第12話 "NEO"、戦闘準備OK!


「……結局須藤もついてきたんだ」


「そりゃそっすよ! "NEO"様とお近付きになれるチャンスですしね!!」


「その、さ。様付けは止めてくれない?」


「無理っす!」


「……」


 何だかんだ、小敷谷の尾行に付いてきた須藤。

 多分僕とお近づきになりたいというのは本音なんだろうけど、もう一人証人がいた方が確実性が上がるという事だった。

 という訳で、須藤と一緒に小敷谷を尾行していたのだが、途中でこれまたイケメンな他校の男子四名と合流して和気藹々と話して歩いていた。


 ……桜庭が苦しい思いをしているのに、その張本人はよくもまぁ楽しそうにしているな。

 内心イラっとしていた。

 でもここで喧嘩を売ってしまうと証拠は確保できないので、怒りを抑え込んで尾行に徹した。

 すると、小敷谷メンバーはファミレスに入っていく。

 僕達も彼等より少し遅れて入り、小敷谷達が座った場所に近い席を確保した。


 僕と須藤はスマホを取り出し、ボイスレコーダーアプリを起動する。

 これも二人で同じ内容を録音していた方が、証拠として信憑性が増すだろうという須藤の提案だった。

 ドリンクバーを注文して、ジュースを飲みながら奴等が桜庭の話をするタイミングを待つ。

 すると、意外と早くその時が来た。


「しっかし、小敷谷も悪い男だよなぁ」


「振られたからって、女の子使ってある事ない事吹聴しまくったんだろ?」


 小敷谷のツレがそう話を切り出してきた。

 待っていたよ、その話をしてくれるのを。


「まぁな。この俺を振ったんだ、それなりの代償を払ってもらわないとな」


「本当、そちは悪い男だねぇ」


「うっせ、黙ってろ」


 そしてゲラゲラと笑う。

 全くもって笑える話じゃないんだけど。

 奴らの話はさらに下種度を増していく。


「でもさぁ、小敷谷があの桜庭ちゃんと付き合えてたら、ヤバい位エロイ身体を好きに出来てたんだろ?」


「そうそう。で、今までみたいに"お裾分け"してくれてたんでしょ?」


「そりゃそうさ。お前達がゲットした子を俺にも回してくれてるしさ。日頃の感謝をするつもりだったさ」


「ちぇっ、小敷谷でもオトせないなら、桜庭ちゃんの想い人はかなりのイケメンだぜ?」


「もしかしたら芸能人かも? だったら小敷谷でも太刀打ちできないって」



"お裾分け"?

 つまりこいつら、今まで小敷谷と付き合った女の子を複数人で……?

 こいつら、予想を上回る下種かもしれない。

 しかも小敷谷だけじゃなく、他のメンバーも同様の事をしているようだ。


 もし桜庭が小敷谷の告白を受けた時の惨状を想像してしまった。

 ……性的興奮はない、逆に殺意が湧いてくる。


 その後も奴等の下種話は続いていく。


「でさ、小敷谷はどうやってここまでネット上でも騒ぎになるように言ったのさ」


「全然簡単だぜ。ネット上でニュースもやってる週刊誌に、匿名メールで送ってやったのさ。本当はメール送ってから一週間後くらいには炎上するかなって思ったんだけど、twitterの捨てアカでも呟いたらあっという間に拡散された訳さ」


「うっわ、えげつねぇ」


「この俺を振ったんだ、それなりに痛い目を見てもらわないとなぁ」


 僕は小敷谷の顔は見ていないが、声が高揚しているように聞こえた。

 それに下品な笑い声も聞こえている。

 その後も前回の強姦紛いのプレイは最高だっただの、三時間程一人の女性を小敷谷含めて五人で回しただの。

 男子高校生が話すべき内容ではない程の、酷い内容だった。

 もうこいつらは遠慮しない。

 インターネットという広大な海の中で、デジタルタトゥー(最近覚えた言葉)を刻み込んでやる。


 僕達は十分な証拠を録音できた事を確認し、奴等が下種話で盛り上がっている隙に会計を済ませて、ファミレスを後にした。

 あまりにも長居すると僕達の存在に気付いてしまい、変に絡まれる可能性があるからだと、須藤は語った。


「……思った以上にやべぇ奴等だったっすね、"NEO"様」


「うん、ここまでとは予想してなかったよ」


「後は生配信をするだけっすね! 何時頃配信する予定っすか?」


「そうだなぁ、早ければ早い方がいいね。十九時辺りを目安でやろうと思うよ」


「なるほどっすねぇ」


 すると須藤はスマホを見て、何か考えている様子だった。

 そしてスマホを高速で捜査している。

 ……何をしているんだろう?

