第13話

一旦家に戻るのがめんどくさいだけのことらしい。



「先生にバレたら怒られるのに」



水やりの花へ視線を戻してそう呟くが、その声は相手には聞こえなかったようだ。



「君は花に詳しいの?」



「ううん。だけど花は好きです。見ていると心が洗われるような気がするから」



特に水に濡れる花はキラキラと輝いていて、まるで宝石をまとっているようだ。



朝露に濡れるバラの花なんて高貴な女王様といった雰囲気を持っている。



「なるほど、君は純粋なんだね」



「純粋?」



そんなこと言われたことがなくて返事に困ってしまう。



自分自身、自分が純粋だなんて思ったことはない。



いつもどこか卑屈で後ろ向きで、だからこの病気ともうまく付き合えなくなっている気がしてならない。



そんな気持ちが顔に出ていたようで、伸びてきた彼の手が私の眉間をつんっとつついた。



「すっごいシワ寄ってる。おばあちゃんみたい」



そう言ってくすくす笑われて私はカッと顔が熱くなる。



「お、おばあちゃんって! ひどいじゃないですか!」



「あはは。だってあまりにもしかめっ面だったから、つい」



彼はおかしそうな笑い声を立てて言う。



「それより、明日の予定は?」



ひとしきり笑った後、不意にそんな質問をされた。



「明日ですか? 明日は普通に学校ですけど」



明日は平日で特別な休みでもなんでもない。



すると男はまた少し笑って「そうじゃなくて。放課後のこと」と言った。



一瞬キョトンとしてしまったが男が言わんとすることが理解できて、慌てて視線をそらした。



「ここに来ることもできますが……」



昼休憩中にキンパが先生に相談してくれて、本当にしばらく私が1人で花壇係を受け持つことに決まったのだ。



もしできない日があれば、遠慮なく誰かに頼ることを条件として。



「そっか。じゃあ、また明日ね」



彼は優しい声でそう言い、行ってしまったのだった。


☆☆☆


彼はどのクラスの生徒なんだろうか?



夜、自分のベッドに横になりながらぼんやりとそんなことを考えた。



明日も彼に会えると思うと心臓がドキドキしてなかなか眠れなくて、何度も寝返りを繰り返しているところだった。



そんな中、ふと何年何組の人だろうと考えた。



おそらく3年生。



だけどクラスまではさすがにわからない。



もしも学校裏だけでなく、学校内でも会うことができればもっと沢山会話をすることができる。



彼のことをもっともっと知ることができる。



そう思うと特別学級へ通っている自分がもどかしく感じられる。



普通のクラスに戻って彼を探すことができればいいのに……。



考えている間に自然と眠りに落ちていったのだった。

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