episode2

 ひとり取り残された俺は空を仰ぎ、大きく息をついた。

 これから、どうするか――。

 柊は、俺が伊集院からすべてを聞いたことを知ったはずだ。だからこそ、逃げるように部屋に入っていった。俺はまだ、すべてを柊に伝えていない。かといって、今の状態で柊のもとに行けばどうなるか、容易に想像はできた。それでは先に進めない。

 俺は自分を言い聞かせるようにきつく目を閉じ、身体を反転させてバルコニーの外壁に寄りかかった。

 もっと慎重に発言するべきだった。すべてを伝えなければ、という焦る気持ちから先を急ぎすぎてしまい、結局、一番大切なことを柊に伝えることができなかった。どうして俺はいつもこうなんだ。自分のことだけを考えるな。

 舌打ちをし、ゆっくりと目を開けると閉め切った窓の先にあるリビングが目に入った。

 親戚が置いていった洋酒やグラスが収まる大きなテレビボードや食器棚、夫人の趣味であるスワロフスキーの置物が綺麗に並べられた飾り棚、そしてその上には俺が持ち込んだ本やパソコンが無造作に置かれている。柊の必要最低限の物しかないスッキリとした部屋とは違い、生活感溢れる部屋を俺はぼんやりと見つめながら、前に柊がこの部屋を居心地が良さそうだと言ったことを思い出した。温かみがあるとも言っていた。

 俺は寄りかかっていた外壁から身体を離し、口元を手で覆った。

 ――では、あの何もない部屋で柊はいつもどう過ごしているのか。一番落ち着く場所であるはずの自分の家が、彼にとってはそうではないということなのか。

 俺は勢いよく窓を開けると、玄関に向かって駈け出した。もっと早くに気付くべきだった。俺は玄関を飛び出すと、柊の部屋のインターホンのボタンを迷わず押した。スピーカーから応答がない。俺は不安になりながら、もう一度ボタンを押した。やはり中から応答がなかった。伊集院に連絡したほうがいいか、と思ったその時、カチャリと玄関ドアの内カギが開く音が聞こえた。そしてゆっくりとドアが開くと中から柊が出てきた。

「来ると思ってたよ」

 そう言った瞬間、柊は俺の右手首を掴んで家の中へと引き込むと壁に俺の身体を押し付けた。

「ユキから聞いたのか」

 ゾクリとするほど低い声で柊が言った。目に怒りの色が浮かんでいる。ひるんだ俺は肯定するように頷くのが精いっぱいだった。すると柊は俺の手首を掴んだまま手前の部屋に入ると、中央に置かれたベッドに向かって俺の身体を放り投げた。すぐに身体を起こそうとしたが、それを阻止するように柊が覆い被さってきた。

「柊さん、俺まだ」

 言いかける俺の口を柊が強引に唇を重ねてふさいだ。その途端、身体の奥から熱いものが込み上げてきた。いけないと分かっていても身体が反応してしまい、拒むことができない。執拗しつように舌を絡ませてくる柊。俺は我慢できなくなり、自らも舌を絡ませ柊を受け入れた。

 柊は慣れた手つきでシャツの中に手を滑り込ませると、一旦唇を離して俺からシャツをぎ取った。俺が口を開きかけると柊はすぐまた唇を重ね、さっきよりも激しく舌を絡ませてきた。

「は、ぁ……」

 たまらず声を漏らすと、柊は首筋へと舌をわせていく。それと同時に柊の手が下着の中に滑り込み、俺の硬くなったものを掴んだ。

「あっ」

 思わず声を出すと、「こうなることを望んでたんだろう?」と柊が耳元で囁いた。恥ずかしさのあまり顔を背けると、柊はゆっくりとしごき始めた。

「や、ぁっ」

 身をよじって柊の手から逃れようとするが、柊はそれを許すことなく執拗しつようなぶり続けた。込み上げる快感をこらえるように顔を歪める俺に、「感じてるね」と耳に唇を押し付けながら柊が囁く。柊の息が耳にかかり、余計に身体が反応する。柊は唇を首筋に這わせる。熱を帯びた身体はわずかな快感をも拾い上げていく。その快感にのめり込むように、再び舌を絡ませてきた柊に俺は応えた。

