第1話 ⦅竜との邂逅⦆

あの神様の独り言が聞こえてから少しずつ体が浮遊したように感じた後、眩い光を感じなくなったので目を開けると、辺り一面木々に覆われた森の中にいた。

……………………………………………

(転送場所悪くない...?)

人がいる場所にワープさせるのは流石にダメなのは分かってるけど、辺り木しかなさそう。

人に会って情報集めたりしたかったんだけど、、それ以前に生きるのも危うかもしれない。

とりあえず、人気のある場所を、

「いやああぁぁぁっっ!!」

急に後ろから叫び声が聞こえた。

人はっけーーん......

そういう事じゃないんだよ...

とにかく早く向かおう。事態が良くなることを信じて。


さっき聞こえた声の方向だけを頼りに足を走らせていると、やがて、声の主を見つけた。

舗装もされていない道から外れ、少し開けた場所に”目の前の恐怖“から腰が抜けて動けないようだった。

それも仕方ないかな。彼女の目の前には、周りの景色とは違う異色、透き通った真っ赤の色の鱗で身を固める、“赤い竜”が彼女の事を静かに見つめていた。

その光景の違和感から、すぐに僕は行動に移した。

「逃げるよ」

横から彼女の体持ち上げて竜から距離を取る。

「...え?」

流石にすぐには理解できていないようだった。

近くの陰に二人で身を潜めて、ゆっくり彼女の体を降ろしてから事務的に概要を伝える。

視界の端で確認すると、特に竜は目立った行動を取っていないようだった。

「君は今すぐここから逃げて。大丈夫、自分の身の安全は自分で守るよ」

自分は戦えなさそうな見た目してるから、言葉だけで安心させられるか毎回疑問に思うけど。ま、言わないよりかはマシか。

「...で、でも、、!」

僕の言葉が信じられていないというより、目を泳がせて、なにかに迷っているように見えた。

しばらくの逡巡の後、彼女は遠慮しがちに口を開いた。

「あの竜の鱗が欲しいんです。そのためにここまで来たんですけど...」

どうやら竜に出会ったのは単なる偶然じゃなかったらしい。

...そっかぁ、鱗かぁ。

「とりあえず、今は身の安全が優先だよ。近くの街とかまで逃げた方が良い」

「...はい、わかりました、、気を付けてくださいね」

納得は出来ていないようだけど、理解したようで、そう言い残して足音を忍ばせながらこの場から離れていった。

その方向に行くと、街があるらしい。

(とりあえず、できるだけの事はやってみよう。最善は鱗の採取、最悪でも生還かな)

彼女をここまで来させた意思が無下にした手前、半端な結果を残したくない。

そんな目標と方針を心の中で掲げながら、踵を返し、未だ動きを見せていない竜に近付いた。


そのまま、竜の目の前まで進み出る。

一つの憶測という名の希望に賭けて、口を開く。

「ありがとう。待っててくれて」

少しを目を見張った後、竜も口を開いた。

「ほう、どうして分かった?」

そのやけに重厚感のある声を聞いて、密かに胸を撫で下ろす。

この竜は“言葉が通じる“事を言っている。

実際、博打に過ぎなかったから分かっていたって程ではないんだけど...

「理由としては一つ目、こうして僕が来るまで待っていた事。二つ目、敵意というより警戒、怪訝が見えた事。三つ目、僕たちの言葉にすごい小さいけど、反応していたこと。感情を消したいのなら目の感情を隠すべきじゃないかな」

指折りで数えながら自分の考察を伝える。

竜相手に何やってるんだろ僕。

「むむ、、そうか。隠し切れていなかったか...しかし、中々に難しい事を言うな?」

「そう?普通だと思うけど」

竜の世界ではそういうことは少ないのかな...?人の社会ではよくあると思うけど。

「そうなのか...もしや、仲間によくホラを吹かれていたのはそのせいか?だとしたら私も身に付けなければ...」

...なんだこの竜。思っていた以上に話が通じるんだが。驚きを通り越して少し不気味だ。

「まぁそんな事より、これだけ人間と話せるのなら彼女を説得なりすればよかったんじゃないの?」

「む...まぁいい。そもそも人間は我々竜に対して不愉快な偏見を持っているからな。まともに話せはしないわ」

「へぇ...」

竜への偏見?調べたい事が増えた。ま、まともに話せないのは人間が竜を恐れているからだと思うけど...

「でも、今こうして僕と話しているわけで」

「そうだな。何故か、お主だけ我の姿を見ても驚いたり怖がったりしない。そのおかげで我は貴重な体験しているがな!」

愉快そうに喉を鳴らして目を細める竜。本当に楽しがってそう。

「ははっ、まあね」

竜の目でも見抜けないとは。やるね、僕。

「お主、何か用があるんだろう?1つくらいなら聞き入れてやるぞ」

勝手に喋ってたのはどっちなのかな...

あっちの方が立場上だから迂闊な事は言わない。機嫌損ねたら面倒な事になるからね。

「鱗が欲しい。何に使うのかは分からないけどね」

「それだけで良いのか?それはあの女のやつだろう?」

「...?」

「一枚なら薬や消耗品にしか加工出来ないが、3枚あれば武器や防具に特殊加工出来るだろうし、その点を考えるなら...」

「ちょ、ちょっと待って?」

「なんならたくさ...うむ?どうかしたか?」

どうかしたか?じゃないんだけど...

「な、なんでそんな事するの?」

そっちに利益無いのになんで?

思いがけない返答だったのか、少し間が空いてから当たり前だと言わんばかりに竜は答えた。

「お主、別の世界から来たんだろう?ならば当然よ」

と言いながら鱗をさらに5枚渡してきた。

謎の気迫に押されて受け取ってしまった。

謎の特別待遇を受けた...けど、、

別の世界から来た人、言うなれば“異世界人”は前例がいるって事かな。

そしてさらっと僕が異世界人だとバレてる。なにか決定的な違いがあるのか...

ま、まぁ全く釈然としないけど任務完了かな。家に帰るまでが任務だけどね!...家無いけど。

「よく分からないけどその道理理解はしとく。ありがとね鱗」

「先程も言ったが、当然のことよ。然るべき時はよろしく頼む」

と言って遥か遠くまで羽ばたいていった。

...然るべき時?

しばらくは異世界人についてだいぶ調べた方がいいね。

日本で言うところの大学とか、国立図書館みたいなのがあればいいけど、そこを探すところからかな。

まずはこの爪を届けないといけないか。

そう思い、全速力で彼女が向かった方向に走っていた。

本人はこの竜の爪の価値を知らないで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る