第3話

「......で......し.........どう......」


「...か......ない.........ごめ.....て!」


「ほんとに.........わけない...思っ......の!?」


「ほんとだって!今度.........奢るから」


話し声が聞こえる。姉と誰かの声。誰かが姉に怒ってるように聞こえる。あれ......なんで俺寝てるんだっけ。ゆっくりと目を開けると俺はソファーの上で仰向けで寝ていた。手を置くところに頭を置いていたため、起き上がって首をぐるりと回す。


「あ、起きた?」


首を回しながら振り向くと、今日の朝の美少女と姉がいた。ん?この人......あ、完全に思い出した。俺はこの人のバスタオル姿を見てしまったんだった。通りで顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいるわけだ。あれはラッキーだったと思うし、あの景色を忘れるつもりはさらさらないが、ここで謝っておかなければまずい。彼女の目は俺の記憶を消すためならなんでもするぞと語りかけてきている。


「あの...すいませんでした!!!」


ソファーの上だと誠意が伝わらないかと思い、床に足をつけ、近所迷惑にならないギリギリの声で謝罪する。


「...................」


10秒ほど経ってもなにも反応がないのでちらりと顔を上げて様子を伺ってみると、まだ頬を赤くしてそっぽを向いて、目も合わせてくれない。恥ずかしいことをされたのに謝罪だけでは納得がいかない顔をしている。



このままの空気ではまずいので何か打開策が必要になる。



んー......待てよ?なら……許せる理由を作ってやればいいんじゃないか?


「あの……あの!知らなかったとはいえ、本当に申し訳ないです。謝罪の意思を込めて、なにか僕にできることはないですか?」


こうすることでお姉さんに許してもらえて、さらに何かしらの関わりを持てて一石二鳥だ!俺としてはご飯を奢るのが一番いいのだが、何かを買ってあげるでも全然いい。謝罪の品だとしても少しの感謝や印象アップに繋がるからだ。多分。


「.........はい。またなんか埋め合わせしてもらうわ」


真っ赤になった顔を俯かせながらを恥ずかしさを隠し切れていない様子で携帯の画面をコチラに向けた。

その表情と仕草にやられて、一瞬とはいわず5秒ほど理解が遅れたが、バクバクと鼓動する心臓の音に耐えながら急いでMineのQRコードを読み取る。緊張して手が震えて2回ほど失敗したが3回目でようやく成功した。これで埋め合わせという口実で連絡先ゲット!なんだか幸先よさげだ。

少しホッとするも束の間、前を向くと彼女と目と目が合った。不意の可愛いに思わず目を逸らしてしまう。その逸らした先にはこれでもかというほど広角の上がった姉の姿があった。これにはさっきのように理解が遅れることもなく、瞬ですんっとなった。なんて恥ずかしいことを姉の前でしていたのだろうと思うと、顔が赤くなりそうだがこれ以上は被害が増えるだけ。もう今日はここで切り上げた方が得策だろうと判断する。なにより、早く一人で枕に顔をうずめないと死んでしまいそうだった。


「あ、、ありがとうございます。また連絡してください...!」


自分でも信じられないくらい顔が熱くなるのを感じながらも、最後まで言いきって即座に後ろを向いて自分の部屋に向かった。


ぼすっ 


綺麗に整えられた布団に大の字でダイブし、息が苦しくなるまでその体勢を続けた。後々になって、姉の友達だったのかとかなんで買い物に誘ってくれたのかとかいう疑問が湧いてきたが、その時は姉に見られていた恥ずかしさや、彼女の一挙一投足を思い出しながら悶えることで精一杯だった。

【早希】と左上に書かれたトーク画面を開いて、メッセージを送るか送らないかで葛藤し、朝までに一睡もできなかったのはいうまでもない。

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