No.27 技術力の国に突撃です!なんだか工場みたいですね


資源力の国を出発したアギ―達は次の国、そして最後の統治者が支配する技術力の国へと向かっていた。


「おい、見えて来たぞ。あれじゃないか」

皆を乗せた煙を操作しながらテネバイサスが前方に指を差す。


「随分とまあ予想通りなというか」

「美的センス……は期待するだけ無駄か」

「なんか嫌な感じの色した煙とかが上がってるわねー、私達とかはともかく人間とか生きていけるのかしら」


他の魔王達も見えてきた国をみて各々の感想を述べた。


国の外壁に向かって進んでいるとグレイシモンドが持つ魔石板が光を放つ。


「やぁグレイシモンド、無事にあのイビルハンガーを倒したようだね。先ほどヒアー達から連絡があったよ」

「おお!グラドよ。久しぶりに声がきけて嬉しいぞ」


経済力の国の統治者、グラドからの連絡だった。


「マドボラ……彼は元人間でね。その高い能力を買われて今の立場にいるんだ。私が知る限り一番危険な人物と言えるね」


「そんなに強えぇのか?」

グレイシモンドの横からフラマーラが質問する。


「どの定義の強さにもよるが、なにより危険なのは彼の思想だ。彼は自身の研究の為ならば何をしても良いと思っている。だから奴に常識は通用しない、きっと嫌な戦いになるだろう」


「そうか、他に何か知っている事は無いか?」


「そうだな私の知っている範囲では、奴はその技術で主に兵器に関する研究と開発、それと君たちが資源力の国でみた植物の成長を促進させる薬とかぐらいかな。すまない、その国にも自分の部下を向かわせようとしたんだが色々とあって出来なくてね。まあ理由は国に入ればすぐに分かるよ」


グラドはひとしきり彼が知っている情報を伝えてくれた。


「それではそろそろ連絡を終えよう。この後はこっちの魔王とも連絡しないと行けなくてね」

「な!それは大丈夫なのか?バレているのでは」


グレイシモンドが言う通りグラドはコアを失っている、つまり統治者として魔王から与えられた能力は既にない、祠にある指輪もだ。そんな彼の状況を魔王が知らないという事は考えにくい。


