第4話 スマホゲーム『グリ娘』

 ここは、グリム童話のキャラクター達が暮らす国、グリム・キングダム。


 その王国の片隅にある、田舎ではないが都会とも言い難い、小さくも大きくも無い中途半端な大きさの町に、赤ずきんが住んでいます。


「…ええっ!今からですか!?毎回言ってますよね!?急に来ないでくださいって!あらかじめアポ取ってくださいよ、眠り姫さん!!」


 赤ずきんは電話の向こうの眠り姫に言いました。すると、受話器の向こうから眠り姫の声が聞こえてきました。


「はぁ…。赤ずきん…。あなたはいつもそれね。だから、ツイッターで悪口書かれるのよ。」


「いや、それ書いたの眠り姫さんじゃないですか!」


「とにかく、今から行くから!鍵開けて待っておきなさい!」


 そういうと眠り姫は電話を切ってしまいました。


「…ちょ、ちょっと!眠り姫さん!?…もしもし!?…まったく、もう!」


 赤ずきんは大きな溜息を吐いてから、玄関に行き鍵を開けました。


 鍵を開けてまもなくしてドアがバーン!と勢いよく開き、それと同時に眠り姫が勢いよく入ってきました。


 眠り姫は部屋に入るなり、赤ずきんのところへ駆け寄ってきました。


「赤ずきん!遂に解決策がわかったわよ!ソシャゲを作ればよかったのよ!」


 眠り姫はそういうと自信満々な表情で腕を大きく広げました。


「…あの。端折り過ぎててわからないんですけど…。何の解決策ですか?…もしかして、グリム童話が今の時代に上手くやっていくにはどうするか問題のですか?」


 赤ずきんは呆れ顔をしながら眠り姫に言いました。


 すると、眠り姫は真っ直ぐ赤ずきんを見て「それ以外にないじゃない!」と返し、自分のスマホを取り出しました。


「今日はソシャゲのアイデアを考えてきたから、赤ずきんにも聞かせてあげようと思ってね!嬉しいでしょ!」


「…いや、別に嬉しくないですけど…。」


「まぁ、いいから聞きなさい!まず、どんなゲームにするかだけど…私が思いついた中で一番良さそうなのはこれね!」


 全く乗り気ではない赤ずきんを他所に眠り姫は話し始めました。


「グリム童話のキャラクター達がレースをするのよ!プレイヤーは、自分のキャラを育成するトレーナーとなって、共にレースに臨む。それでレースに勝ったらウイニングライブが…」


「ちょっと待ってください!…それ、なんか聞いたことあるんですけど…」


 赤ずきんは、手のひらを前に出して、眠り姫の話を途中で遮りました。


 話を遮られた眠り姫は、少し不機嫌そうにしながら言いました。


「なによ?私が思い付いたアイデアは、もう他の誰かがとっくに思い付いてたっていうの?そんなわけないじゃない!この独創的な発想が被るわけないわ!」


「いや、だって聞いたことあるんですもん…。ちなみになんてタイトルにするつもりなんですか?」


 赤ずきんに問われた眠り姫は、自信満々に答えました。


「グリム童話のキャラがレースで競うゲーム、通称『グリ娘』よ!」


「パクリじゃないですか!」


 赤ずきんは大声で眠り姫に言いました。


「いや、設定の時点でなんとなく気づいてましたけど、完全にウ○娘じゃないですか!しかも、タイトル『グリ娘』って!隠す気ゼロじゃないですか!」


 赤ずきんからの指摘に眠り姫は「チッ!バレたか。」と言わんばかりの不機嫌そうな顔をしました。そして、はぁと溜息を吐いてから言いました。


「…いい?赤ずきん。そのレアリティの低そうな赤い頭巾を取ってよく聞きなさい。」


「なんですか?…って誰がハズレですか!」


 プンスカと怒っている赤ずきんを他所に、眠り姫は続けました。


「前にも言ったけど、創作物なんてパクってなんぼよ!むしろ、パクるとこから始まるのよ!だから、多少似通ったところがあるくらい大した問題じゃないのよ!」


「いや、多少どころじゃないですよね、これ!?ほぼ同じじゃないですか!私も前に言いましたよね?内容が似てしまうのは仕方ないかもですけど、許される限度があるんです!許されるレベルじゃないですよこれは!鬼○の刃をほぼ丸パクリした鬼○の剣とかと一緒ですよ!」


 赤ずきんは眠り姫に捲し立てました。赤ずきんの言葉に眠り姫は少し臆しましたが、負けずに言い返しました。


「そ、そんなことないわよ!ちゃんとオリジナリティもあるんだから!」


 眠り姫は、スマホを何度もスワイプしました。


「向こうは競馬を題材にしてるけど、ここを他の競技にするわ!例えば、ギャンブル繋がりでボートレースとか!」


「いや、そのずらし方だと尚更パクリ感が増しますよ!」


「じゃあ、どうすればいいのよ?そんなに言うならあなたも何か案を出しなさい!」


 突然の眠り姫からの提案に赤ずきんは困惑しました。


「ええっ!…私関係ないじゃないですか!?そもそも乗り気でも何でもないですし…」


 赤ずきんは戸惑いながら答えました。しかし、眠り姫はそんな言葉では納得しません。


「私のアイデアに口出しするくせに、自分の考えが全く無いのはズルよ!いいから、私が間違ってると思うなら何か代替案を出しなさい!」


 赤ずきんは渋々、案を考え始めました。


「…う〜ん、速さを競う競技だとウ○娘に寄っちゃうんで、いっそ全く違う競技にしたらどうですか?例えば、サッカーとか!」


 赤ずきんは人差し指を立てて答えました。それに対して眠り姫は、やれやれと言わんばかりの呆れた表情でいいました。


「サッカーって…ありきたり過ぎるでしょ。全く、あなたは発想力のかけらもないわね。そんなアプリを作ったところで即刻サービス終了間違いなし。会社も倒産。借金で首が回らなくなって、挙句は身投げよ。」


