第4話

「こんにちは」


図書委員会の集まりで、私の隣に座った男子生徒。


「こんにちは」


挨拶されたから私も挨拶をした。


「俺、1年の羽柴結翔です。よろしくお願いします」

「私は、2年の影山美穂。よろしくね」

「はい! 美穂先輩」


いきなり下の名前で呼ばれ、素敵な笑顔で微笑まれた。


その瞬間、胸の奥で何かが生まれたような気がした───。




翌日、私の目は腫れていた。

彼と出会った日のことが、夢となって鮮明に思い出された……。

また、胸の奥が痛い。あの時とはまた違う痛みであることは分かった。


学校休もうかな。どうしよう。

でも、行こう。

うん、きっと大丈夫だ。


支度をして家を出る。


「おはよう。って、美穂、目大丈夫?」

「おはよう。うん、大丈夫だよ」


早速、杏奈に心配された。

そりゃそうだよな。


「あ、そうだ。今日、フィギュア部が演技発表会するみたいなんだけど。見に行く?」

「発表会?」

「うん。3年生を送る会みたいな感じらしいんだけどさ。誰でも見に行けるみたいなの」


フィギュア部に所属していた友達が、そんな話をしていたみたいだ。


どうしよう。昨日のことあるしな。

でも、会いたい気持ちはあるから……。


「うん。行こうかな」

「分かった! じゃあ、伝えておくね」

「うん!」


私の心臓は、緊張やらなんやらで今にも止まってしまいそうだった。



放課後、杏奈と2人でスケートリンクにきた。

観客席には、たくさんの生徒たち。

おそらく、3年生の元部員の友達だろう。


「あ、あそこにいるじゃん」

「え?」


杏奈が指さす先に、結翔くんがリンク端にいる。

壁にもたれかかって、どうやら誰かと話しているようす。


結翔くんの視線を辿ってみると、視線の先にはショートカットの可愛らしい女子生徒が1人。

もしかして……って思ったら、徐々に心臓が痛くなってきた。

そっか。そういうことか……。


今やっと、理解出来た。

昨日話していた逆バレンタインのチョコ、あの子に渡すつもりなんだ。


私の目の中には君が映っているけど

君の目にはあの子が映っている。

寂しいな……。


発表会の最中、私はずっと彼を目でおっていた。

演技をしているところ、友達と話しているところ、とにかく追い続けた。


あの子も、彼を追っているとは知らずに──。

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