 柊の手の中にあるものの質量が徐々に増していき、次第に高まっていく快感に俺は耐えられなくなりシーツを掴んだ。

「ん、あぁっ」

 ふさがれていた唇の隙間からたまらず声を上げた。

 柊の手の中で達した俺に満足そうな笑みを浮かべながら、柊はぐったりとした俺をうつ伏せにすると下着ごとハーフパンツをずり下ろした。

 柊の匂いのするシーツに顔を埋めていた俺は驚いて顔を上げると、柊が俺の唇に指をわせながら耳に唇を押し当てた。

「前みたいな邪魔も入らないし、時間はたっぷりとある。――色々、教えてあげるよ」

 そう囁くと柊は俺の唇から指を離し、サイドテーブルの上に置いてあった小さなボトルを手に取った。水だろうか、中には透明な液体が入っていた。目で追う俺の顔を柊は引き寄せ、「ローションだよ」と言うと軽く口づけした。

 これから何が始まるのか。不安と恐怖が込み上げる一方で再び身体が熱を帯び始め、身体の奥底がうずいた。

 ――それを望んでいる自分がいる。

 そう気付いた時、腰を引っ張り上げられ、四つんいの状態にさせられた。そして丁寧な手つきで生温かいものが塗られたかと思うと、ゆっくりとその周りをなぞっていた指が中に入ってきた。

「あっ」

 短く声を上げる俺に、「力を抜いて」と柊が囁いた。指が少しずつ奥へと入っていく。ゾワリと背筋に悪寒が走った。今まで経験したことのない感覚に俺は身体を強張らせる。

「怖がらなくていい」

 柊が囁く。

 中に入っていた指がゆっくりと引き抜かれ、そしてまた奥へと入れられた。なんとも言えない感覚に耐えられなくなり腰を引いて逃げようとするが、柊にすぐに引き戻されてしまう。指が二本、三本と増やされ、押し広げるかのように中で掻き回される。そのたびに俺は声を上げ、身体をのけ反らせた。柊はそんな俺を見てたのしむかのように、しつこくねっとりとなぶり続けた。

「や、あぁっ」

 思い切り身体をのけ反らせると、柊の指が引き抜かれ、硬いものが押し当てられた。めり込むように柊のものがゆっくりと押し入ってくる。

「っく、ああぁっ」

 俺は苦痛に顔を歪めた。なおも、柊のものが凶暴なまでに奥へと侵攻していく。シーツを必死で握り締め、痛みをやり過ごそうとするが尋常ではない痛みにとうとう涙が溢れた。それでも、柊のものを受け入れようと俺は歯を食いしばる。

 ようやく柊のすべてをのみ込んだ時、力尽きた俺はシーツに顔を埋めた。痛みもまるで治まらず、むしろ広がりを増していた。かすかに血の臭いがする。傷口がどんな風になっているのか想像し、血の気が引く思いがした。

 俺の痛みが和らぐのを待つかのように動かなかった柊が、奥に入れていたものをゆっくりと引き出した。そして、きしむ音を立てながらその凶悪なものを再び押し込んできた。

「ああぁっ!」

 引き裂かれるような痛みに俺は叫び声を上げた。シーツを握り締めたまま身体をのけ反らすと、奥に入っていたものが反り返り、柊が声を漏らした。その柊のうめき声に、痛みを感じながらも俺はたまらなく高揚こうようした。

 柊はまたゆっくりと引き出すと、さっきよりも慎重に押し入れた。ローションのぬめりも手伝ってか、今度は滑らかな動きで奥に入っていった。それを何度か繰り返すと柊は腰を使い始めた。

「ああ……」

 痛みはまだ残っていたが、柊に奥深くまで突かれるたびに熱が高まり、声を上げた。すると呼応するように柊の動きが激しくなる。

「はぁぁっ」

 激しく突かれるたびに奥底でうずいていた場所が刺激され、俺は次第にその快感にのめり込んでいった。背後から聞こえる柊の息遣いもそれを助長させた。

 俺は理性も何もかもが吹き飛び、ただ快楽だけを追い求めた。


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