第8話─いざ山菜狩りへ

私たち彩羽家は代々『御木目山』という山を所有している。その昔私たちの先祖が戦で名を挙げて、その功績からこの山周辺を治める地主になったらしい。

 

 私たちは昔から、祖父や父とこの山で山菜狩りを楽しんだり、林業に近いことを見て育ってきた。長い経験の蓄積によって、私と椛はこの山の地形の9割は網羅している。そのため、少し前から店に出す山菜を二人で取ってくるようになった。

 

 この山は私達のもう一つの家でもある。一部を除き、この山の殆どを知る私達だからこそ勝負ができるのだ。

 

 

 御木目山 御木広場

 

「ふぅー、とりあえず着いたね」

 

「はい。いつも通りの時間ですね」

 

 家から徒歩10 分、慣れきった道の足取りは軽い。高地に在るここは少し肌寒く、手袋を着けなければたちまち寒さが末端を襲ってくる。尤も、昨今の長雨の影響もあるだろう。だが個人的には暑いより寒いほうが好きである。

 

「個人的に山はどんな感じ、椛?」

 

「そうですね……これだと入るまで分かりませんね」

 

 山の麓にあるこの広場、通称「御木広場」は一定の広さと見晴らしの良さから私達の中継地帯として使っている。またこの辺りまでは電波は届きやすく、人も呼びやすい。

 

 いくら登ることに慣れているとはいえ、いくらこの山が小さいとはいえ、JK二人で山に入るのは危険度が高すぎる。故にいつでも万事に対応しやすいよう、この広場をメインにしている。

 

「そうだね。とりあえず色々準備しないと」

 

 広場南側に荷物を下ろし、バックからいくつかあるものを取り出す。これを始めなければ、山に入るのは許されない。

 

「さてと、まずはお祈りから」

 

「供え物と水はこちらですお姉さま」

 

 そう言って私達は、すぐ傍の祠に向かった。入山中に事故が起こらないよう、またこの山の神様に失礼のないように、昔から供え物とお祈りを捧げている。これも祖父からの教えである。

 

 毎回欠かさず行っているおかげか、これまで大きな事故は起こってない。やはり神はいるのだろうか。もしいるのならどんな姿だろうか。少しばかり思いを馳せるが、いつものことである。

 

 前の供え物を取り替えた後に二礼二拍手一礼、祈りを捧げる。

 

 (楓です。ご無沙汰しています)

 

 (椛です。また失礼します)

 

 この瞬間は何百と繰返しても、何故か謎の緊張感が走る。そんな私と対照に微動だにしない椛。何か感じるものはあるのだろうか。

 

 参拝を終えた私達は再び荷物を整え、山道入口の前に立つ。

 

「勝負は1時間、疑わしきものは無効、集合はこの広場、困ったら下まで行く、定期連絡忘れずに。このいつものルールでいいね?」

 

「はい」

 

「あと、雨の後だから安全第一で」

 

「はい。早くやりましょう」

 

 椛はもう待ちきれない様子だ。その証拠に辺りを見回して目星をつけているようだ。互い装備を整え、山道入口の前に立つ。

 

 この秋の山を一層冷やす風が吹いた時、戦いの火蓋が切って落とされた。

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