20.

 商業国家でしばらく過ごしてみて、リオンの気遣いのおかげかとても快適に、そして充実した毎日を過ごすことが出来ていた。

 立場としては次期元首の秘書のような役割を割り振られ、仕事の場に同行した。

 きちんと秘書として雇われているのは男性ばかりが五名程で、交代で一人、次期元首に付き従う。

 年齢は様々で、リオンと同年代から上は父親程離れた人物もおり、皆がそれぞれの分野で専門知識を有しており、とても優秀な者達である。

 魔道具に関してはリオンが最も詳しく、自ら買い付けに行くのはもっぱら魔道具に関してだという話だった。

「エレミアに会う為に皆公爵家に集まるだろう?だから魔道具だけでなく、色々な品を目にする機会も多い。俺としては一石二鳥というやつなんだ」

 と笑顔で言われてしまえば、素直に喜ぶしかない。

 公爵家の女性達の意見も重要だと言われ、そこでエレミアは首を傾げた。

「そういえば…わたくしがこちらでお世話になってからもう二週間以上経つけれど、リオン兄様の仲の良い女性達のお話を聞かないし、見かけないわ。わたくしに気を遣ってくれている?」

 女性の意見ならば彼の「仲良し」が大勢いるのだから、聞けば良かろうと言えば、リオンは嫌そうに顔を顰めてみせた。

「彼女達に意見を求めることはないぞ?それにエレミアの婚約破棄が確定してから全部切ったし、そもそも向こうから寄って来るから相手していただけで…って、ああ、誤解しているな?」

「…誤解って?」

「…そうだな、ずっと外出しっぱなしだったし、たまには屋敷の庭園を散歩でもしようか。案内しよう」

「…ええ…?」

 手を取られ、元首邸の応接室を出た時刻は午後三時過ぎだった。

 今日は朝から魔道具の商談の為に魔導王国へと出向いており、戻って来たのは先程だった。試作品の改善点等を話し、転移指輪のようにすでに話がまとまっているものの契約であったり、改良された魔道具を試してみたりと、とても楽しい時間を過ごした。

 やはり自分はこういう仕事をやりたいな、と思うに十分であり、秘書のような立場でかつ意見も言わせてもらえ、いずれは自分の手で新たな商品を手がけたりもしてみたいという思いは強くなるばかりであった。

 元首邸の庭園は、いわゆる英国庭園に近い。

 計算され尽くした花壇の配置、刈り込まれた木々、整備された散歩道。

 いつか、日本庭園のようなわびさびを感じる庭園を手がけてみるのもいいかもしれない、などと思いながら、全面ガラス張りの廊下を歩く。

 時期的に真冬である為、外には出ず回廊を歩いて温室へと向かうようだった。

 商業国家の首都は南部にあり、雪は滅多に降らないと言う。

 年に数日降ればいい方で、積もることは非常に稀なのだそうだ。

 北部へいけば鉱山があり、山脈がある為雪深い地方もあるそうで、温泉の出る地域は保養地として有名である。

 リオンは一人で出歩くことを好む為、従者やメイドもついていない。

 秘書も会社に置いてきており、自邸に来ることは滅多にないらしい。

 元々貴族ではない。身分で言えば平民である。

 バージル王国の貴族達は商業国家のことを下賤の国、と呼んで蔑んでいるが、そもそも商業国家が出来たのは、我が公爵家が各国と話し合い、物流を円滑に行う為、中継地となる場所に商業を専門に行う国を作ろう、と働きかけたことがきっかけなのだった。

 身分で言えば平民だが、各国の王族や上位貴族とも対等に商談が行えるだけの権威を持っている国なのだ。

 外国対応を全て公爵家に丸投げし、利益のみを享受してきたあの国の民達は預かり知らぬことである。公爵家自身が、己の功績をひけらかすような真似を良しとせず、我が国においてはひっそりと息を潜めるようにして存在し続けているのだから、無理からぬ話ではあるのだが。

「エレミア」

 静かに名を呼ばれ、隣を歩く男を見上げれば、優しい瞳がそこにあった。

「俺は年が明けたら二十七になるんだが」

「ええ、そうね」

「何故この歳になるまで決まった相手がいなかったと思う?」

「……ええっと」

 好きな相手がいなかったから?