もし事の経緯まで知られていたら、裏切り者として制裁を受けるかもしれない。


「私はもうその覚悟くらいとうの昔に決めているよ、君を待つと決めた時からね。だから心配しないでくれ、これは自分が望んでとった行動だ」


グラドは笑ってそう言った。


「では、武運を祈っているよ」

彼との連絡はこれで終わった。


「グラド……いや、そうだな。彼を信じて先に進もう」




こうして国へと入った一行。


外壁を破壊し中に入るも特に兵士が待ち構えている、とかはなく、何事もなく侵入する事が出来た。


技術力の国、国とはいうものの中はまるで工場のようだった。


「あの野郎。残り一人の統治者っつーのに余裕綽々でムカつく野郎だったな」

「ああ、しかしあの自信を補足するような何かがあるはずだ。アイツがただの自信過剰なアホでなければな」


フラマーラとグレイシモンドを先頭に警戒しながら進むアギー達。


「どうだ、アウレンデント」

「うーん、人らしき反応は無いわね。にしても何この臭い、息が詰まるわ」


通路の下には水路のようなものがあるがそこに流れている液体はドロドロとしており、その臭いは決して嗅いで気分の良いものではない。


「あのバチバチしてんのはなんだ?建物だけは随分と賑やかだな」


街の中には至る所に塔が建築されており、その先端は球体状でバチバチと絶え間なく電気を放っていた。


「あれには私の魔力を感じるわね。あの塔から周辺一帯に電気を回してるのね」


街中には大掛かりな機械がそこら中にあり、絶え間なく動いている。


「にしても本当に人の気配が無いわね。どうりでグラドちゃんが部下を送れない訳ね。こんなところで諜報活動なんて目立って仕方ないもの」


そういって進むとアウレンデントはなにか気づく。


「こっちに何かあるわ」

彼女が示す方向に行ってみると機械が物を運んでいた。


「なにか運んでいるな。すこし見せてもらおう」

テネバイサスが煙を出し、機械が運んでいた物を持ち上げて自分たちの元に引き寄せた。


ドンっと重たげな音を立てる箱。かなり大きい、工場で扱われる素材か、あるいは造られた物でも詰まっているのか。


「変な箱だな、開けちまうぜ」

フラマーラは手で箱の鍵に触れる。

鍵は高熱の手に触れた部分から瞬時に溶けていく。


「うっ!何だこの臭い!」

箱を開けた途端強烈な刺激臭。


それだけではない、中に入っていた物をみて一同は驚愕した。


「これって……!!?」

アギーは後退りする。


箱の中には液体が詰まっており、その中に人間が浸かっていた。


「人間?!生きてんのか?」

「いえ、もう死んでるわ。生きてるなら多少なりとも電気が流れている筈だけど、それが全く感じられない」


液体に浸る人間をみたフラマーラの質問に答えるアウレンデント。


「この液体は一体なんだ?なぜわざわざ死んだ者をこんな手間のかかる手段で運ぶ。あの男が仰々しく死者を葬るなどするとは思えん」


グレイシモンドは液体に注目するが、それが何なのか、どういう意図があるのか分からない。



「グルルラァッッ!!」

アギー達が箱の中の人間に意識を向けていると物陰から何ものかが飛び出して来た。


魔王たちは咄嗟にアギーの周りを固め、そのもの達を退ける。


襲いかかって来たもの達は空中で身を翻し着地。


「グルルルッ!」

唸り声を上げるそれは獣だった。


「確かティターノのとこにいた魔獣か?」

「うーんでもその頃とだいぶ様子が違うわね」 


フラマーラとアウレンデントが言うようにそれは魔獣、しかし彼女らが以前見たものとはいくつか違いがある。


まずは外見、身体の所々に機械が取り付けられている。そして感じられる魔力だ。


「フラマーちゃんの魔力も感じるし、私の魔力も混ざってるわね」


「どちらにせよ敵視されていることに変わりはない、それならやることは決まっている」

グレイシモンドが剣を構える。


「気をつけろ、確かこいつ等自爆するって話だ」

テネバイサスが以前アウレンデント達から聞いた話を思い出す。


「それならば問題ない」

グレイシモンドは剣を一振り、すると周囲の魔獣は身体の中心から凍結していく。


「これでどうだ?」


「ふん、アタシがまとめて灰にしてやろうと思ってたのに。そういややけに静かだなアギー?」

フラマーラはアギーをみる。


彼女は下を向いていた。


「お前の事だから、この子達助けられませんか〜って言うかと思ったぜ」

「はい、そう思いました。でもこの子達はもう生きていない、無理やり動かされてるだけ……。この子達は私は助けられないって思ってしまって」


俯いたまま話すアギーにゲンコツをかますフラマーラ。


「い"っ!何でですかぁ」

涙を浮かべながら頭を抑えるアギー。


「なーに勝手に自分のせいにして傷ついてんだバーカ!コイツはもう会ったときには助からねぇ状態だった。それだけだ、だからよ……」


フラマーラは首に手を当ててアギーから目線を逸らす。


「コイツみたいな手遅れな奴をこれ以上生み出さない為にも、さっさとあの野郎ぶっ飛ばすぞ」


「フラマーラさん……!」

アギーは泣き出す。


「なんで泣くんだ!シャキッとしろ!」



「随分と楽しそうだな」

「ッ!!」


アギー達の前にマドボラな現れた。


「ハッ!仲間に入りたいってか?」


「ひっひっひ、いやいや。俺は昔から人付き合いが苦手でな、知り合った奴は片っ端から実験に使っちまうんだよ」


薄気味悪い笑顔をみせるマドボラ。


「これも映像ね」


「おお、これはこれは耀の魔王様!あんたの力のお陰で色々と研究が進んで助かっているよ」


アウレンデントにマドボラは嫌味ったらしいお辞儀をした。


「たまにいるのよね。お礼とか言われても全く嬉しくない、嫌悪感すら覚える相手って」


「おやおや、手厳しい」


「また映像で現れて俺らと話して、何が目的だ?」

テネバイサスが話しかけるとマドボラはクスクスと笑う。


「ひっひっひ、目的はお前だ!!!」


マドボラはアギーに指を向けた。

すると直後にアギーの足元から光の柱が発生し、アギーを飲み込んだ。


「アギー!!」

フラマーラが手を伸ばすが一歩遅く、アギーは光の中へ消えてしまう。


「ひっひっひ、俺が映像だからって油断しすぎじゃねぇか?ここは俺の国なんだぜ!まんまと俺のお喋りに付き合ってくれたな、お陰で誤差0で転移装置の座標を設定できたぜ!」


「貴様!!」


「おーっと!魔王の癖に娘っ子一人で随分とお怒りだなぁ!ふん、案外魔王ってのも大したことねぇのかな?ひっひっひ!それじゃあな魔王様方!せいぜい俺の国を楽しんでくれや」


そう言ってマドボラは姿を消した。


「テメェ!!」

フラマーラが焔を放とうとすると横から何かが突撃してきた。


「ああん?」

それを片手で止めるフラマーラ。


突撃してきたのは先程人が入っている箱を運搬していた機械だ。


「邪魔だ!」

それを殴り飛ばす。

相手の装甲部分が剥がれる。


「なっ……!!」


フラマーラはその中身をみて驚愕した。


「ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!!」

中には人間が組み込まれていたのだ。


身体は病的なまでに白く、血管が浮き出ている。手足は完全に機械と結合し、胴体と頭だけが辛うじて結合せずに残っていた。


「こんの!!!」


フラマーラが攻撃を加えようとした瞬間、相手の身体に大きなヒビが入る。

その部分から光が溢れ、最後には大爆発を起こす。


爆発は連鎖し、一瞬で国全体を吹き飛ばした。

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