第2話 トレンドに俺がいる

『たっくん』


『たっくん クソザコ』


『たっくん 可愛い』



「……」


 なんか俺の名前をツブヤイターで調べるとこんなサジェストが出てくるんだけど?


 ……どれもこれもすべてあいつ、ゲッカというか灯の所為だ。

 生配信で事あるごとに俺の名前を上げてくれやがって、幼少期のエピソードとかをばらしていきやがったのだ。

 その結果が、これである。

 いやホント、どうしてこうなった。


「それであいつ自身はまるで炎上してないっていうね」


 普通、女性Vtuberが男の影をチラつかせたら多少なりともざわつき、ボヤつくものだと俺は認識していた。

 事実、実際彼女の初配信後にエゴサーチしてみたら炎上あるいは炎上させようとするアカウントが多少見つける事が出来た。

 俺の呟きにもいろいろと質問が送られてきた。


『ゲッカちゃんとどんな関係なんですか?』


 ならまだ良い方。

 もっと失礼な問いかけをして来る奴だっていた。


 だが、今は違う。

 例えば、ツブヤイターで星と打ってみよう。


『星たく』


 こんなタグが出てくる。

 これは星見ゲッカ×たっくんを縮めたカップリングタグである。

 逆もあったりする。

 ちなみに逆の方が少ない。

 どうやら俺の方が受けと考えている人間が多いって事かな、知らないけど。


 そんな訳で、どうやら俺という存在は今のところネット民、特に展望台民(星見ゲッカのファン名)連中からは好意的に受け入れられているらしい。

 勿論、少ないけれど俺の存在に嫌悪する奴はいるみたいだけど、それは本当にごく少数。

 自浄作用も働き、彼女の配信は極めてクリアなものとなっている。


 ただ、その内容に対し俺は頭を抱えている訳だが。


「それでねー」


 今日も今日とて、彼女は生配信をしている。

 ニコニコと俺の描いたアバターは笑う。

 全力で可愛らしく描いたつもりなのだが、今は悪魔のそれにしか見えない。


「今日もたっくんお仕事で絵を描いてたんだけどね、なんとなんとえっちなデッサン本を見てたの! 裸の女の人がいっぱい載っててびっくりしちゃったぁ」



 コメント;草

 コメント:(笑)

 コメント:いやまあ絵描きの日常って感じだけどさー

 コメント:たっくんマジですか!

 

 

「……」


 頭を抱える。

 なんでそう軽率に俺の話をしちゃうの?

 恐いもの知らずか?


「でね? それなら私がボージング取って上げようかって聞いたら顔真っ赤にするの。どうしてなのかな、その時厚着してたし問題ないと思うんだけど」



 コメント:あっ

 コメント:あら

 コメント:むっつりかな?

 コメント:まあ勘違いする気持ちは分かる



「ん? どういう事、展望台民さん?」



 コメント:むっつりって事です

 コメント:エロ餓鬼ぃ

 コメント:たっくんホントさぁ……

 コメント:何故に俺達が説明せねばならんのか



「……? まあ良いや、後で聞いてこよぉっと」


 能天気のマイペース。

 そんな彼女を見て視聴者達は草を生やしていく。

 いつも、そんな感じだ。

 彼女はどんな時も自分を変えず、ニコニコ笑いながらリスナーを笑顔にしていく。

 それ自体は良い、良いんだ。

 きっとそれは、Vtuberあるいは配信者として正しい姿なんだから。

 

 だけど、どうして俺の話をする。

 俺の日常話を漏らしていく?

 お陰で俺、ただ日常の呟きにすら草を生やされるようになったんだぞどうしてくれる。

 それで過剰に反応しても解決にならないし、ていうかしたらしたでまた笑われるんだろうけどさー。



「じゃ、今日もゲームをやってこっか。今日はこれ、『ワクワク!すたーらいと☆』ってゲームなんだけど、可愛い女の子のパッケージが良いよねー。たっくんがおすすめしてくれたんだぁ」



 コメント:あ

 コメント:……あっ

 コメント:察し

 コメント(笑うな今は、堪えるんだっっ)



「……? じゃあ、始めていくね?」



 その後、可愛らしいパッケージとは裏腹にガチホラーなそのゲームにガチ泣きし、俺に通話を求めてくる彼女。

 当然、断った。

 その結果、また俺の名前がツブヤイターのトレンドに上がる事になった。



『たっくん 鬼畜』



 ……何故に??

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