 などという、ありきたりな返答は求められていない気がした。

 微笑む男はいつもと変わらず優しいけれど、どこか茶化してはいけない雰囲気があった。

 これまでのエレミアや家族、そして親族を取り巻く環境を考える。 

 …そんな風に言われたら、考えてしまう。


 エレミアが婚姻するまで、もしくは婚約破棄をするまで待っていたのではないか、と。


 戸惑う風に首を傾げれば、男はくすりと笑んだ。

「俺と、マークと、フェリックス。それにまだ若いがハリーに決まった相手がいないのは、諦め悪く待っていたからさ」

「……」

 それは。

 やはり。

「君には生まれた時から婚約者が決まっていたが、公爵家の誰も望んではいなかった」

「…そんな気はしていたわ」

「そうか。君が婚約者を心から愛し、嫁ぎたいと望むのなら喜んで受け入れよう、だがそうでなければその限りではない、とね。その時には国を出て、自由に生きさせてやりたいと、親戚一同には話をしていた」

「…知らなかったわ」

「そりゃそうさ。婚約者も君を求めて愛するというのなら、断る理由がないからな。立場もある。相思相愛でいるというなら、これからも公爵家はあの国の一貴族として、あの国を支え続ける覚悟だった」

「そうだったの…」

「君と初めて会ったのは、君が生まれてすぐの時だ。ずっと成長を見守ってきたが、親心、というものではついぞなかった」

「……」

「もう一人の兄として接して来たつもりだった。だが君はとても聡明で、人を思いやることが出来、そして自分を殺していた」

 ああ、と、エレミアは思う。

 気づいてくれる人がいたのだ。

 温室への扉を開けて中に入れば温かく、一面の色とりどりの薔薇に迎えられる。

 甘く芯に届くような香りを楽しみつつ、二人はゆっくりと歩いた。

「いつだったか、五歳だったか。君が初めて婚約者に会ってからだと思うが、君は感情を表にあまり出さなくなってしまった」

「…そうだったかしら」

「婚約者がそれを望むから、と、君は自分を殺して相手に合わせることを選択した。それが幸せだとは俺には思えなかったが、公爵家の皆は見守ると。様子を見ると言われてしまえば、外からは何も言えん。公爵邸にいる時の君はいつも通りに明るくて、皆が大好きなエレミアだった」

「…心配をかけてはいけないと思っていたから」

「そうなんだろうな、とは思っていた。…ずっと、君の想いがどこにあるのか、誰もわからなかった。婚約者に女の影が見え始めたのは学園に入ってからか。その時点で皆怒り心頭だったが、それでも君は変わらなかったから、婚約者の方も君を愛しているのかもしれないと。君の愛情を試しているのかもしれないと。君が望むなら、女を排除し、万難を排し、幸せになれるよう尽力するつもりだと言っていたが…俺達は正直、エレミアという婚約者がいて、生まれながらに最強の幸運を持つ男のくせに許せないと思っていた。捨てられろ、と願っていたし、君に捨ててやれ、と言いたかった。…で、結局ずっと待っていた」

「…物心着いた時には婚約者がいると知って、実際に会った相手はとてもじゃないけれど歩み寄れるような人ではなくて、…諦めてしまったの。四代ごとに虹色の瞳を持つ娘は王家に嫁がねばならないと決まっていたから。仕方がないって。せめて家族や皆の前では、明るく過ごそうって」

