第8話 聖歴152年6月13日、冒険者登録

 俺は手早く隣室で着替えると、ジューンが出て来るのを待った。

 ジューンはパンツスタイルで現れた。

 見たところ乗馬の恰好かな。

 馬に乗れるとは意外だ。


「似合ってるよ」

「おだてても。何やこのやり取りをしたような気ぃがするわ」


「雑談はこの辺にしておいて。これからどのダンジョンに向かうか考えよう」

「うちはモンスター退治した事がないねん」

「じゃ、今回は初心者に優しいので行こう」

「何や、もったいぶらずに早う教えてーな」


「行くのはスライム・ダンジョンだ。だが、スライムは強敵だ。その酸は侮れない。攻略方法を知らないと苦戦しちまう」

「知っているのなら、安心やね」

「おう、任せろ」


 俺は大げさに胸を叩いた。

 俺達は人工宝石を換金して、その金で灰を買いまくった。

 スライムの弱点は乾燥だ。

 乾燥に弱い。

 乾燥した灰を掛けると縮んで動けなくなる。

 大抵はこれで何とかなる。

 大抵じゃないのは秘密兵器にお任せだ。


「すぐにダンジョンに行きたいところだが、問題がある」

「なんや?」

「冒険者登録が必要だ。その冒険者登録には保証人が要る」


 そうなんだ。

 冒険者は護衛などを勤める事がある。

 身分などがはっきりしない人間をギルドに加入させたりはしない。

 金で護衛対象を裏切るような奴はお断りって事だ。


「なんや、それならうちが」

「保証人は商人か名士か貴族でないと駄目なんだ」

「うちなら大丈夫や」

「信じるよ」


 冒険者ギルドは儲かっているだけあって表通りの一等地に建っていた。

 中に入るといかつい男達が俺達を値踏みする。

 俺に視線を向けた奴はすぐにそらした。

 伊達に戦闘訓練はしてないからな。

 そこいらのスキル持ちでない冒険者など物の数ではない。


 冒険者ギルドは酒場が併設されていた。

 これは普通の事だ。

 情報収集するために必要なのだそうだ。


 酒場を除いたギルドは壁に掲示板。

 カウンターがあり、受付嬢が椅子に腰をかけて、業務を行っている。

 俺達はカウンターに歩み寄った。


 顔に傷がある男が俺達の前に立ちはだかる。


「そっちの嬢ちゃんは依頼を出しにきたのかい?」

「いいや、二人とも登録だ」

「そいつは上手くねぇな。見たところ、あんたは別に問題ない。嬢ちゃんはスキル持ちってわけではないだろう?」

「そうだな」

「じゃ通せないな。足を引っ張るような奴は登録させられねぇ。分かるだろ」


「お嬢様、ご命令を」

「排除しなはれ」

「かしこまりました。悪いな」


 俺は男を殴り飛ばした。


「文句がある奴は掛かって来い。お嬢様には指一本触れさせない」

「悪かった。そういう事か。貴族のお忍びと護衛か。あんたも苦労するな。貴族の道楽に付き合うなんてよ」


 殴り飛ばされた男が、立ち上がって頬をさすりながらそう言った。


「分かったのならいい」


 カウンターの前に立つと冒険者登録の用紙を二枚出してきた。

 用紙には名前、レベル、出身地、保証人、スキルや特技などのらんがある。


 俺とジューンはらんを埋めた。


「では保証人の証明書を」


 受付嬢がそう言ってこちらを見る。

 ジューンがポーチからカードを出すのが見えた。


「確認しました。商業ギルドカードですね。結構です。ではレベル確認の魔道具に触って下さい」


 俺とジューンは板の形の魔道具に手を置いた。


「はい結構です」


 受付嬢からタグを渡された。

 番号が彫ってある。

 159-32871だ。

 たぶん159が支部の番号で32871が俺の番号だろう。

 ジューンのは32872だ。


「スグリ様はレベル10以上なのでEランクからスタートとなります。ジューン様はFランクからです」


 ランクは依頼を受けても上がるが、レベルでも上がる。

 レベルで上がるのは実力者を下のランクの依頼で使わない為だろう。

 救済処置であり、ギルドにも利点がある。


 レベル1から9がF。

 レベル10から19がE。

 レベル20から29がD。

 レベル30から49がC。

 レベル50から69がB。

 レベル70から99がA。

 レベル100以上がS。

 レベルが100になってSランクになった者はいない。

 そりゃ、そうだ。

 レベルは上がれば上がるほど上がり難くなる。

 100は至難の業だ。


 タグに紐を通し首に掛ける。


「ジューンは商業ギルドに加入してたのか。あれって金貨1000枚の保証金が必要なんだろう」

「そうや。借金がどないしても返されへんくなったら、商業ギルドの保証金で払うつもりやった」

「じゃあ、頑張らないとな。大事な物なんだろ、商業ギルドカード」

「そうや、命の次ぐらいに」


「俺のスキルは商品が出せる。ジューンがこぢんまりした店を持ったら売ってもらうのもいいかもな」

「こぢんまりどころやない。大商会や。この国で一番の大商会や」

「そうだ。夢は大きくだな」


 準備は整った。

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