第2話 魔力切れ

 「アイリ、怠い」

 

 「どうしたの、又身体の調子が悪いの」

 

 「無茶苦茶怠い、喋りたくない」

 

 寝てろと言われ肩を押されたら、倒れる様にベッドに横になった。

 アイリがビックリし、額に手を当てて治癒魔法を掛けてくれる。

 心地よい感覚に意識が途切れた。

 目覚めたら夕食の時間は終わっていたが、アイリが持って来てくれた。

 固いボソボソのパンと肉の欠片も無い、僅かな野菜の切れ端が浮かぶスープに育ち過ぎて筋ばかりの野菜の煮付け。

 エディの記憶で此処が孤児院だと判ってからは、食事には期待を持たなくなった。


あの腐れ子爵様が、国が定めた金額を孤児院運営費として支給し、後は篤志家の寄付で運営されている。

 貧しい孤児院だが、それにしては院長の神父様はでっぷり太りツヤツヤテカテカのお顔と身体だ。

 考えても詮無いことなので、アイリに腕を叩かれ力が抜けた事を考える。

 魔法が使えなくても、腕で輪を作り魔力を循環させて魔力操作の練習が出来る

 さっきの様に掌をずらせば力が魔力が抜ける、つまり意図的に魔力切れを起こし魔力の増大を・・・本当に出来るのかな。

 中2病の奴の言葉を信じるなら、魔力切れを何度も起こせば魔力が増大する・・・だったな。

 生活魔法しか使えないがそれでも多少の魔力のが有る。

 魔法を授かる迄の間に少しでも魔力を増やしておけば、魔法を授かった時に直ぐ魔法が使えれば良いな。

 毎日寝る前に魔力を捨て、気絶する様に眠りに就いた。

 三月もすると生活魔法の変化に気づいた、ウォーターの量が多いのだ、フレイムの炎も明らかに大きくなっている。

 目立つと魔力増大の為の魔力を放出し、魔力切れをしているのがばれる。

 アイリの話から推測するに、この世界の人々は魔力の増大方法を知らないらしい。

 これは俺にとって他人より魔法で優位に立てるし、人より強ければ身の安全を確保する手段にもなる。

 知らしむべからずだ。

 生活魔法でどの程度能力アップになっているのか、一度試してみた。

 ウォーターで木桶3杯は楽勝だった、トイレはクリンでピカピカになった。

 フレイムは怖くて試さなかったが、でかい炎で火事にでもなったら大変だ。

 試しに以前の様な、小さい炎が出せるかやってみたら出来たので、小さい炎やコップ一杯の水を出すように練習した。

 4ヶ月程魔力操作と放出を練習した後15才になり、孤児院の表に有る協会で授けの儀を受けた。

 

 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 「エディ、創造神エルマート様に祈りを」

 

 でっぷり神父様の声に、エルマート伸像の前に跪き『魔法が授かります様に』と祈る。

 頭の中に光がさした様な不思議な感覚があり、見事転移魔法と空間収納を授かりました(いぇーい♪)

 

 周囲が想像以上に騒がしい。

 〈何で孤児院の子に転移魔法や空間収納が〉

 〈おいあのガキを逃がすなよ〉

 〈えー何でー、あれ私が欲しかったのに〉

 〈神様は不公平だ!〉

 何やら恐い声も聞こえるが、続けて魔力測定盤に手を乗せる。

 ふむー、エディの魔力高は・・・20じゃな。

 

 〈プーッ〉

 〈ウッソー何よ、魔力高20ってダッサー〉

 〈あーあのガキは要らね。魔力高20って何だよギャグか〉

 〈生意気に転移魔法や空間収納を授かってそれかよ〉

 〈神様も酷でぇことするよな〉

 

 まぁー、散々な言われようだわ。

 魔力高20ね・・・ないよりマシだとは言うけれど、ちょっと酷いんでないエルマート様。

 そうは思いつつもがっかりした雰囲気を出し、俯いて教会を出て裏に回る。

 

 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 「どうだったエディ」

 

 「あーアイリ、空間収納と転移魔法を」

 

 「凄ーい、あんたこれで食いっぱぐれのない生活を」

 

 「まぁ待てよアイリ、気が早いぞ」

 

 「何よ、気が早いぞって」

 

 「魔力高20だってよ」

 

 「・・・魔力高・・・20って、やっぱり孤児院の子には神様も厳しいわね」

 

 「まぁな」

 

 「あんまり落ち込んでないわね」

 

 「この孤児院より下は余りないからな。取り敢えず魔法は授かったから」

 

 「使えない魔法を授かっても意味無いでしょ。これであんたも私も貧乏暮らし確実ね」

 

 「そうかも知れないし、そうでないかもね」

 

 「何かいい事でも合ったの」

 

 「いや、これから試すんだよ。上手くいけばアイリにも教えてやるよ」

 

 「へんな事して犯罪奴隷なんて真っ平よ」

 

 「アイリには死にかけたところを助けて貰ったからな、上手くいけば教えるよ。それよりもうすぐ16になるけど働き口は有るのか」

 

 「神父様が暫く此処を手伝ってくれと言ってくれてるの、少しだけどお給金も出すって」

 