「…よく婚約破棄を決意したな」

 ベンチに並んで腰掛け、安堵したように漏らす男に、笑みが零れた。

「だって、気づいたの。他国では皆親切にしてくれる。家に遊びに来てくれる皆はとても優しい。公爵家はこの大陸にとって無視できない存在なのに、あの国は違うの」

「…そういう風に公爵家が振る舞っていたからだな」

「ええ。それはわかってる。それでも四代ごとに王家と交わるその意味を、王家はどうして考えてくれないのだろうと思っていたの。わたくしはあの王太子殿下に初対面で「気持ち悪い」と言われたわ。生まれた時から決まっている婚約者なら、どうして仲良くしようと思わないのだろうって。…生理的に無理、というなら仕方がないけれど、ならば婚約は無理だと言って欲しかった。ずっと避けられていて顔を合わせることもなく、学園に入る頃になってようやく顔を合わせたと思ったら、他に女性がいた。…ならばきちんと手順を踏んで婚約解消をして欲しかった。…わたくし、いつまで我慢すればいいのだろう、って思ったわ。死ぬまで諦め続けなければならないのかって。…ふふっそうしたらね、あの殿下が言ったのよ。「あいつとは婚約を破棄する!」ってね。仲良しの女性に向かってね。ああ、解放されるのかと思ったら嬉しくて。…でも同時に、わたくしを貶め、公爵家も貶める算段なのだと知ったの。…なんだか、悲しくて馬鹿らしくて。ならいいや、って、もういいや、って、思ったのよ。証拠を集めて家族に見せて訴えて、それでもダメなら逃げようって」

「…「気持ち悪い」の段階ですでにその男を殺したくて仕方がない所だが」

「ふふ、ありがとう。わたくしの周りにいてくれる人達が、優しい人達で本当に良かった。わたくし、とても救われたのよ」

「なるほど。ならその男は、女と幸せになればいいな」

「そうね。本当にそう。家族が国を出るというなら、願ってもないことだわ。わたくしもあの国には何の未練もないもの!」

「短い幸せに浸って死んでいけばいい」

「…関わり合いにならなければ、それでいいかな、と思っているのよ」

「エレミアこそ優しすぎる」

「そんなことない」

「エレミアの事情はわかった。そのおかげで、と言っては何だが、俺達はようやく動けるようになったんだから」

「…リオン兄様…?」

「エレミア」

「え、はい」

 正面から真剣な表情で見つめられ、エレミアの鼓動が跳ねた。

 これ程までに真面目なリオンの顔を、今まで見たことがあっただろうか。

 両手を握り込まれ、その熱さに身震いした。

「俺はエレミアがこの国に来てくれるなら、エレミアを生涯愛すると誓おう。浮気と疑われるようなこともしない。結婚してくれるのが一番だが、急ぎはしない。仕事をしたいのだろう?全力で支援しよう。俺は君と共に幸せであり続けたい」

「……」

 さすがにエレミアは絶句した。

 これ以上ない程に誠実な言葉だと思ったのだった。

 

 この国にいれば彼はエレミアを生涯愛してくれるのだと言う。

 

 エレミアが他国を選ぶなら、彼は他の相手を婚姻相手として選び、子を為し、元首一族としての血を繋いでいくのだろう。

 それは責められないし、責任ある立場としては当然のことである。

 「ずっと自分だけを愛してくれなきゃイヤ!」だなんて妄想が通じるのは、それが許される環境にいる者だけだ。

 仕事をしたいという望みを理解してくれ、急がないとも言ってくれる。

 「幸せにする」ではなく、「共に幸せでありたい」と願ってくれるのも嬉しいことだった。一緒になるなら、二人ともが幸せでなければ意味がないではないか。

 自分も相手を幸せにしたいと思うし、二人でいること自体が幸せであれば、何も恐れることはない。

 前世、自分にはそれが出来なかった。

 相手からは要求ばかりされ、こちらからの要求は全て拒否されていた。

 おまえは駄目な人間だと言われ続け、俺が許してやっているからおまえが好きなように働けるのだと言われた。

 仕事も家事も完璧にこなすのが当たり前、「俺は男子厨房に入らずの家庭で育ったから」と本人は何もしない。

 いつの時代に生きているのだと思ったが、旦那だったその男は大会社の社長の息子であり、外面だけは良く、周囲は彼の味方であり自分の意見は通らなかった。

 義両親と上手くいかないのは私のせい、子供が出来ないのは私のせい、俺より稼ぎもないくせに、偉そうな口を聞くなと言われ続け、家事も完璧に出来ない駄目なおまえでも、俺は我慢してやっているのだ、と言われ続けた。

