コーヒーと博士と助手の話


「助手君よ、『ひらめき』とは何か知っているかい?」


僕と博士しかいない研究室では、今日も博士のそんな声が響く。


「え、『ひらめき』ですか?……ちょっと待ってくださいね、今スマホで調べますから。」


「いや、別に意味を忘れたから君に訊いたわけじゃないんだよ。」


「あ、そうなんですね。じゃあ、何ですか、エジソンみたいなことを言うつもりですか?」


「あぁ、あの『天才とは、1%のひらめきと99%の努力である』っていう奴かい?」


「そうですそうです。それかなと思ったんですけど違うんですか?」


「うーん、もしかしたらそれに近いかもしれないな。」


「ほう、それで博士の思う『ひらめき』って何なんですか?」


僕がそう聞くと、博士は嬉しそうに微笑む。


「うむ、よくぞ聞いてくれた!いいかい、助手君、『ひらめき』とはカフェインとポリフェノールから生まれるのだよ!」


「……カフェインとポリフェノールから?……つまり……?」


「つまりはコーヒー切れという訳さ!という訳でコーヒーを注いできておくれ!」


「……もしかして、さっきから『ひらめき』くだりは僕にコーヒーを注がせるためだけに……。」


「そりゃそうだろう。私が自分で注ぎに行くと思っているのか?」


そう言いながら、椅子にふんぞり返る博士。

僕はそんな博士の様子にため息をつきながら、博士のコップを持って台所へと向かう。


「流石、助手君は優しいね!」


「……ですが、博士。僕にコーヒーを注ぎに行かせたという事はその分、実験のレポート進んでるんですよね?」


「……」


「博士?」


「……善処しています。」


「はぁ、その様子ですと、またコーヒー漬けにして眠らせないようにしますよ。」


「そ、そ、それだけはご勘弁を!」


「ならサッサと手を動かして、サッサと終わらせてください!」


「は、はい!」




そうして、僕は冷や汗を滝のように流しながら作業をする博士を横目に見ながら、コーヒーを注いでいくのだった。





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