第27話「安産の行」
「マナミ、一緒に健康法教室に行かないか?」
武田が娘のマナミを誘っている。
「健康法? ヨガとか?」
「ヨガではないな、日本の健康法だよ、古くからあるやつ、何ていったっけな?」
武田は早坂さんにもらったチラシを見ている。
マナミも覗き込む。
「
「そうだ導引だ!」
「このチラシ、レポートみたいだね」
マナミが早坂さんの作ったチラシを見て言う。
早坂の作ったチラシは白黒で文字が並んでいるだけで、イラストも写真もなかった。
「91歳のお爺さんが自分でパソコンを使って作ったんだ、大したもんじゃないか」
武田は早坂さんのチラシを見ながら言う。
(しかし、これでは人は集まらないだろうな……)
ひまなので、マナミとタケルも一緒に健康法教室に行くことになった。
❃
早坂さんは、毎週金曜日の夜7時から1時間程度、自分の整体の店で健康法教室を開いて、いろいろな導引の技を無料で教えていた。
「武田さん久しぶりですね。そちらは奥様ですか? ずいぶん、お若い!」
「娘ですよ……」
「はっはっはっ、そうだと思ってました」
武田は娘のマナミとマナミの息子タケルを連れて3人でやってきた。
「今日は、何を教えるか、まだ決まってないんですよ。何か知りたいことありますか?」
早坂さんの健康法教室は習いにくる人も少なく武田達3名の他は、熟年の夫婦の2人だけである。
「娘が出産後に下半身の調子が悪いらしいんですが、そんなのに効く技はありますか?」
「ほう、出産後に……それは、けっこう普通にある話しかもしれませんよ。みなさん恥ずかしいから言わないし、病院に行っても手術か薬になるのかな? 病院では自然に治す決め手はないんじゃないですかね? 病院へは行きましたか?」
早坂さんがマナミを見て話すとマナミが話しだした。
「一度産婦人科で相談したんですけど、症状がひどければ手術の方法はあるということで、とりあえず『骨盤底筋体操』を教えてもらい薬ももらって飲んだんですが、良くはならないです」
「出産は上手く産めないと母体に負担がかかるようですね。そうだ! 今日は安産の
「安産ですか!?」
別に妊娠しているわけでもないので、武田は安産と言う言葉に違和感をもった。
「“安産の行”と行っても骨盤周りの気血の流れを良くする技で骨盤内の臓器に効く技です。私は、これを基本の技にしているくらい重要なものです」
早坂さんは、いいことを思いついたという顔をしていた。
❃
「さて、いくらまっても、もうお客様は来ないようなので始めようと思います」
健康法教室開始の7時になるが、お客様は武田達と熟年夫婦の合計で5名である。
お客様と言っても無料の講習である。
「今日やる技は『安産の行』です。安産と言っても、昔からそう言われているので、そう言いますが、実際にこれをすると安産になるのかは、私は試したことがないのでわかりません。むしろ中年からの排尿・排便を快適に維持するのに重要な技だと私は思っています」
早坂さんが5人に向い教えている。
「では、皆さん。床に座って足の裏をつけて下さい」
あぐらで座るような姿勢で右の足の裏と左の足の裏をピッタリとつけている。
「このとき、膝が床から上にあがっているほど骨盤周りの気血の流れは悪いということになります」
「マナミ、ずいぶん膝が浮いてるな!」
武田が娘の姿勢を見て自分より上にあがっている膝を見て笑いながら言う。
「お父さんだって、たいして変わらないじゃない!」
マナミは、少し怒りながら言う。
タケルを見ると膝が床についている。
「タケルは柔らかいな!」
武田が褒めるとタケルは嬉しそうに笑っている。
熟年夫婦はというと、こちらの2人の膝も床からずいぶんあがっている。
「では、次に足の先を両手で包むように持ちます」
早坂さんは、足の裏をつけたまま足の指先を両手で包むように持っている。
「このまま頭を前に倒します」
早坂さんの膝は床についていて、頭も床についている。
武田は膝が床から浮き上がり、頭も全然前に行かない。
マナミを見て自分と同じような姿勢なので、可笑しいんだがマナミが怒るので笑いをこらえている。
「武田家の家系は体が硬いのかな?」
笑いをこらえて、武田の腹が揺れている。
「お父さんの遺伝じゃないの?!」
マナミはキレ気味になっている。
タケルは簡単に頭が床についてニコニコしている。
「やってれば、だんだんと柔らかくなりますから、あせらずに気長にやってください。最初は呼吸を気にしないでいいです。なれてきたら呼吸にあわせてやってください」
早坂さんは、導引を人に教えるのが楽しそうだ。
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