 

 恋愛をして、互いに好きで結婚したはずなのに。


 きっと、話し合いが足りなかった。

 向こうが求める夫婦の理想と、こちらが求める夫婦の理想は乖離しすぎていたことに、結婚してから気づいてしまったのだった。

 言い訳はいくらでもできる。

 付き合っている時は優しく、年上だった彼は甘やかしてくれた。

 「結婚しても仕事を続けてもいい」と言い、「家事も手伝うから!」と言ってくれた。

 「子供はしばらくはいなくていい。夫婦二人だけの時間を過ごそう」と言ってくれたのだった。

 勉強一筋で大学院を卒業して数年、ようやく仕事にも慣れ、恋愛する時間が取れた自分は、精神的に幼く、若かったのだった。

 彼の言葉を信じて結婚し、蓋を開ければ手伝う家事は「捨てるだけの状態になっているゴミ袋を集積所に捨てに行く」だけだったし、仕事は彼より遅く帰れば「腹が減った」と自分はソファに寝転がって動画を見ているだけだった。

 「二人の時間を過ごそう」と言いながら、休日は家事を片付け、家でゆっくりしたい自分を外へと引っ張り出し、彼の行きたい「買い物」や「友人との遊び」に無理やり付き合わされる。

 そして家事が出来ていないと、「我慢してやっている」と言うのだった。


 何度喧嘩しただろう。

 何度訴えただろう。 


 家事を完璧にやって欲しいと言うのなら、ハウスキーパーを雇えば良い。私の稼ぎから出すからと言えば、「手を抜いて楽をしようとするな」と言われる。

 「家事が出来ないなら仕事なんてやめちまえ。小遣いが欲しいなら近所でバイトでもすればいい」と言われ、専門職だった私のキャリアもスキルも全て否定された。

 付き合っている時に言っていた彼の言葉は、全て「俺が許可する範囲内で」という注釈がつくものだった。

 彼自身に妥協するとか、協力するとか、そんな気持ちは微塵もなかったのだ。


 彼の言う通りに出来る女ならば良かったのだろう。

 

 仕事も家事も完璧で、彼の言うことに何でも頷き、休日には彼に付き合って出かけることが出来る。

 …残念ながらそんな立派な人間にはなれなかった。

 仕事を辞め、彼の言う通り家事に影響が出ない範囲のバイトでもすれば良かったのかもしれない。

 だが今まで自分が積み上げて来た全てを否定して来るこの人の為に、自分を殺してまで尽くしたいだろうかと、考えたのだった。

 

 私は何の為に生きているの。

 

 この人との老後を考えた瞬間、全身が拒絶で震えた。

 死ぬまでこんな生活を続けるのかと思った瞬間、無理だと思った。

 自分を殺し、彼の望む通りに生きるだけの人間。

 

 そんなの、生ける屍だ。


 他の誰かには出来ることかもしれないが、私には、無理だった。

 それは自分の望む幸せでは、なかった。

 限界を迎え、耐えられなくなってようやく離婚した時にはすでに疲れ果て、魘される毎日を過ごした。

 彼の望む通りの人間になれなくてごめんね、と思う。

 彼の望む通りの人間が、今度こそ見つかるといいですね、と思う。

 自分の関わりのない所で、幸せになって下さい、と思う。


 私とは合わなかった。それだけなのだと思えるようになるまでに、しばらくかかった。


 幸いその後は友人や仕事にも恵まれ充実した人生だったが、同時に後悔は残ってしまった。


 愛したいし、愛されたい。

 大切にしたいし、大切にされたい。

 尊重したいし、尊重されたいのだ。

 

