第2話 敗北少女
〜敗北少女〜
騒ぐ町の人々を掻き分けその発端に迫っていく。
町では色々な噂が流れており、「カッコイイ青年が現れた。」だとか、「とても変なよそ者が町に入り込んだ。」だとか、全ては誰か一人の男の人を指すようなことを口々に言っていた。
噂の内容はどうでもよいが、気になるのは仲の良い商店街うちの一人のおっちゃんがその青年は私を探しているという情報を言い渡されたのでその青年を探してみることにしたのだ。
「おその、あの人ではないか?」
後ろにつく一人の男が声を上げた。
するとその声を聞いた町の人は道を開け、噂の青年の姿があらわになった。
「お〜。あの子が噂のお嬢さんか。はじめまして。」
やけに馴れ馴れしく私の方を向いて話しかける。
私はその青年を見て思わずぎょっとした。
体格差が違いすぎる。
後ろの男達もそこそこ立派な体つきを持っているが、この男は尋常でない。
そして次に目についたのは顔つきだ。
そりゃ、町の小娘達が声を上げるのも納得する整った顔つきだ。
でもだからといって強いかどうかは別だ。
この青年の体格はきっとかなり重量があるだろう。
だから動きがプロ並みかは別の話だ。
「そんなに警戒せんでええ。」
「け、警戒なんかしてないわ!」
ジロジロ彼を見ていたのは警戒してると思われたらしい。
とてつもなく調子のくるう事を言うやつだ。
あんまり好きなタイプではない。
「なんだよ。この町を騒がせてまで私を探して。いい迷惑だ。」
というと笑っている表情を変えることなくへらへらして言う。
「騒がせてしまってたんなら謝る。それより、この町で一番強い子というのは君でいいんだな。」
「ああ、そうだ。私は宮本小園。この町ではそこらの男相手には容赦しねぇ。おかげで沢山の仲間ができた。」
威張るように言うと彼は声を上げて笑う。
「そうか、そうか。ではその腕前を見せてくれよう。」
カチンッと脳内がはち切れそうであるがそこをぐっと我慢する。
彼は刀を鞘から引き抜くと「ほれっ」とそれを私に手渡した。
「その刀で私を殺してみよ。殺せれば賞金として多大な額をあげよう。」
「殺せなかったら?」
「私の命令に従ってもらう。」
「よっしゃ。後から命拾いしてももう遅いからな。」
私は刀を構えると後ろから肩を掴まれた。
「やめろよ。こいつは勝てる相手じゃない。それくらい小園にも分かるだろ?」
「怖いのか?でも相手は素手。本当に怖いもの知らずで呆れるな。下がってていいよ。ここは私に任せておけ。」
「でも...はぁ。」
こうなればおそのは言うことを聞かない事を知っているので大人しく他の仲間とともにこの場から離れた。
〜命令〜
「おりゃぁー!」
刀を振り上げると簡単に避けられる。
すると体を持ち上げられどすんと地面に叩きつけられた。
「いってぇー。」
「勝負ありだな。」
打ち付けられた背中を擦ってよろよろと立ち上がる。
「お前強すぎるだろ。それで、なんだよ私に何がしたい?」
手にある刀を彼に返すと刀を持っていない手で頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
「おまっ頭触んな。」
突然のことに驚き思わず頬を赤く染める。
「小園ちゃん可愛いな〜。」
「かわっ」
普段絶対に言われない言葉を言われて更にゆでタコになる。
この二人の様子を見た仲間の男達はそそくさと離れていく。
「あいつら何処行く...もう。」
名も知らない突然現れた彼に負けたこととそれに付け加え格下だとも言いたいのか頭を撫でられたことに思わず恥ずかしさで顔を背ける。
最悪だ。こいつの言うことに乗らなきゃ良かった。
後悔してもしきれないほどに落ち込む様子に面白がる彼はまた笑う。
「笑うんじゃねぇよ。」
「すまん、すまん。悔しかったら小園、もう一度挑戦できる機会をやろう。一日一回、私を殺していい。そしておそのちゃんの剣術の稽古をつけてやる。いいか?」
彼は手を伸ばして勧誘する。
「名前は?」
「私の名は
私はその手を取ってその誘いに乗ったのだった。
―――・・・
「
「そんな大声出さんくても聞こえる。」
刀鍛冶のじいさんの名は
ここらじゃ腕の良い刀鍛冶として称賛を経ている有名な職人だ。
そんな海蔵の腐れ縁である儂は話し相手をしてもらいに彼の家に訪ねている。
「今度はお前か。
「今度はて、最近仲良くなったやつでもおるのか?この無愛想の根本見つけたやつになんか焼けるな。」
「やめろ。胸くそ悪い。」
儂は思わず声をあげて笑ってしまう。
大きなリアクションしていても海藏は無言で作業をしていた。
その静かで一生懸命で真剣な佇まいが昔から好きだ。
「今は誰の刀を作っとるんだ?」
「最近やたらと話しかけてくる若い嬢ちゃんがおるんだ。いつも刀を目を輝かせてじっとみとる。」
儂は湯呑を口から遠ざけて目を見開く。
「若い娘の刀を作っとるんか!?それは危なくないのか?」
「大丈夫だ。」
海蔵は珍しく自身に満ち溢れた目をして言う。
「嬢ちゃんは刀の事をよく知っておる。だが一つ、掛けている部分があるがの。」
儂は「それはなんだ?」と聞いてやる。
すると海蔵は
「『愛』だ。」
その答えにフッと笑い湯呑に口をつけて海蔵の若い頃の姿を思い浮かべて「なるほど。」と一言添えてやった。
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