「そこまで言わなくてもいいじゃないですか!正直、眠り姫さんのアイデアよりマシだと思います!サッカーがダメなら何にするんですか!」


 赤ずきんにそう問われた眠り姫は腕を組んで少し考えてから答えました。


「サッカーだとメジャー過ぎて真新しさがないのよ。もっと、マイナーでまだ手をつけられてないようなスポーツがいいわ!」


「…例えばなんですか?」


「そうね…闘牛なんてどう?」


「闘牛?」


 眠り姫のアイデアに赤ずきんは疑問符が頭に浮かびます。


「…それ、どういうゲームになるんですか?」


 困惑しながらそう問うてきた赤ずきんに眠り姫は説明しました。


「えっと〜、闘牛だからたぶん…牛を擬人化するのよ!つまり、牛を私とかあなたみたいなグリム童話のキャラクターにして、それでプレイヤーはマタドールとなって共に競技に挑む。それで最後はウイニングライブをする!これでどう?」


「…あの…眠り姫さん闘牛って最後どうなるかご存知ですか?」


「はぁ?…どういう意味よ?」


 眠り姫は首を傾げて、赤ずきんに聞き返しました。眠り姫からの問いに赤ずきんは言いにくそうに答えました。


「…いや、闘牛って最後に牛さんを刺し殺して終わるじゃないですか。つまり、その…。」


「え、そうなの…?」


 眠り姫は、少し戸惑いを見せた後、顎に手を当てて考え事をし、それからゆっくりと口を開きました。


「…覚悟はいい、赤ずきん?」


「嫌ですよ!刺し殺されるなんて!」


 赤ずきんは、大声で言いました。そんな赤ずきんを眠り姫は宥めながら言いました。


「まぁまぁ、実際刺し殺される訳じゃないし、いいんじゃないかしら。」


「それでも嫌ですよ!大体、そんなグロテスクなシーン見せられないですよね!?年齢制限でも設けるんですか!?リョナラー狙いですか!?」


「それもありね!」


「ないですよ!」


 赤ずきんに案を否定された眠り姫は、辟易としながらも食い下がりました。


「うるさいわねー。なら、最後は剣を刺すんじゃなくて、別のことにすればいいでしょ。」


「別のこと?…なんですか?」


 赤ずきんは、眠り姫に聞きました。それに対して眠り姫は顎に手を当て、目線を上にして、考えをまとめながら答えました。


「まぁ、あれね。親密度が上がるようなイベントとかでしょうね。今のソシャゲはキャラとプレイヤーが結構親密な関係になったりするのよ。キャラによっては恋愛を匂わせたりすることもあるわ。つまり、そんな関係になるきっかけみたいなイベントにすればいいのよ。」


「あ〜。アイ○スとかプリ○ネとかですね。まぁ、ウ○娘もですけど…。」


「そうそう。だから、やるとしたら恋愛を匂わせるイベントとかでしょうね!」


「えっ!ま、まさか愛の告白とかですか!」


 赤ずきんは、少し興奮気味に眠り姫に聞きました。しかし、眠り姫は首を横に振ってそれを否定しました。


「いや、それだと闘牛感が全くないでしょ。もっと、原型は留めておかないと。」


「…はい?違うんですか?じゃあ、どんなイベントなんですか?」


「闘牛の最後は牛を刺し殺して終わりでしょ?つまり、その形のまま恋愛を匂わせるのよ。」


「…え?それって一体…」


「親密な関係の男と女が刺すと言ったら、あれしかないでしょ?つまり、セ…」


「ちょおお!!何言おうとしてるんですかぁあああ!!!!」


 赤ずきんは、眠り姫の口をものすごい勢いで塞ぎました。


 口を塞がれた眠り姫はもごもごと何か言っていました。しかし、赤ずきんはそれを聞こうともせず、自分の言葉を続けました。


「急に何言おうとしてるんですかぁ!!それもう匂わせるとかいうレベルじゃないですから!!しかも、流れが不自然すぎるでしょうが!プレイヤーもわけわからないでしょ、それ!」


「うるさいわね!レースの後にライブするのも大概わけわからないでしょ?それにエロゲーとかだと不自然な流れでやってたりするわよ。魔力の受け渡しとか、能力強化とかよくわかんない理由つけてね!今はもうそういう時代なのよ!二次元キャラは全員漏れなく体売るのよ!さもなくば、あっという間に時代遅れよ!」


「いいですよ、それなら時代遅れになって!眠り姫さんの話には付き合ってられません!」


 赤ずきんは眠り姫に背を向けて走り出しました。それを眠り姫は大声で呼びかけて止めました。


「待って、赤ずきん!わかったわよ!そういう話はなしににするから他の案も聞きなさい!」


 赤ずきんは足を止めて、眠り姫の方に振り返りふくれっ面で言いました。


「…エッチなのはもうなしですよ。」















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