夜と違いきっちりとしたレジェンド級ローブを身にまとったシーラが立っていた。


ルビにとってそのスリットの入ったローブは、刺激が強すぎた。


「どこ見てるのよ。まったくぅ~緊張感がないわね!……ところでルビ、いつ他の勇者を呼ぶの?」

「えぇ?」


「だ~か~ら!魔王ってどのくらいの強さか分からないでしょ?私とシーラだけじゃ心もとないと思うのだけど……大体、私とシーラは後衛だからね。せめて前衛1人は必要よ。あんたも一応は、召喚師なのだし、後衛だもんね。」


アーネは、両手を腰に当てて、当然とばかりと論ずる。


(おいおい!今になって言うなよ!迷宮突入直前だぞ!今から新規勇者召喚って……また入浴中の勇者が出たらどうすんだよ!)

ルビは、声を大にして言いたかったが、入浴中に召喚してしまったシーラがいたので、それを思い出させるのも悪いと思い、それは避けた。


シーラが、そんなルビの考えを察したようだった。


「でしたら、私の知り合いにレベルMAXの勇者が2人いますよ。その2人を召喚してみてはいかが?メンバーがメンバーだったので今日はただの偵察と思っていたの。ですが、魔王討伐も考えているならこの2人を召喚することをお勧めしますわ。」


「さすがはシーラ!タマ、レベルMAX勇者であれば、名前さえ分かれば召喚できるんだよな?」


「ふむ。可能なはずじゃぞ。」

(シーラが有能すぎて、わしの出番は無いの~)


「名前は、とても素敵な東の勇者フェリックスぅ~と……北の勇者レイブンよ。」

(フェリックスとレイブンと……なんだろう?明らかにフェリックスの方が優遇された呼び方だったような……)


「2人同時召喚もできるはずじゃから試してみると良いぞ。2人の名前を念じるのじゃ。」

「へぇ~便利だな。じゃあ早速、レベルMAX勇者召喚!フェリックスとレイブン。」


シーラの時と同じく目の前に青白い魔法陣が形成され始める。

今回違ったのは、当然のことその魔法陣が2つだったことだ。


ルビは、今回は何の問題もなく、召喚されたので安堵した。

「うん?ここは?……シーラ!?」


「フェリックスぅ!会いたかったわ~」

勇者召喚されたフェリックスと呼ばれた男にシーラが抱きついた。


「勇者召喚だとぉ!?なっ!冗談じゃないぜ!いきなりフェリックスとシーラのイチャイチャかよ!」


「あら~そう言うレイブンだって北国アロイの騎士団長様だもん。モテモテでしょうに~」


(今回は入浴中でなくて本当に良かった。よく考えれば朝っぱらから入浴なんて普通はないよな。それにしてもフェリックスさんとシーラは、恋人同士なのかな?レイブンさんは、北国アロイの騎士団長と……。)


ルビは、緊張しながら2人に話しかけた。

「ど、どうも初めまして、シーラの紹介でレベルMAX勇者召喚をさせて頂いたルビです。よろしくお願いします。早速なのですが、今から魔王の存在を確認するためにこの古代ダークエルフ迷宮に入るのですがよろしいでしょうか?」


「魔王だと?まだ生き残っていたのか!こちらこそよろしく頼む。」

そう反応したフェリックスは、重装備で典型的な盾役熱血勇者に見えた。


「そうなのよ~怖いわ私……フェリックスぅ~」

(シーラがさっきまでとはまるで別人だ……俺はあなたが怖いです……)

ルビは、見てはいけない女性の裏側を見た気がした。


「まっ!大魔王でなく魔王だろ?レベルMAX勇者が4人もいるんだ!軽いだろ?」


「あ!レイブンさん。その……私はまだ成りたての勇者でして……西の勇者アーネです。よろしくお願いします。」

「そう!君が西のね~大丈夫だって!魔王なんて軽い軽いっ!」


「相変わらずだけど、軽すぎる男ね~」

シーラは、レイブンを見下すように冷たく呟いた。

シーラの態度の違いは、レイブンがフェリックスとは、正反対のタイプだからであろうことはすぐに推測できたが、ただそれだけではないようにルビは感じた。


タマが、ルビにサポートらしく助言してくる。

「ふむ。ルビよ。これで負けることは無いと思うが、相手は魔王だ。どんなスキルを持っているか分からんからな。油断してはならんぞ!」


「分かってる。ひょっとして母さんの事件の手がかりがあるかもしれない。いや!手がかりどころか……ゴクリ、もしかしてその魔王に……ダメだ!今は戦いに集中するんだ!」

ルビは、握りこぶしを作り、気合を入れた。


「と言うけど、あんたって勇者召喚以外は何もできないんでしょ?戦闘になったら私の後ろにいるのよ。分かった?後衛の後衛さん!」

アーネの正論が、ルビの心をえぐる。


「は、はい……」

(情けないな俺……攻撃魔法は使えないし、弓も不得意だし……何か考えないとな。)

ルビは、深いため息とつきながら迷宮へ入って行った。


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