第5話 早くに卒業することがそんなに偉いの!?⑤
時刻は18時21分にちょうどなりかけ。俺は今玄関先で突っ立っていた。
結局あの後は3件ほどの注文をそつなくこなし、あの出来事以外は特にイレギュラーなことは起きることなく18時を迎え初勤務は終了となった。
初日にしてはミスもなく仕事を終えたことと、初めて自分の力でお金を稼いだことの嬉しさで、帰りは薄暗い中に街灯が転々と光る街並みを鼻歌でも歌いながら自転車で駆け抜けてきた。今日から女の子とルームシェアであることなどすっかり忘れて。
そしてアパートの駐輪場に着いたとき、自分の部屋から窓のカーテンからこぼれる明かりが見えると、一気に記憶と現実が迫ってきやがった。
何て言って部屋に入ろう…、ただいま?その前に話したいことめっちゃあるし!なんで鍵ないのに入れたのとか、なんでルームシェアしようと思ったのとか、なんで俺の部屋にしたのとか。いや、ここはまず友好の証としてこちらから手を差し伸べてにこやかに握手でもする?いや、ニュースでよく見る首脳会談でもするんか!?
そして今、何一つ頭の中で整理がつかないまま玄関先まで着いてしまったというのだ。
自分の一人暮らしの部屋に家族や恋人でもない人がいるのってこんなに違和感でしかないのか。ましてや、今日初めましての人だし余計に感じてしまう。
いや待てよ。ここって本来俺の部屋だよね?家主が悩む理由がどこにあるだろうか。俺は堂々と帰ってくれば良いだけじゃないか!なんなら、帰りがしらに「馳走を用意せい!」ぐらい言う権利あるんじゃね!
まぁ、俺は謙虚で礼儀正しいから?馳走を用意せいなんて言わないさ。こんな童貞の俺でも異性とのファーストコンタクト時の印象の重要性は理解している。
最初は腰を低くして入り、徐々に俺が家主としての権力を行使し始める。そして、ルームシェアを始めて1ヶ月ほど過ぎた頃には、住まわせてやってる側と住まわしてもらっている側の関係が完成していれば完璧。
よし、これでいこう。
これからのビジョンが見えたところで俺はドアノブをひねり、扉を引いた。
がぁこん!!!
こいつ、しっかりドアガードかけてやがった。
「どちら様でしょうか。」
家主じゃあ!とついつい言いたくなったのを抑える。
「帰りました、小野です。」
リビングの方からトタトタと足音がこちらへ近づいてくる。
「あぁ、ごめんなさい。今開ける!」
かこん。がちゃ。
「どうぞ。」
そう言って彼女は扉を開けてくれた。そのとき、恋花さんのお顔が悔しくもかわいらしかったため、ドアガードの罪は許してやった。
玄関の扉を開けてくれたことに対して、一応どうもと一礼して靴を脱ぐ。そこには彼女の履いていたであろうレディースもののスニーカーが一足並べてあったので、俺もそれにならい脱いだ靴を揃えた。
そのとき、俺の鼻はかすかに揚げ物の匂いを感じ取った。
もしかして、料理作ってくれちゃう系の女の子!?
廊下を通り、リビングへ入ると、私の目に入ってきたのは部屋の隅にまとめられている段ボールの山と、リビング中央のテーブルにある2つの大きなお皿にのった唐揚げであった。
「これ小野さんが配達してくれたやつ!一緒に食べようと思って。」
と、彼女はうれしそうに紹介してくれた。
馳走、用意したのほぼ家主の俺やん――――
――――なんてこと言ったら細かい男だと嫌悪感を抱かれると思い、口に出すことはやめておいた。
「それじゃ、俺ちょっと自分の部屋で着替えてきますね。」
「んじゃ、わたし夕ご飯の用意しておくよ!」
「あれ、食器ある場所わかります?キッチンの上の…」
「大丈夫!あんた帰ってくる前に物の配置や間取りは大体把握したから。」
「あ、そう。勝手に茶碗だの何だの使っていいんで。ご飯は冷蔵庫の冷凍の部分で凍らしてるのあるんで、もし食いたかったらチンしてください。」
「了解!では、ごゆっくり。」
俺は足早に自分の衣服がおいてある寝室へと入り、バイトで使ったリュックをベットに置いた。
恋花さんはおそらく悪い人ではないし、お仕事とかも効率よくこなすタイプの人なんだろうけど、遠慮とかそういうものを知らない人だな。
人のプライベートにも土足でずかずか入ってこれちゃうような。
ちん。
扉の外から電子レンジの音がしたのが聞こえたので、簡単に部屋着に着替え寝室を出た。
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