 …そこまで考えて、気づいてしまった。

 エレミアとして転生したのは、エレミアもまた同じような人生を送っていたからではないか。

 前世の自分は逃げられたが、公爵令嬢であるエレミアは、立場上逃げられない。

 前世を思い出さなければ、全てを諦め、自分を殺し、そして夢で見た展開を迎えていた可能性は高かった。


 ならば自分はやはり、幸せになる為に前世の記憶を思い出したに違いない。


「…わたくし、思ったのだけれど」

 半ば呆然としながら呟けば、じっと言葉を待っていた男が軽く首を傾げてみせた。

「うん?」

「わたくし、この国に来てリオン兄様と回ったお仕事、楽しかったわ。わたくしもそういう仕事、やりたいって思ったの」

「…バイヤーか?ディレクターか?」

「どちらかと言えばプロデューサーになるのかしら。色々な国を回って、色々な物を見て、物だけじゃなくてサービスだったり新しい技術だったり。買い付けたり話を繋げたりしてみたい」

「ああ、それなら俺と一緒にやればいい」

「…リオン兄様と?」

「君の両親のように、俺の両親のように、一緒に出かけて、一緒に関わればいい。そうすればずっと一緒にいられるし、やりたい仕事も出来るだろう」

「…そうね、それが理想かもしれない」

「決めてしまっていいのか?それはすなわち、もう逃げられないってことだぞ?」

 からかうような口調だが、見つめてくる瞳は真剣だった。

 だからエレミアもまた、真面目に返そうと一つ深呼吸をする。

 

「…まだあと二国お邪魔する予定があるから、返事はそれまで待ってもらえたら嬉しいな」


「そこは勢いで頷く所じゃないのか!」

 すかさずツッコミを入れられ、エレミアは声を上げて笑った。

「それはそれ、これはこれ」

「…やれやれ…」

 溜息をつかれたが、不快を感じさせるものではなく、仕方がないな、という寛容のそれであったので、エレミアは安堵した。

 リオンは見かけで随分と舐められることも多かったと聞くが、今では誰も次期元首としての資質を疑う者はいない。

 彼は自分の実力で、自分の価値を示すことの出来る男であり、そして辛抱強く、また優しくもあるのだと思う。

 少なくともエレミアに対して不誠実だったことはないし、不親切だったこともない。

 いつだって頼りになる強い男であったのだ。

 だからエレミアは、彼のことを親しみを込めて「兄様」と呼んでいた。

 年上だったことはもちろんあるが、家族のように近しく、彼女のことを考えてくれる人だったのだ。

「ねぇリオン兄様」

「何かな」

 だからエレミアも、彼に対しては素直に、誠実でありたいと思う。

「卒業式を終えて進路を決めたら、わたくしの気持ちを、聞いてくれる?」

「もちろん。何でも聞こう」

「ふふ、ありがとう」


 心はすでに決まっている。

   

 目の前にいる彼の周囲に、女はいなかった。

 馴れ馴れしく近づいて来る女もいない。

 本当に関係を切ったのだ。

 全てはエレミアの為に。

 言葉だけでなく行動で示してくれる。

 これほど嬉しいことがあるだろうか。

 エレミアが生まれた時から知っている彼は、ほんの一部でしかないのだろう。

 現に、謎がある。

 けれどそれもおそらく、聞けば教えてくれるだろう。無理なら理由を話してくれるだろう。

 そう、信じることができる。

 不思議だと思うけれど、彼には齟齬がなかった。

 エレミアが知っている彼と、自国にいる彼と。

 それだけで、十分ではないだろうか。

 他国の王子達は、そうではなかった。

 まだ二国あるけれど、それでも印象は変わらない。

 婚約だとかはまだ早い。

 でも就職するなら、ここがいい。


 きちんと向き合って話し合うことができる。


 それは、前世日本人として生きた女としてだけではなく、公爵令嬢エレミアにとってもとても大切なことなのだった。

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