 「あのデブ、あいつの眼つき知ってて残るの」

 

 「此処に居る間は皆と寝るわ」

 

 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 魔力高20は残念だが、考えていた事を試す価値はある。

 中2病の奴が言っていた空間収納と転移魔法だ、散々使い方を聞かされたからな。

 聞かされたと言うよりは、聞いていないのに隣で必死に喋りかけてくるのくるから覚えてしまったってのが正しい。

 奴曰く空間収納は時間停止機能が有って食物が腐らない、生き物は収納出来ないが大原則だったな。

 それで空間収納に物をしまうには、そこに収納の出入り口が有るとイメージして入れる。

 唾を飛ばしながら力説してくれたよな、聞いてもいないのに。

 マグカップをベッドに持ち込んだのはこのため。

 先ず袋をイメージして袋の口を開けて、マグカップをポイ・・・〈ウッソー〉

 

 「何々なにを騒いでるのエディ」

 

 「あっ、いや何かビックリしちゃって・・・アハハハ」

 

 「怪しいわねーあんたのその笑い、それより珍しいわね未だ起きているなんて」

 

 「寝るよ、お休み」

 

 布団を被り、コップを取り出すイメージで掌にコップを・・・握っているのはコップだよな。

 その夜は何度もコップを出し入れして空間収納の感触を確かめた。

 

 早朝魔力切れから回復し未だ皆が寝静まっている時間帯、魔力循環ともう一つの魔力操作の練習だ。

 魔力を纏い身体能力アップと強化の練習だ。

 最もベッドの中なので強化しても何も出来ないので、能力アップに努める。

 気配察知・聴力視力強化・気配遮断の練習を欠かさない。

 ベッドの中で目覚めると魔力を纏い気配を殺し、聴力視力で周囲を探る。

 気配察知でネズミの動きを観察し、時に気配を殺して起き上がるとネズミの側に行き蹴り飛ばす。

 昼間は買い物代行から荷運び溝掃除と食事代を稼ぐのに忙しいが、魔力を纏って楽々お仕事。

 休憩時には魔力を纏った拳で石や壁を殴り、身体強化の度合いを確かめる。

 転移魔法の練習は気配察知で周囲に人の居ないのを確認し、トイレのドアを開けずに出入りする。

 壁抜けの転移練習も気配を探り、人の気配が無いときにやっている。

 9月に授けの儀を受けてから5ヶ月が経った。

 アイリは本当に少ない給金で孤児院を手伝っている。

 俺の魔法の目処が立ったのでアイリが誰にも漏らさないなら、魔力量をアップする方法を教え様と思う。

 デブの神父様がお出かけの時に、転移魔法の壁抜けをして見せた。

 

 「何で魔力高20のエディが魔法を使えるのよ」

 

 懐疑的な眼つきのアイリ、まぁそうだよな。

 魔力高50のアイリが、四苦八苦して魔法を使っているのに、魔力高20の俺が気楽に魔法を使えばその反応になるね。

 最もどの程度使えるのか、どれ位使えば限界になるのか解らない。

 

 「どうしてと言われても俺も知らない。せっかくエルマート様から授かったんだからと、試したら使えたんだよ。でも多分これじゃないかなって心当たりはある」

 

 「教えてよ。私だって治癒魔法が普通に使えたら楽に稼げるんだから」


 「方法を教えても良いが、誰にも教えない話さないと約束出来るならだな」

 

 「何故なの」

 

 「一つは俺の安全の為、もう一つはアイリの為さ。アイリがそれなりに治癒魔法が使えると皆に知られたら、周りはお前を手に入れる為に何でもするぞ。エルドバー子爵様のお抱え治癒魔法師になりたいか」

 

 顔を顰めるアイリ。

 

 「治癒魔法が使えても隠せばいいのさ。仕えても良い相手や結婚しても良い相手、子供ができても隠し通す自信が有るなら教えてやるよ。俺が教える方法は生涯誰にも教えないと、約束してくれるならな」

 

 「約束してもいいけど、人に聞かれたら何て答えればいいの」

 

 「簡単さ。散々殴られて死にかけのエディを死なせない為に、毎日必死に治癒魔法をかけていた。身体が怠くて倒れそうになるまで、毎日毎日していたら使える様になったと言えばいいのさ」

 

 「そんな事でいいの」


「聞いた事が在るだろう。魔法を使って使って倒れる迄使い続ければ、魔法が楽に使える様になる事もあるって。人に聞かれたら、私の場合はそれじゃないかなって言っとけばいいのさ」


 いやな、中2病の奴に散々側で喚かれた知識だけど、食事代稼ぎの合間に聞こえてくる話から推測するとそうなるのさ。

 

 「判った、エディの言うとおりにする、だから教えてよ」

 

 「魔力って何処に有るか知ってるな」

 

 頷くアイリ、何を今更って顔だな。

 

 「それが解るか・・・いや、感じられるか」

 

 首を振る、まぁそうだろうな。

 

 「これから毎日寝る前に臍の奥の周辺を探してみろ」

 

 「どうやって?」

 

 「意識を集中するんだよ。なにか違和感を感じるものを探せ、それが第一歩だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る