第18話

 古ぼけた骨董屋と言えば顰蹙を食らいそうだが、実際外観はそうとしか言葉に表せぬくらい年季を感じさせる。

 

 俺はレインに導かれるまま錆びた鉄製の扉をくぐる。


「こんにちはー!」

「んあ? レインかい。らっしゃい」


 店の奥から現れたのは、片眼鏡を掛けた初老の女性だった。古着なような物に身を包んでいるが、どこか丁寧な所作を感じる。……貴族か?


「……久しぶりだね。ところでそこの男は誰だい?」


 ジロリと睥睨する老婆に、得たいの知れぬ威圧感を感じる。一瞬身を硬くする俺だが、図太さで売ってる俺としては逃げるわけにはいかない。


「どうも、初めまして。レインののユウ・エスペラントです」

「……ほう! 親友! 性根の腐ったようなお前がレインの親友か! カッカッカ!! 面白い!」

  

 親友部分を強調して自己紹介をすると、老婆は目を見開いたかと思うと、失礼な発言をしながら爆笑した。何が面白いのかは分からないが、俺を馬鹿にしていることは分かる。

 でも、事実だから何も言えないね!!


「あれ、お婆ちゃん。ユウと会ったことあるの? 性根が腐ってるなんて話さないと分からないと思うけど」

「お婆ちゃん!?」

「あ、言ってなかったっけ」


 言えよ!!

 お婆ちゃんと言えば……


「スノウ・ファインド先代王妃……様」

「はっ、隠居した老婆に様なんかいらないよ」


 随分斜に構えた態度だ。王妃の華やかさも健在であるのに、皮肉げに笑うスノウは様になっている。そのアンバランスさが面白い。


「ところでそこの坊主の性格を見抜いた話かい? 簡単な話さね。まず、性格の悪さが滲み出てる。これは年の功ってやつだがね。あとは……これ、だよ」 

 

 スノウさんは、トントンと片眼鏡を叩いて見せた。


「お婆ちゃん、それ魔道具?」

「そ。気紛れで作ってみた、性格診断道具さ。あんたは『ドクズだけど良い奴』って出たね」

「スノウさん、それ壊れてますよ。俺は良心のカケラもないただのクズですから」

「カッカッカ!! 自分で言うのかい! でも、レインはそうは思ってないようだね?」


 スノウさんはレインを見てニヤリと笑った。


「う、うん。まあ、ユウは確かにクズだよ。でも、僕を対等に扱ってくれるし、何だかんだ言いながら助けてくれるし……」


 頬を染めた──俗に言う(言わない)メス顔で呟くようにレインは言った。

 そんなレインをスノウさんは満足げに眺めて、『そう言っているけど?』と言わんばかりの目で見た。  

 俺はそんなレインに呆れながらも言う。


「レインはチョロいだけなんですよ」

「チョロくないよ!! 僕だって見る目はあるんだよ! 仮にも王子だし!」

「あったら俺を親友に選ばないだろ。お前俺だぞ? あいつとは関わるな、使用頻度ランキングトップの俺だぜ?」

「自虐が過ぎるって」

「ちげぇよ、誇ってんだよ」

「なおのことたちが悪い!!」


 言い合う俺たちを遠巻きに眺めながら、スノウさんは微笑んでいた。まさしくレインを見る目は祖母の顔が滲み出ている。あんなシニカルな態度をしていて、ちゃんと想ってるんだろうな。


「ま、あんたみたいのが親友になってくれると有難いよ。レインは踏み出せないタイプさね。引っ張ってくれる人の方が相性が良い」

「……それは心当たりがありますけど」


 微妙にバツが悪くて顔を逸らす。引っ張るというか連れ回すというか引き摺り回すというか。良い意味ではない。


「だからね、とりあえずお近づきの記しってことで……これをやる」


 スノウさんは、指程度の大きさの包を俺に差し出した。


「これは……?」

「耳に嵌めると相手の心の声を聴けるのさ。とは言っても精度はそこまで高くないが」

「さっきから大発明しかしてません??」

「お婆ちゃんは毎回こんな感じだよ?」

「マジかよ」


 魔道具ってすげぇ。


「じゃあ、性転換する魔道具とか──」

「絶対作らないさね」 

「え、ちょお婆ちゃ──」

「これに『あれ』が付いてるから興奮するんじゃない」

「あっはい」


 スノウさんの食い気味な剣幕に動揺した俺は即座に頷く。


 これはまさしく、レインの親族だな。王族やべぇ……。



 

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