視線の先には…

 よお、久しぶり。調子はどうだ?まぁ、座ってくれ。…ん?左眼に眼帯なんか付けてどうしたのって?それは追々話すさ。『ものもらい』かって?……ある意味、似たようなもんかな。


 …で、お前を呼んだのはちょっと最近困ったことがあってさ。相談に乗って欲しいんだよ。


 と言っても、実はその件が込み入ってるというか何というか、順序立てて話さないと多分意味が分からないようなモンなんだ。だから、今からお前には俺が何をしたかを順番に聞いてもらう…いいかい?


 ま、駄目って言っても聞いてもらうけどな。さて、えーとどこから話すか…。


 …ある日な、QRコードを見つけたんだよ。そう、あの携帯で読み取る白と黒の、ノイズの集まりみたいなやつ。


 え?最近じゃどこにでもあるって?そうなんだよ。どこにでもあるんだ。ファミレスのメニュー表とか街の看板とか、電車のドアにもあったりするよな。


 それでさ、俺一つ疑問に思ったの。「こんなにあるQRコードって、一体どこに繋がるんだ?」って。サイトに繋がる?そりゃ知ってるよ。知ってるけどさ、サイトに繋がるって言ったって全部が全部同じサイトじゃなくて、それぞれ別々のサイトがあるはずだよな。


 うん、分かってるよ。「何当たり前のこと言ってんだ」ってお前の顔に書いてあるもの。でも俺は気になっちゃったわけで、それでその日からはQRコードを見かけたら、絶対読み込むようになったのよ。


 まあファミレスとかはアレルギー表示とか割引クーポンとかに繋がってて、看板は店の宣伝。…知ってっか?電車ドアのQRコードはホームドアの認識とかに使われてるらしくって、俺達が読み取っても何も意味無いんだぜ?


 な?そういう気付きもあるんだよ。でさ、そうやって目についたヤツを読み込んでたんだけど、別の日の夜に暗い小道を歩いてたら、見つけちまったんだよ。電信柱に貼り付けられたQRコードを。


 どうせ不動産とかだろって?いやいや、それが違ったんだよ。というかもう見た目から違った。


 だってよ、そのQRコードの上にメチャクチャ気味の悪い、血みてえな色でさ、「みるな」って書いてあんの。平仮名で。


 うまい広告だと思ったね。俺、そんなこと書かれたら読み込まずにいられなかったもん。だからもうすぐ読み込んだの。ホントすぐ。


 で、そのURLに飛んだら何が映ったと思う?…お化け?ははっ、お前案外そういうの信じてんのか。


 …ちげーよ。映ったのは防犯カメラみたいな映像だった。いいか、「みたいな」映像だぞ。それを見終わった後に確認したけど、あそこの周りにゃ防犯カメラはなかった。


 その映像にはよ、俺が映ってんだよ。真正面の画角からリアルタイムで。びっくりして携帯落としそうになるところも、どこから映してるのかってカメラを探すところも全部。


 しっかし不思議なんだよ。どう考えても画角的にカメラがあるはずの場所には、電信柱とあのQRコードしかねえんだ。


 俺は気になってそのコードを調べてみた。と言っても近付いてマジマジと見ただけなんだけどな。そしたら…いや、信じてもらえないだろうけど、端にある黒い四角が動いたんだよ。目玉のようにギョロギョロッとよ。


 すげえびっくりしたよ。いや、さっきもびっくりしたけどそれ以上に。で、瞬きしたんだ。ほんの一回、素早く。するとどうなったと思う?。消えたんだよ、QRコード。文字と共に。


 夢を見てる気分だったよ。もしかしたら、俺はどっかで危ない薬打たれちまったのかなって考えるぐらい。


 けど、携帯にはURLが残ってんだ。「現実だぞ」って誰かが言ってるみてーに。ただし、もっかい開こうとしてもエラーになっちまうんだけども。


 そんで俺は怖くなって、走るようにアパートに帰った。酒飲んで寝れば忘れられるってな。


 ……その日の深夜、俺の身体に異変が起こった。痛え。痛えんだよ。痛くてあちぃんだよ。何かを焼印されるみたいに、左眼が。


 たまらず飛び起きて、何が起こってんだと鏡の前に行った。そしたらさ、こうなってたんだよ。


 これ、どうすればいいと思う?




 ──そう話終わって眼帯を取ると、彼の左眼球はQRコードのように、白眼と黒眼がぐちゃぐちゃに混ざっていたのだった。

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