第27話 清貧の聖騎士

「シャアァァア!」


 獣人独特の威嚇音のような声を出しながら、猫獣人の彼女は真正面から向かってくる。


「へぇ、根性あるじゃん」


 構えもしない直剣ロングソードを突き出し、少女は私の突きを見切りすれすれでかわす。


「馬鹿がっ!」


 二つのナイフが、私の首元に迫る。


「ふんっ」


 腰から頭を振って思いっきり、頭突き。


「きゃっ」


 体制を崩した猫娘の胸ぐらを掴み、手甲つきの拳をプレゼント。


「がっ」


「お前、騎士なら剣で戦うとでも思ったか? 私は、こっちの方が得意なんだよ」


 生意気な少女をもう数回ほど、殴っておく。


「ちょいちょい、やりすぎだって!!」


 エルニクスが慌てて私を止める。ぐったりした少女を運び、拠点にしてる廃屋へ向かう。


「もう~、可愛い顔にこんなことしちゃって」


「喧嘩売ってきたのはこいつだ」


 ぶつくさと文句を言いながら、猫娘の顔に修復の魔術をかけてやるエルニクス。


「君の名前は、何ていうのかな?」


「差別主義者の金持ちに名乗る名前なんて!」


「ん?」


 私の血まみれの拳を見せる。


「ヒッ」


 おびええちゃったよ。ちょっとだけ、脅すつもりだったけどさ……


「名前、聞いてもいいかい?」


 これじゃまるで拷問つきの尋問だ。


「あ、あたしは、フェイ。この街のギルド相手に……盗みして、ます」


「へェ、この街のギルど相手にそこまでできるってことは、君けっこう強いんだね」


 ワクワクといった様子で語りかけるエルニクス。


「今まで負け無しだったんスけど……油断してた」


 負け惜しみか、悔しそうに私を睨むフェイ。


「こうして捕まってるワケだけど、私たちには勝てそうかい?」


 エルニクスが翼と尻尾を出して、意地悪な質問をする。


「ハハッ。無理そうっスね」


 乾いた笑いで応じる彼女に、さらに質問を重ねて行く。


「ねぇ、フェイ。君は『最果て』について知ってるかな?」


「へ? 『最果て』……」


 考え込む様子を見せる猫娘の尻尾を、エルニクスが興味ありげに目で追っている。


「たしか、この前盗んだお宝の中にそんな感じの事が書かれた地図みたいなのがあった気が……」


「「…………」」


 エルニクスと目を合わせる。

 考えてる事は同じようだ。


「その地図、もらえないかな?」


「あっ、あげるんで早く家に帰して……」


 すっかり怯えきってしまった猫娘に歩み寄り、彼女の細い肩を力強くつかむ。


「ねぇ、フェイ。あなた聖騎士にならない?」


「へェ?」


 間の抜けた声を上げる彼女は、耳もぺたんとなってしまい感情が読み取れない。


「あなた、この街から出てみたくはない?」


「ま、まぁ出れることなら出たいですけど……」


「家族か……恋人がこの街にいるのか?」


「い、いいえ」


「じゃあ、決まりだ。私たちと一緒に『最果て』へ行こう!」


「えっ、ェッェえ?」


 助けを求めるように猫娘はエルニクスを見るが、


「仲間?! 増えるのか!?!」


 嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる竜娘の様子に肩を落としていた。


 こうして半ば強引に仲間が増えた。彼女の有り様、この街における逸話いつわから、後に聖騎士 フェイはこう呼ばれた。


 『清貧の聖騎士』と。





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