 五分程経った頃、須藤は僕をじっと見つめた。


「よし、"NEO"様! 俺にもう少し時間を貸してもらえないですか?」


「全然いいけど、どうして?」


「ふふふ、"NEO"様が復活するんです! その陰キャっぽい髪をどうにかしましょう!!」


「えっ、別にいいよ」


「よくねぇっすよ! いいですか、俺らファンからしたらあなたの復活は心待ちにしてたんすよ!」


「う、うん」


「それがこんな陰キャみたいな見た目になってたら、がっかりして最後まで配信を聞いてくれないっすよ!?」


 随分と陰キャ陰キャと連呼してくれるね。

 こいつ、本当に僕のファンなの?

 目の前で本人をディスってる事に気付いてほしい。

 でもそうだね、須藤の意見は一理ある。

 今回の生放送は、桜庭を救出する事が目的だ。

 より多くの人に聞いてもらうには、見た目でがっかりされてはいけないな。


「わかったよ。あまり美容院とか詳しくないから、須藤に任せてもいいかな?」


「もちろんっすよ!! 俺のツテに頼んで予約できたんで、準備ばっちりっす!!」


 ……凄いな、陽キャの伝手は。

 こんな短時間で美容院予約出来ないだろうに。


 こうして証拠も揃えて、髪も整えて、配信機器を用意した。

 そしてtwitterに生配信の予告もした。

 自分でもびっくりだったんだけど、僕が呟いた瞬間、たった十分程度で1000いいねと100リツイートされていた。

 配信一時間前位になると、どうやら大手ゲームニュースサイトが速攻で記事にしてくれた。


『伝説のFPSプレイヤー"NEO" 3年の沈黙を破って生配信を予告!!』


 この記事も随分と拡散されているようで、生配信を見てくれる視聴者の数も期待できた。

 という感じで、今に至る。


 生配信十分前となった今、心臓の鼓動は早い。

 久々の配信だから、とても緊張している。

 だけど、僕は桜庭の今の状況を打破したいんだ。

 絶望していた僕をここまで救い出してくれた桜庭に、恩を返したい。


「……さぁ、始めるぞ。一世一代の恩返しだ」


 僕は自分の両頬を叩いて気合を入れ、機材トラブルがないかもう一度チェックをした。










 ――須藤 竜彦視点――


『特ダネ! 桜庭さんが無実の罪だったっていう証拠を流す生放送があるらしいぜ!』


 俺は"NEO"様に頼まれた通りに、生配信が行われるURLをクラスのグループメッセージに張り付けた。

 後は俺の友達ネットワークを使って、先輩や後輩にも送り付けた。

 彼等は俺と同様に幅広い人脈を持っているから、きっと面白がって拡散してくれるはずだ。


 クラスの皆も、かなり興味を持ってくれたようだ。

 よしよし、いい波が来てるぞ!

 後は"NEO"様が上手く配信してくれれば、桜庭っちの噂も根こそぎ洗われるに違いない。

 

「しっかし、人ってきっかけがあるとあんなに変わるんだなぁ」


 実は俺、前々から橋本っちとは話したいとずっと思っていた。

 色んな人と関われば、自分の視野も広がって世界も広がり、面白い話が沢山聞けて楽しいからだ。

 でも、橋本っちは何もかもに興味がないような表情をしていた。

 もっと酷く言うなら、生きているけど死んでいるような存在だった。

 陰キャは今まで沢山見てきたけど、橋本っちの場合は陰キャで済む話じゃなかった。

 だから話し掛けるきっかけも掴めずに、今日まで来てしまったんだ。


 でも、橋本っちは桜庭っちと出会って大きく変わった。

 今日なんて「今までの橋本っちは何処行った!?」って思う位の変わり様だった。

 しかも、橋本っちがまさか"NEO"様だったなんて、思いもよらなかった!

 もうね、FPSの神プレイヤーである"NEO"様の為なら、俺は喜んで死にますよ!!


 とにかく、俺が出来るのはここまで。

 舞台も整ったし、俺は見守らせてもらう!


「さぁ、頑張ってくださいね、"NEO"様!!」


 残り十分で配信スタートだけど、一時間位に感じてしまう程待ち遠しかった。


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